91 ガード・ユア・アヌス 7

それからどれぐらいの時間が経過しただろうか。
ひょっとしたらほんの数分だったのかもしれない。しかしひょっとするともう既に下校時刻になっているのかもしれない。と、なると、俺達は授業にも出ずにここでにぃぁからお尻の穴を舐められるという最低な行為から身体を守るという行為に浸っていた事になる。
時折、にぃぁの「(ガリガリ)」という爪で壁を引っかく音などが聞こえたりもしたがそれもいつしか消え去った。
これは…今の、この『状況』は、これが意味するところはなんだろうか?男としての貞操を守ろうと必死に逃げまわっているという事か?それとも得体の知れないにぃぁという名の怪物からただ恐れて逃げ回っている事か?それともただ単に授業をサボるという男子校生が憧れている行為の一つを偶然にも実行可能なチャンスに出会えたから後で何か言われても「だってにぃぁがお尻の穴を舐めてくるしぃ〜」と言い訳してしまえばいいじゃん的な考えを持っているからか?それとも…暗い体育倉庫に押し黙って出てこない連中を外に引っ張りだす為の、にぃぁの作戦…という事か?
音が聞こえた。
遠くから近づいてくる音。
歩幅的には一般の人よりも狭い。そして速度はゆっくりで時々「ふぅ、ひぃ…」という声。この声は聞いたことがある。
俺達の担任であるケイスケの声。
もう耳を澄まさなくても聞こえるようになった。
「あ、先生だ」
と、マコトも気付いたようだ。
みんなも顔を上げて声のする方向に近づいていく。
壁越しにケイスケの声だ。
「みんな、体育倉庫で何をしてるんですかォ…ふぃ、ひぃ…疲れた」
「な、何って…!そりゃぁにぃぁが襲ってくるからみんなして逃げてたんだよ!ったく、なんでまたお尻の穴を狙ってくるかなぁ…」
みんなを代弁して俺が答える。
「にぃぁ?どこにもいませんですォ?」
布擦れの音。ケイスケが周囲を見渡しているのがわかる。
「居なくなってる?諦めてどっか行ったのかな?」
という俺に対してマコトは、
「とりあえず先生も来たし、そろそろ戻ったほうがいいかな」
と言う。そろそろ籠城も飽きてきたしな。
俺はグラビティコントロールで積み上げられた荷物をどけた。そして念のために施錠していた体育倉庫の鍵を開けた。
マコトが前に立ってドアを開ける、そして開けながら、
「先生…もう、にぃぁさんを何とかしてくださいよ。なんでお尻の穴からウンチを絞りとるような変なs」
その時、俺は全身の毛という毛が全てチキン肌になるのが自分でもわかった。多分、そこにいる誰一人として平然にはいられないだろう。マコトは俺達よりも数歩前に居たのだから余計に、だ。
何故なら、ここにいる誰もが、今しがた体育倉庫の前で話していたのが「ケイスケ」だと思って疑わなかったからだ。
俺達の前には…。
にぃぁが居た。
「コイツ…!!ケイスケの声を!!!」
驚くよりも先に行動しろよ、俺って感じだった。クソォ…俺はまず最初に驚いてしまったのだ。その驚いている間ににぃぁは満面の笑みで、一瞬のうちにドロイドバスターに変身した。
黒い波動が俺達に襲いかかり、と、同時ににぃぁの服は黒の巫女の服とも言えるようなあの戦闘服へと変わった。普段から一本だけしっぽが生えていたにぃぁだが、変身と同時に2本に増えた。これがどんどん増えていくと力が開放されるんだよな!!
俺はマコトの腕を掴もうとした、が、時既に遅し。にぃぁは片手を前に突き出すとグラビティコントロールを発動させ、まず俺をはじき飛ばした。俺は空に向かって人間ロケットよろしく発射されて、壊れた体育倉庫の屋根の間から、コーネリアやメイリンが吹き飛ばされるのが見えた。後は言うまでもない…。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
という断末魔が…マコトの貞操の断末魔が聞こえた。
なんていうか、その、マコトの後ろの処女が奪われた瞬間だった。
「ファァァァァァーーーーック!!」
弾き飛ばされて俺と同じく宙を浮いていたコーネリアの絨毯爆撃だ。赤黒いキラキラと光るミサイルが体育倉庫前からテニスコートを吹き飛ばす。しかし、その爆風の中を黒い影がピョンピョンと障害物も爆風を交わしながら逃げていく。
そこへ体育倉庫の少し外に飛ばされていたメイリンのビーム砲がパシュ!パシュ!といった具合に真っ赤に光を放っている。それらはにぃぁの黒い爪の前に消えた。
逃げた。
奴はヒット&アウェイを本当に熟知している。
はるか昔、ローマ帝国を荒らし回った蛮族の王がいたそうだ。それらはフン族と呼ばれていたのだけど、彼らはローマの軍隊が真っ向からぶち当たる戦い方をするのに対して、撃っては逃げ、撃っては逃げを繰り返してローマ軍の体力をどんどん削っていったと言われている。ヒット&アウェイの元祖はそこにあるわけだ。
そして、そのフン族もまた、略奪を主に行なっていたそうだ。
今、俺達の前にはまさにフン族のようなヒット&アウェイを華麗にこなしながら俺達のお尻から糞(フン)を略奪し、体力と精神力を奪っていくにぃぁの姿があった。歴史は繰り返されるのか…。
俺とコーネリアは体育倉庫の粉砕された屋根の間から中へと入った。そこにはぐったりと身体を横たわらせるマコトと、その側で手と手のシワを合わせて拝んでいるメイリンの姿があった。こんな粉砕された壁や屋根を俺のグラビティコントロールで修復させたとしても、なんの意味があるのだろうか…しかし、そうしなければまた奴は襲ってくるのだ。既に奪われてしまったものは帰っては来ないのに、俺達は否が応にもそれをせざるえないのだ。
「う…うぅ…」
マコトが泣いている。
男泣きだ。
ぐったりと横たわっているマコトの服ははだけて、太ももには血の筋が…なんだかすっごいエロいんだけど…でも、この血の筋ってアソコから出てるんじゃなくて、お尻の穴から出てるんだよね。そう考えるとちょっと滑稽な気がする…。
「き、…キミカちゃん…」
マコトが涙声で言う。
「な、なに?」
「う、うしろの処女を奪われた…男の子は…好きですか?」
「わ、わかんない…」
わかんないよ、わかんないよ!そんなの!
っていうか意味がわかんないよ!!
「HeyHeyHeyYo!!」
突然コーネリアが叫ぶ。
「どしたの…」
「コノママ防戦一方デスカァ?!イイノデスカァー?ソレガ本当ニ男ノ戦イナノデスカァァ?!私ハ許シマセンンン…コノママ私達ガ逃ゲキッタトシテモ、マコトノ弔イニナルノデスカァァ?!」
た、確かに。
ちょっと俺達は防戦が激しすぎたのかも知れない。明らかににぃぁにナメられてる。まさかケイスケの声を真似てくるとは。
「閃いた…今、閃いたよ…(白目」
「どうしたの…マコト、白目剥いて…」
「もし、にぃぁが僕達を本気で攻撃するのなら、僕達は若干、不利かもしれない。にぃぁは確かに強いよ。でも、よく考えてみて。にぃぁは僕達を攻撃する事が重要じゃないんだよ。僕達のお尻の穴から…その…なんていうか…」
「ウンチ?」
「そ、そう。ウンチをね…それを集めるのが目的なんだよ。つまり、それがにぃぁの弱点なんだよ!!」
これに『待った』をかけたのはコーネリアだった。
「Wa、Wa、Wait…Wait!…ソレハツマリ…誰カガ囮ニナルト言ウコトデスカァ〜?What the f」
「そう、そうだよ、誰かが囮になってその隙に」
しかし、メイリンが口を挟む。
「今、マコト、奴に捕まってた、でも、それほど大ダメージ、にぃぁに与えられない。失敗してる」
ん〜…確かに。マコトが捕まっている間はつまり、マコトが囮になってたという事だから、誰かを囮にしてもまだヒット&アウェイやられると大したダメージ与えれないんじゃないの。
こっちは4人居てもそれでもにぃぁは襲撃してくるって事はにぃぁは襲撃リスクを背負ってきてるわけであって、そのリスクは大して高くないんだよ、アイツにとっては。いかにして襲撃のリスクを上げるかが重要なんだよね。
「だからその…ボク考えたんだよ、にぃぁにリスクを背負わせるにはどうしたらいいかって…。ふと、キミカちゃんが作ったチョコを思いだして、その、それを使えば」
俺の作ったチョコ?
あぁ…。
そうか。
俺もメイリンもコーネリアも、俺のチョコを食べてぶっ倒れた。どうやらドロイドバスターにはあのチョコは何らかの作用があるらしい、作った本人である俺にも何故そうなるのかはわからないけど。
「でも、そのチョコを…にぃぁが食べるかな?あたしたちのお尻の穴から出てくるチョコとは違うんじゃないの?なんとなく、にぃぁは嗅覚が尖そうだし、口に含む前にバレるかも…」
「うん。だから、にぃぁが、もしね、お尻の穴から手でチョコを採取していたのならこの作戦はうまく行かないと思うんだ」
「ん…?」
「What…?!」
「…」
マコトの言葉に俺達は動きを止めた。
今、凄い事をマコトが言わなかった…?
コーネリアがそれを察してマコトの両肩を引っ掴んで揺らしている。そしてガタガタとマコトを揺らしながら、
「ヘェェェェェェェーーーーイィイイ!!マーコートー!!オ尻ノ穴ノ中ニ自ラCHOCOLATEヲ注入スルノデスカァァァ?!アーユークレイジー?!アーーーユーーーーゲーーーーーィイ?!」
「だ、だって、それしか方法がないじゃないか!にぃぁに確実に毒を盛る為には食べ物の中に入れておくしかないんだよ!」
いや、食べ物ってアンタ…。