91 ガード・ユア・アヌス 2

2時限目は家庭科の時間。
この学校は元々女子高でアンダルシア学園の女子はお嬢様が多いにも関わらず、レディとしての嗜み多く教える学校でも有名なので、その中に「料理」のセンスも求められている。
なので家庭科の時間では刺繍やドレスの作り方やら料理やら…生活に必要な事を一通り教えてくれる。服や料理なんてのは覚えなくてもコンビニやらウニクロがあるから大丈夫じゃん、って思っている人達はそれを口に出せばこの学校では白い目で見られる。
お嬢様というのはどんな環境であってもお嬢様であり続ける、というのがアンダルシア学園のお嬢様倫理。例え砂漠の中に放り出されてもサバイバルをしてまでしてお嬢様になるのだ。けして「砂漠の中で生きていくなんてできなーい!」とは言ってはならない。それはアンダルシア学園以外のお嬢様である。
家庭科の先生はお嬢様とはいかないにしても品性がとてもいい感じのご婦人で、決して授業を授業という枠の中に収めずに色々な事を教えてくれる。家庭科なのにお嬢様の倫理というのまで。
ニコヤカに微笑みながら登場したご婦人(家庭科の先生)はこのクラスの女子が沈んだ顔になっているのを既に察してた。
「担任の先生に絞られたのでしょう?バレンタインのチョコを持ってきていたので没収されて」
とニコヤカに言う。
「先生〜、酷いんですよ、あのデブ〜」
と女子生徒の一人が答える。
「そういう事もありまして、今日の授業ではチョコを作りたいと思います。材料は先生のほうで用意しました」
ニコヤカにそう言う先生にクラスの女子は発狂でもしそうな勢いでキャーキャー言いながら喜んでいた。
「甘味を作るのもレディーの嗜み。そして好きな殿方に自分の気持ちを打ち明けるのもレディーの嗜みですから」
とニコヤカに言う先生。
というわけで、家庭科の時間はチョコを作ることとなった。
本来のチョコはチョコレートパウダーの状態から作るらしいけど、今回は時間が時間だからと板チョコを溶かして型にはめて凍らせるっていう作り方になった。
板チョコの状態から溶かすとそこで甘みやらの成分が下に降りたり、飛んでしまったりするらしいので少しだけ味付けをする、と、普通の市販チョコよりも甘みが強くなって美味しいらしい。
俺は女の子が作ったチョコを貰った事がないからどんな味なのかわからないけども。悔しいことに。
お手本にユウカが作っているところを拝見させてもらう。
溶かして型にはめて、少しだけ砂糖を加えて、上に飾りをつけて…。至って普通だ。すごく普通だ。つまんないぐらいに普通のチョコ。
「な、なによ…」
「普通な感じのチョコだね…」
「うっさい!」
さて、俺は俺でチョコをユウカを真似て作る。
ココアパウダーやらミントの粉を加えたりした。隠し味…隠し切れない隠し味、なんちって。
出来上がりを型取りさせるのだけど、型枠はハート型やらひし形やら四角やらあまりにも平凡過ぎてつまんないのでそれらの形をさらに鋭利な刃物(グラビティブレード)でバシバシバシ(0.12秒)で削りとって美しい形に変える。美しい形…それはケイスケの部屋に置いてあったフィギュアがまさにそれだったので、俺はチョコレートでフィギュアの形を再現したのだ。さすがは職人の国日本だ、と思わせる造形美。
そう、出来上がりはパティシエが作ったかのような美しい形へと変わるのだ。素晴らしい。ミス・アンダルシアが作ったチョコにふさわしい…。
さてと、他の人を観察しに行こっと。
まずは…メイリン
あれ?メイリンのチョコはどこに?
メイリン、チョコはどこに行ったの?」
するとメイリンは、
「食べた」
と一言。
「って、えぇ?も、もう?」
「渡された板チョコを食べた」
「それ食べちゃダメでしょ!」
…つまり材料を食べちゃったわけか…。
「食べちゃダメだったのか…」
「ダメだよ!チョコを作るんだよ!」
こいつは家庭科の授業をなんだと思ってたのか…チョコが配られたから食べてもいいと思ってたのか…。
さて…気をとりなおして、コーネリアのところに行こっと。
あ、ウンコがある。
コーネリアのチョコは…。
なんていうか、ウンコだった。
ウンコがボウルの中にあるのだ。
あのチョコの黒い生地とは別にキャラメルソースっていう奴かな?あれが混ざり合っててウンコみたいになってた。
「ウンコ…」
「No!」
「ウンコみたいなチョコだね…」
「ウンコジャアリマセーン!」
「色とかまさに…」
「Noooooo!!No more Shit!!」
と、コーネリアはそれまでウンコとしか思えなかったチョコにパラパラとカラフルなものを振りかけている。
チョコに降りかけるあのカラフルな奴だ。子供が喜びそうなアレ。身体に悪そうな添加物たっぷりのカラフルなアレ。たしか発ガン性があるっていう昆虫か何かの羽から摂取できるカラフルなアレだった。アレをふりかけてるのだ。
「He…He…He…」
うわぁ…色がどんどんきつくなるな。
もう食べ物じゃないみたいだ。
そういえばアメリカの子供が食べてるチョコってこういう感じの色がドギツイものだったような…。
そのボウルに指を突っ込んでウンコ…じゃなかったチョコを出すと、ペロペロと舐め回すコーネリア。
「Ummmmm…Nice」
と言っている。
嫌な物を見てしまった…次はマコトのところに行こう。
マコトは…というと、
和菓子を作っていた。
「マコト…それ和菓子だよ…」
和菓子…こしあんを使ってる。餅にこしあんが綺麗な渦を巻いて絡まってて見た目がとても美しい。チョコが1グラムも使われてない。
「日本のバレンタインは和菓子とかもOKじゃないの?」
「いや…」
「で、でもボク…チョコの料理は作れなくて…」
「あぁ、そう…(作り方は最初先生が教えてたじゃん)」
…。
まぁ、そうこう色々あってクラスメート達のチョコはいよいよ完成した。