93 僕は友達がいない 1

ある日の事だ。
お昼ごはんを学食で食べた後、俺とコーネリア、メイリン、マコトの4名は相変わらず揃いも揃って廊下を闊歩していた。学食から教室へと戻る途中の廊下、部活募集の張り紙が沢山貼ってある掲示板だ。
その時、ふと俺の視界の隅っこに何かが引っかかった。何かそこにあるべきでないものがあったから気づくのだと思う。
「どしたのキミカちゃん?」
とマコト。
「いや、いま、なんかあったような…」
「部活募集の張り紙だね」
一つ一つをまじまじと見てると…あった。
そこにあるべきでないものが。
「『友達募集』?」
「友達募集って…なんの部活なのかな?っていうか部活なら部員募集でしょっていう…って『友達部』ゥゥゥ?!」
と俺が叫ぶと、先を歩いていたメイリンやコーネリアも俺も叫び声が気になったのか近づいてきた。
「Oh…ナンデスカァ?」
「友達になってください部があるよ、ほらここ」
とマコトが言うと、
「友達欲しいのか。寂しいヤツ」
メイリンがキツい一言。
「HAHAHAHAHAHA!!友達部!!!!HAHAHAHAHAHA!!HAHAHAHAーーー(呼吸停止)…HAHAHAHAHA!!」
おいおいおい笑い過ぎだろう…。
コーネリアは友達が居なかった事がなさそうだから(フランクな人だし)友達が欲しいから部まで作る奴の気持ちはわからないんだろうけどさ。…って、友達作りの為に部まで作ってるのか?マジで?
よくよく考えたらこれってすごいじゃん。
「よく考えたらバカだよね〜!あはははは〜!」
俺も気づいたら笑ってた。
「キミカちゃんまで…。笑ったら失礼だよ!」
「でも友達募集だよォ?友達部だよォォ?!『お金あげるから友達になってください』レベルじゃんwwwwそんなので友達が出来たからって本当にソレって友達って言えるの?ってレベルじゃんww」
「いや、まぁ、確かに…」
というマコトに対して、
「私はお金貰えるなら、友達なってやる」
メイリンが真顔で答える。
「いや、だからそれって友達って言えるのっていう、」
「確かケータイのキャンペーン、タダトモやってた」
「はぇ?」
「『タダで友達になってくれるキャンペーン』つまり普段は有料」
「いやいやいや、それ違うから!それ友達と一緒にケータイ電話契約したら一部の料金がタダになるってやつだから!!」
そういうツッコミを入れてる隙にも、コーネリアの奴はその張り紙が気に入ったのか、オシピンをその『友達募集』の張り紙に描いてあるダサい絵の目の部分に突き刺している。
その時だった。
「おいィ!!!てめぇら…」
凄まじい怒声が俺達の背後から聞こえたのだ。
一斉に俺達は後ろを振り返る。するとそこには、頭は金髪、ガタイは180かそこらはある、ズボンはとび職かテメェはって言うぐらいにボッたく広がって、だらしなくシャツをズボンから垂らしている、まさに不良という感じの奴が居たのだ。
こいつの制服…アンダルシア学園の男子制服じゃないか。この学校はこんな奴も入れるのか?入れていいのか?
「ふ…不良だ…」
マコトが震えた声で言う。
「不良!!」
メイリンが敵意剥き出しで言う。
「inferior goodsデーッス!!!」
コーネリアは今にも警察を呼びそうな、
「ポリスメーーーン!!!ココデーッス!!犯罪者ガココニイマーッス!!コイツヲ逮捕シテクダサーーーイ!!!」
あ、呼んだ。
「おおお、おお、おい!!やめろ!俺は犯罪者じゃない!こら!騒ぐな!騒ぐんじゃない!俺は何もしないって!」
とか言いながらもコーネリアが叫び続けるので抱きしめて手で口を塞ごうとする不良。コーネリアは「Noooooo!!!」と叫んでいる。
すると廊下の向こうから教師達が走ってこちらにやってくるのが見えたのだ。反射的にその不良はコーネリアを放して、ダッシュで逃げだす。しかし、振り返ると「俺は違うからな!!」などと言う。
それからまたダッシュで逃げていった。
「どうした?」
先生達がやってきてコーネリアに聞くので、
「アノ男ガ私ノ美乳ヲ揉ミシゴイタノデース…」
と悲壮感漂わせる顔で状況を説明する、っていうかそれ絶対に嘘だよね、なんで女の子演じちゃってるのこの人。
「クッソォ…あいつめ」
と先生。
どうやら先生はあの不良が何者なのか知っているらしい。と、言う事は俺達以外にもあのような事をしているのだろうか。
「先生、あの人が誰か知ってるの?」と俺が聞いてみると、
「あぁ。あいつは最近転校してきたんだよ。あの頭だろ?色々と問題を起こしそうじゃないか。と、思って心配してたんだが、やっぱりだ。もともとマークしてるから被害がこれで済んだものの、放任していたら大変な事になっていた。警察沙汰だけは避けなければな!」
いや、まだ何もしてなかったけど…マジで。
あの頭だからか随分と勘違いされてるなぁ。
先生はひと通り自分の意見を述べると去っていった。
「っていうか、君達『不良』の定義を知ってるの?」
俺は不良というキーワードで色々な反応をみせた外国人達に聞いてみたのだ。本来の意味を理解してるのかと…。
メイリンは、
「不良?フンッ…もちろん知ってる。人身売買、覚せい剤、売春に恐喝、強盗、詐欺、アダルトビデオの作成…法律の網、かいくぐって悪い事する連中。ジャパニーズマフィア」
それはヤクザだっちゅうねん…。
マコトは、
「アレだよね、椅子の上に画鋲を引いて、根性試しでその上に座るっていう人達だよね。アレ金玉とかに刺さったらどうするんだろ…」
ってどこの部族やねん。
金玉に刺さったら痛そうだ。
コーネリアは俺が聞くまでもなくペラペラと話し始めた。
「彼等ハ可哀想ナ人達デーッス…」
おぉぉ、わかるのか?
「親ニ貰ウベキ愛ヲ貰エズ、ソンナ愛ニ飢エタ彼等ハ、暴力デシカ自己表現ガデキナイノデーッス…ダカラ、世間ニ意味嫌ワレ、気ガツケバ彼等モマタ、愛ヲ与エナイ親トナッテイルノデス…」
なるほど、繰り返される過ちって奴か。コーネリアは俺よりもそういう事を理解しているような気がするな。
「心ニ闇ヲ抱エタ彼ハ神ノ許シヲ乞ウデショウ…」
「へぇ〜」
「彼ヲ探シニ行キマショウ…キット、教会ニ居ルハズデーッス」
え?
え〜…
面倒くさいよも〜。