91 ガード・ユア・アヌス 1

今日は朝からなんか変だった。
登校時も男子は下駄箱の中を確認したりする人が多い。隅々まで見ていた。まるで無くしたものがそこに入ってるんじゃないかって探すみたいに。いや、弁当を忘れてお母さんに持ってきてもらって靴箱の中に入れて置いてもらってるのかもしれない。しかし…男子全員が?
もしかして今日は下駄箱の中に何か入ってる日?
俺は下駄箱の中を確認してみた。が、そこには靴以外は何も無い。
「どしたのキミカちゃん?」
マコトが聞いてくる。
「ん〜…何もない」
「あはは、下駄箱にラブレターでも入ってるのかな?」
ラブレター?
仮にラブレターを探しているにしてもなんで今日だけ?
今日は何の日だったっけ…?
2月14日だよね…。ん〜…。
まぁ、いっか。
俺とマコトは教室へと向かう。
ものの数分でケイスケ(担任)が教室に現れる。
そして開口一番に、
「え〜…持ち物検査を始めます」
と言い出すのだ。
しかし何故か教室は阿鼻叫喚の状況になった。
「はぁ!?持ち物検査なんて今までしたことないじゃん!」「ちょっ、なんで今日だけ?」「ふざけんなデブ!」「絶対にバレンタインのチョコ狙いだよ!」「先生にはあげないから」「チョコは別に持ち込んでもいいんですよね!!」「死ね」
…。
「だ・ま・らっ・しゃい!」
でました。
でましたよ、ケイスケのだまらっしゃいが。
そうか、今日ってバレンタインデーだったのか。
「えーっと…チョコは持ち込み禁止です」
とケイスケが続ける。
「「「「「な、なんでぇ???!!!!」」」」」
ハモった。
教室の女子殆どの声がハモった。
「『チョコを持ち込んではならない』というルールはないけど、勉強に関係ないものは持ってきてはいけません!!!アメリカの学校では学校の前に検問が設置されててチョコを持って来てないかチェックするのですぉ!それに比べたら先生はまだ優しいのですニャン」
教室の女子の視線がコーネリアに集中する。
コーネリアは雰囲気を呼んだのか、
「…ソレハ銃ヲ持ッテナイカCheckシテルノデーッス…」
と回答。
「だってさ!先生!」「嘘教えないでよ先生の癖に」「デブが調子乗ってんじゃねぇぞコラ」「死ね」
「とにかく、チョコを持ってきていたら没収ですぉ!」
というわけで先生が一人一人の席を周ってバッグの中身及び机の中を確認する事となった。
これは酷い展開。
今、先生に罵声を浴びせてた女子はほぼ全員がチョコを持ってきてた。俺は今日がバレンタインという事すら知らなかったから持ってきてるわけがないんだけどね。
そして今は先生はユウカのバッグの中を確認している。
ん?チョコがない…?ユウカは誰かにチョコあげないのか?
「なんでチョコ入ってないの?」
と俺が聞く。
「誰にもチョコあげないけど…あげる人いないし」
という言葉を聞いて俺はちょっと安心するが、その一方でなんで俺にチョコくれないのかって思ってしまう。義理チョコでもいいし。
「義理チョコは?あたしとかに義理チョコくれないの?」
「はぁ?なんで?」
「お世話になってる人に義理チョコとかあげるじゃん」
「そういうの私はしないから〜…じゃあ逆に聞くけど、アンタはあたしの為にチョコ用意してるの?」
「えぇえ?なんで?」
なんで男の俺がユウカにチョコ用意せにゃあかんの?
「なんでって…アンタ、友チョコの事言ってるんでしょ?それってお互いがお互いにプレゼントし合うものでしょ…」
「あ!」
そうだ…俺、女の子だったんだ…。
クソゥ…誰にもチョコ貰えない。もうバレンタインって言葉を聞いてももうトキメかない。世界が色褪せた。もうダメだ。オワタ…こんな世界滅ビレバイイノニ…。
「ん?こ、これはなんですかォォ!!」
なんだァ?
ケイスケが俺のバッグの中からカラカラと音がする箱を取り出して血相を変えて怒り狂ってるぞ?
何って…。
「それはたけのこの里
と俺は答える。
「チョコじゃないですかォォ!!」
「へ?」
「誰にあげようとしてたんですかォォォ!!(涙」
「誰にって…それはあたしが普段から食べてるものだけど」
なんだ?
ケイスケはきのこの山派だったのか?たけのこの里きのこの山論争をここで持ちだそうっていうのか?だいたいきのこの山派はたけのこの里をバッグに忍ばせていたぐらいでキーキーうるさいんだよ。確かにコンビニに陳列されているものはたけのこの里ばっかりできのこの山は陳列されてない店舗が多いし、しかも陳列されてないのは売り切れてるんじゃなくて単純に売り場自体が存在しないという、きのこの山派が聞いたら発狂しそうな理由があったりして、つまりは、俺がコンビニでいつでも補給できるであろうたけのこの里をわざわざ買いだめしてバッグに忍ばせているという事に対するきのこの山派の嫉妬みたいなものなんだよね、これだからきのこの山派は野蛮なんだよ。売り上げが低迷するのもわからないでもない。
しかしケイスケ以外にも驚いてる人がいる。
「き、キミカちゃん…ぼ、ボクにくれるチョコはないの…」
マコトもかよ。
「え?チョコ?あ、いいよ。ほら、あーん」
と俺はたけのこの里を一つだけ取り出してマコトの口に近づける。
「ち、違うよォォ!!こう、なんていうか、プレゼント用に梱包されててリボンとかカードとかついてて、下駄箱とかに入ってて…」
たけのこの里が一袋に1個入っててリボンがつけられてて下駄箱とかに入ってるイメージが俺の頭の中に紛れ込んでくるゥゥ!!!やめろォォ!!下駄箱の靴と一緒にたけのこの里を置くんじゃないィィ!!不潔だろうゥ?きのこの山の陰謀かこれはァァ!!
「ふぅ…ふぅ…」
「ど、どうしたのキミカちゃん?」
きのこの山派と精神世界の中で戦ってたよ…」
「と、とにかく!ボクがまだまだキミカちゃんにふさわしい男になりきっていないという事だね…がんばるよ!キミに認めてもらうために!チョコをプレゼントしたいと思わえる男になるよ!」
なにか勘違いしてるマコト。
そして教壇の上に没収した大量のチョコを置いてほくほく顔のケイスケ。下駄箱の中にチョコを格納してた女子は免れたって感じだな。
「しばらくチョコには困らないにゃん!」
と言うケイスケに向かって呪詛でもかけようかっていう鋭い視線が注がれてる。クラスの殆どの女子の視線が凄まじい。殺気がそこらじゅうに漂っているのだ…。ケイスケ、夜道に気を付けろよ…。