91 ガード・ユア・アヌス 6

メイリンがこの学校に来た頃、俺とメイリンは文化祭実行委員か何かの仕事でこの体育倉庫に用事があり、一度この体育倉庫を訪れた事がある。実はその時に大変な事になってしまい…。
という話は割愛するが、とにかく、俺とメイリンは倉庫内を滅茶苦茶にしてしまったわけだ。でもあの時よりも荷物が片付いている状態みたいなので安心したよ。にぃぁに襲撃される事に加え、中が酷くカオスな状態だったらまた以前メイリンと俺が体育倉庫の中に閉じ込められ(精神的な苦痛を強いられたるという)シチュエーションを今度は4人でやることになったのだから。
俺達は体育倉庫に入室後、素早く窓という窓に荷物を積み上げた。にぃぁもこれなら入ってきたとしても「弾丸よりも速い速度」でいつの間にかケツの穴を襲われる事もないだろう。そういう意味ではこれらの荷物は全て俺達の結界という事になるのだ。
「OK…OK…コレデ安心デスネー!」
積み上げた荷物を見ながらコーネリアが言う。
「もしにぃぁがこの荷物をブチ抜いて体育倉庫の中に入ってきたら戦闘になるだろうから今のうちに変身しておこうよ」
というマコトの提案で、俺達はドロイドバスターに変身した。
まず最初にしたのは積み上げた荷物の隙間から外を見た事だった。
「何も動いていない」
メイリンが言う。
外は分厚い雲に覆われた冬の雪空。冷たそうな風がカサカサと乾いた落ち葉を巻きあげて体育倉庫前のテニスコートに撒き散らす。
「コッチニモ居マセーン」
コーネリアは別の窓から外を確認していた。
コーネリア側の窓はアンダルシア高校が街を見下ろせるような位置にある事が理解できるような位置にあって、とてもじゃないがにぃぁが着地できそうな場所はそこにはない。崖っぷちとまではいかないにしても、急斜面がそこにある。
「窓から離れたほうがいいと思うよ」
と言うのはマコトだ。
「ビビッているのか、マコト」
メイリンが言う。
「び、ビビってるわけじゃないけど、映画とかだと窓の側に居て『連中が来るわけがないじゃないか、HAHAHA』って言ってる人が突然背後から侵入してきたゾンビに引き摺りこまれるとか『あくび』がでるぐらいに頻繁に起きるパターンじゃないかー!!」
それはナイト・オブ・ザ・リビングデッドの話かな?
あれは怖い映画だった。でも個人的にはあのゾンビ映画の『定番』っていうのが途中から飽き飽きしてきたのは事実だよ。俺が大人になるに従ってゾンビはコミカルなモンスターへと変換されてしまって、改めて5年ぐらい立ってからもう一度映画を見た時にゾンビに襲われるシーンで笑いがでたっけ。
ちなみに俺のおすすめのゾンビ映画は『死霊のはらわた』だね、まずタイトルがエグイ。はらわたって何よと、しかも死霊のだし。つまり死霊が主人公に倒されてはらわたを撒き散らす…のなら『ヒーローモノ』じゃないかって勘違いした子供がその映画を見てしまうという危険をはらんでいるのだ。主人公の仲間達が次から次へとはらわたまき散らしながら死んでいくのを見せつけられたあげく、たまたま食事でもしていようものなら身体がアナフィラキシーショックを起こしてしまうんじゃないかって、小麦粉食べれなくなっちゃうんじゃないかって心配すらしてしまうよ。
…などと俺が古き良き時代のスプラッター映画などが頭に浮かび、物思いにふけっていると、コーネリアがニタニタと笑いながら、
「HAHAHA!ニィァガ来ルワケガナイジャナイカッー!HAHAHA!HAHAHAHAHAHAHAハァァァァ!!!Nooooooo!!」
突然窓の中へと引き摺りこまれるコーネリア。
「コーネリア!」
俺は最大限でグラビティコントロールを開放しコーネリアの身体を俺に向かって引き寄せた。その精度は最大限開放のためか安定しなくて、コーネリアの身体は宙にフラフラとする。が、にぃぁがコーネリアの足を引き摺っている手が見えると、そこにメイリンの矛による攻撃。ギリギリでにぃぁは交わした。
「ファァァァァーーーーーック!!!」
キレるコーネリア。それもそのハズだ。連続でコーネリアが襲われた、それはつまりコーネリアがナメられているという事になる。あくまでナメるナメられる理論(高校生向き)で考えたらなわけだけど。
「カカッテキナサーイ!ホラホラー!!Come on!!」
窓に向かって無意味に必死にキレるコーネリア。
つか、さっきまでNooooo!とか言って泣きそうな顔になってたのに。いや、その屈辱があるからだろうか。もう一回襲ってこい、今度は返り討ちにしてやる的な挑発顔でキレてる。
「まずい、まずいってば!」
マコトと俺はコーネリアを窓から話した。
「アノ野郎ゥゥ…」
白目を剥いてるコーネリア。
一方でそんな様子を余裕の笑みで見ているメイリン
こういう事するからまた、
「何ガ可笑シイノデスカァー?!」
ほらほら、挑発に乗ってくるじゃないか。
「油断が多すぎ。馬鹿」
メイリンは一蹴する。
次の瞬間だった。
メイリンの身体が…まるで突然、体育倉庫の中の地面が「地面」から「壁」に変わり「壁」が「地面」に変わったみたいに、壁に向かって引き寄せられる。いや、自由落下させられる。
違う…これは…グラビティコントロールだ!
俺が使うのとはちょっと違う。精度が悪いのだ。俺が使う場合は特定の部位を引き寄せるのだが、それが出来てない。メイリンの身体どころか、髪なども全部あわせて壁に向かって引き寄せている。だから壁が突然地面になったかのように錯覚したのだ。メイリンだけじゃなくて倉庫の荷物までもが引き寄せられたから。
「お?お?お?お?!」
とか言いながらメイリンが俺のほうを見る。
「いや、違う!あたしじゃないってば!にぃぁだよ!」
俺がグラビティコントロールを発動させたんだと思ったらしい。俺の説明を聞いたメイリンはすぐさま戦闘体勢に。矛をひっつかんでにぃぁが能力を働かせているであろう壁に向かって突き刺そうとする…が、突きさそうとした矛が逆方向に吹っ飛んだ。吹っ飛んで反対側の壁に突き刺さった。
今、グラビティ・コントロールの精度あがった?!
メイリンの矛だけをはじき飛ばしたのだ。
「ふんッ!」
武器を奪われてもメイリンは戦闘に長けていた。壁に向かってパンチを食らわし、壁ごとエネルギーフィールドではじき飛ばす。
全開になる体育倉庫。
突然の反撃を食らってにぃぁが驚く。エネルギーフィールドにはじき飛ばされ、そのままテニスコートの上を転がって、転がって、転がって、山から落ちそうになったところで爪を立てそれを防ぐ。
「ニャン!!」
結界である体育倉庫の壁が恥ずかしくも全開し、俺達(獲物4匹)が目の前にあると歓喜したにぃぁが俺達に狙いを定めてこちらに向かってきたのが想像できた。
想像できたっていうのは、つまり、にぃぁが大地を蹴り上げた時には既に姿は見えず、粉塵だけがボンッ!という感じに空中へと巻き上げられたからだ。
俺はグラビティコントロールを働かせて地面を押し上げた。体育倉庫の前に新たに壁(小山)ができる。そして小山でにぃぁ側から見えなくなったのを確認して再び倉庫の荷物を積み上げて壁を作った。フヒヒ…そう簡単には崩されないぞ。
ここに突っ込んできたらヤツもタダでは済まない。
「ニィィィィイ…」
どうやら弾丸のようにこちらに向かって何も考えず突っ込んでくるのは諦めたらしい。悔しそうなにぃぁの鳴き声が聞こえる。
そして、
「(ガリガリガリガリ)」
荷物を引っかく音も…。
メイリン、大丈夫?」
俺はグラビティコントロールで吹き飛んで壁に突き刺さっているメイリンの矛を引っ張ってあげる。それは彼女の手元まで飛んできて、パシッとメイリンの手に収まった。
「なかなかやってくれる…」
メイリンは矛をブンッと振り回して構えて、ニヤリと笑った。