91 ガード・ユア・アヌス 3

試食。
もちろん女子は試食は少しだけにして、後はプレゼントに使うとの事だった。家庭科の先生は「くれぐれも担任の先生には内緒ね?」ととても美しい笑顔を見せてる。本当のお嬢様はお年を召されてもお嬢様だと、そう思わせる笑顔だった。
とりあえず俺はユウカのチョコを試食しよう。
ユウカと幼馴染の俺がどうしてチョコ貰えないんだよ!
ハイエナのようにフラフラとユウカのテーブルの周囲に現れた俺は、ユウカの出来上がったチョコを一つ手にとって口に放り込む。
「あ!」
それに気付いたユウカが小さく叫ぶ。
「いただき〜!」
「ったく…」
さて、味は…。
普通だ。
普通過ぎてつまんない。コメントがし辛い。でも普通に美味しい。セオリー通りの味だ。そこがいいのかな。
「普通に美味しい」
と俺が感想を述べると、
「普通には余計よ!」とか言い出すユウカ。
ナノカとコーネリアもハイエナとしてユウカテーブルの周囲に現れて、チョコをつまみ食いした。
「いっただきー!んまー!」
「Ohh…Hmmm…Goood…」
「ったくアンタ達は…」
と呆れてるユウカ。
「ナノカのチョコはどんな味かな?」
俺はナノカテーブルのところからチョコをひとつまみして、ひょいと口に放り込むのだ。そして口の中に広がる…。
塩の味。
「ニガァ!!!」
「んん〜?どしたのキミカっち?」
「ニガァァァ!!!」
苦い!!
「Oh…ドンナ味デスカァ?」
おい、やめろ、そのチョコを食うな…!
ナノカのチョコを口に放り込むコーネリア。
「Nigger!!」
叫ぶコーネリア。
そしてようやく作った本人であるナノカがチョコを口に放り込んでくれた。今やっと味見って言うアレ。
「どれどれ、私もひっとつまみー!ニガァ!!!」
「ペッペッ!」
「ペッペッペッ!!」
「ペッペッペッペッペッ!!」
「塩が入ってるヨォ!!」
「砂糖と塩を間違えてるじゃん!」
「ファァァァァーック!」
最悪だ!!
俺は口の中が全部苦い味でクリアされてしまった。口直しにユウカのチョコが必要だ。さて一つ頂くか。
「ダメ!…ったく、これは他の人にあげるんだから」
「だ、誰にあげるの?!」
「なんでアンタ必死なのよ…妹とか部活の人とかによ」
ヌゥゥ…。
「キミカっち、コーネリアっちのチョコを頂こうよ」
ナノカが言う。
「え〜…」
と、俺は渋る。
だってコーネリアのチョコは発がん性がありそうじゃんか。あれ食ったら死ぬよ。それが歯がぼろぼろになりそう。
「うわぁぁぁぁ!」
ほら、このナノカのリアクション。
ナノカは色を見ただけでこれだけのリアクションをしちゃったわけだ。このリアクションがコーネリアのチョコを物語っているんだ。自然界にもこんな毒々しい色をしたものが存在してるけど、それは大抵は毒なんだよね。警戒色なんだよ。
「た、食べてみよう…」
マジでェ…?
恐る恐るナノカはコーネリアのカラフルなチョコを一つ手にとって口に放り込む。日本人の口の大きさにはちょっと大きめに作られているチョコ。コーネリア本人も日本人のように口は小さいからこのチョコを食べるには気を使いそうだが…。
「もぐもぐ…もぐもぐ…」
「おいしい?」
「HeHeHe…美味シイハズデーッス!」
「んんん…何か…チョコの中に、キャラメルが入ってるゥゥ…もぐもぐ…もぐもぐ…なかなか溶けないよォォ…(白目)」
うわぁ…あるある。アメリカのチョコ独特のアレ。
「チョコだけが溶けてキャラメルがなかなか溶けないよォォ!!ンンンンン!!!モグモグ…モグモグ…ガリッ」
ガリッ?
ガリって…?
「ンンーーーーーーーーーーーーッ!!ッペッ」
そのキャラメルの塊を放り出すナノカ。
ナノカの涎に混じって出てくるキャラメルの塊。そこには光る何か、貴金属みたいなものが…。
「銀歯が取れたァァァッ!!!(涙」
「Oh…」
「怖い…銀歯を持っていくチョコ怖い…」
「Sorry…」
ナノカはキャラメルから銀歯を引き上がそうとしているがなかなか離れない。なんて粘着性の高いキャラメルだ…。
「マァ気ヲ撮リ直シテ、キミカノチョコヲ食ベテ見マショウ」
そういえば俺のチョコは俺も味見してなかったな。
「うわぁぁぁ!!綺麗。なにこれ?フィギュア?」とナノカ。
「Oh…食ベルノガ持ッタイナイデーッス…」とコーネリア。
ふふふ、日本の料理は例えそれが西洋の料理(チョコ)だったとしても見た目を重視するのですよ。ククク…。
「いただきまーっす」「イタダキマーッス!」
俺とコーネリアは同時に俺の作ったチョコを口に放り込んだ。
モグモグ…隠し味がとても程良く効いてる。うまい。
モグモグ…。
あれ?
なんだか頭がクラクラ、めまいがする。身体から血の気が引いてくる。全身に冷や汗を掻きそうだ…。吐き気がする…。
世界が回る…。回る世界の中でコーネリアが倒れる様子が見え、そして俺も倒れていくのだ…。
気がついた時にはクラスメートの皆が心配して俺とコーネリアを覗き込んでるところだった。
「キミカ!!ナンデスカァ!!コノチョコハァ!!」
飛び起きて俺に向かって叫ぶコーネリア。
「いや、あたしにも…なんとも…」
答える俺。
「え?食べたけど普通にチョコだったよぉ?」
とナノカ。
「って、食べたんかーい!」
俺はすかさずツッコミを入れる。っていうか、ナノカは食べても平気だったの?なんで?俺は気絶したぞ?!
「キミカノチョコハ危険デーッス…」
なんで?
ナノカとコーネリアと俺の違いは…?
もしかしてドロイドバスターが食べたらヤバいのか?
「キミカちゃんのチョコを食べて倒れるなんて、失礼だよ!ったく、ボクも食べてもいい?いただきます」
とかマコトが言い、俺が止める間もなく口に放り込む。
「お、おーい!」
「」
マコトがぶっ倒れる。
「ホホゥ…トリアエズ…メリインニモ食ベサセタイデーッス…」
「いらん!」
さすがにコーネリアと俺とマコトがぶっ倒れたのだ。余程の馬鹿じゃない限りこのチョコはドロイドバスターが食べたらヤバいという事はわかるはずだ。
逃げるメイリン、追うコーネリア。その手には俺のチョコ。
俺はメイリンの背後に周って背中側からメイリンをひっつかんで、片方の手で口を開かせる。
「(中国語で何か叫ぶメイリン)」
そこにコーネリアが俺のチョコをねじ込む。
「」
メイリンは無言でぶっ倒れた。