89 マコト君通夜会場 4

翌朝。
恥ずかしそうにアンダルシア高校の冬の女子制服を着るのを拒んでいたマコトだったけども、急がないと遅刻するという圧力から渋々と制服を着る。
ショートカットのボーイッシュな栗色髪が可愛らしい。
そこに俺があげた髪飾りをつけると本当に2次元のエロゲから飛び出してきたような様相になる…。ケイスケはボーイッシュはあまり好きではないとか言ってたわりには随分と気合が入ってるじゃん。
登校する間もずっと周囲の目を気にしていた。
以前まで男だったマコトからすると、自分は今も男(という設定)で、男が女子制服を来て登校しているように思えてしまうのかもしれない。俺も同じ経験をしてるからその気持はわかるぞ。
特にマコトはおっぱいが俺よりも小さいから下手すると本当に男の娘が女子制服着ているような感じにすらなるけど、まぁそういう時は鏡だとか大きなガラスだとかで自分の姿を投影させて、そこに映る可愛らしい女の子が自分なんだと脳に灼きつけてしまえばいつの間にか気にもしなくなるよ。
そして教室着。
すると、いよいよマコトに浴びせられる視線はMaxになる。
そりゃ2次元の世界から飛び出してきたようなボーイッシュな可愛らしい女の子がアンダルシア高校の女子制服という県内の高校でも最もエロゲを意識しているかのような制服を来て現れたのだから女子は敵対心を顕にするだろうし、男子は興味と好意の視線を送るに決まっている。しかし…それよりもマコトと俺の目に飛び込んできたのは、俺達にとってインパクトのある絵面だった…。
それはどういうことかというと。
昨日マコトが座っていた席に花瓶が飾ってある。
こりゃイジメじゃないか。
こんな古典的なイジメ、初めて見るよ。漫画の中の世界だけだと思ってたよ。学校に来たら自分の席に花瓶が置いてあって花が飾ってあるなんて…まるで死んだ事になっているような…。
「う、うわあああああああああああああ!!!」
マコトが泣きながら自分の席に駆け寄り、花瓶を持ち上げて、
「誰だよおおお!!こんなところに花瓶を置くなんて…酷いよ…酷すぎるよ…まるで死んだ事になってるみたいじゃないか!」
そう叫んだ。
死んだ事に…?
あ、死んだ事になってるじゃん…。
クラスメートの一人はまるで可哀想な人でも見るかのような目でマコトを見つめながら、
「マコト君…昨日のテロに巻き込まれて死んだんだよ…」
と言った。
俺はマコトに近づき、脇腹をコツンと肘で押して、
「(死んだ事になってるじゃん、ほら)」
と忠告。
「あ!」
状況を把握したみたいだ。
しばらくして教室にはケイスケ(担任)が現れる。
みんな席につき始めるが、マコトだけは席がない。死んだことになってるマコト(男)の席には花瓶が飾ってあってさすがに座る席がないからとそこに座るわけにはいかない。
マコトはただみんなの席の後ろのほうをあたふたとしながら立っているしかなかったようだ。
それに気付いた担任(ケイスケ)はマコトを前へと呼んだ。
そしてみんなの前で自己紹介をお願いする事となった。日本に来て2回目の自己紹介…。今度は女の子としての。
「え〜…みなさんご存知のとおり、昨日のテロでマコト君は亡くなりましたにゃん…ご冥福をお祈りしますにぃ…。代わりと言ってはなんですが…ここにいる美少女『藤崎真琴』さんをご紹介しますにぃ。台湾からの帰国子女。日本語も台湾語も流暢に話しますにゃん。マコト君の代わりにこのクラスに来ることになりましたにゃん」
う〜ん…強引な展開だ…。
ケイスケも冷や汗を掻きながら話してる…。
「先生…いくらなんでもマコト君が死んでから翌日に台湾から帰国子女って…まるで死ぬのわかってたみたいじゃん」
とクラスの女子が言う。
ごもっともです…。
事情を知ってる俺とかコーネリア、メイリン、そしてナツコは互いにちらちらと視線をあわせてしまう。フォローするべきか…黙ってケイスケに任せるべきか。これは迷うところだ。
「えぇ〜…っと…藤崎真琴ちゃんはマコト君の親戚でして、えーっと…キミカちゃんの双子の妹ですにゃん…」
おいおい!!!強引すぎるだろうが!っていうか、言い訳として意味がわかんないぞそれ!!
「あぁ、そういえば藤崎…って確かに」「え?キミカちゃんって台湾人だったの?」「ええ?わけわかんない」
どよめきがクラスを覆う。
「腹違いの双子の妹です(白目」
な、なんだそれは…腹違いで双子になるのか…。
さらにどよめくクラス。
「だ・ま・らっ・しゃ・い!!」
でた。
でました。
ケイスケのだまらっしゃい出ました。
だまらっしゃい入りました。
「親戚のマコト君が日本でテロに遭遇して巻き込まれて死に、それを悼んだ遺族が日本に駆けつけたのですぉ!!板前になりたいって言ってたマコト君の意思を継いで自らも板前の修業をすることでマコト君への弔いとして、今日本で頑張っているマコト君の親戚のマコトちゃんに、『まるで死ぬのわかってたみたいじゃん、テヘペロー』って言うのは何事ですかぉ!!今言った奴前に出てきて土下座して謝るがいいですぉぉぉ!!そんな陰湿な事考えるから日本人は根暗民族って世界中に知らしめられてしまうのですにゃん!!」
すげぇ…さすがマッドサイエンティスト…頭の回転が早いのかしらないけどうまい具合に反論を押しつぶしやがった。
「ふぅ…この話はこれで終わりですにゃん。では、マコトちゃん、自己紹介をお願いしますぉ」
冷や汗を掻きながら椅子に腰掛けるケイスケ。
そしてみんなの前で白板に自分の名前を記入するマコト。
「えっと…ぼ、ボクは『藤崎真琴』です…。台湾から板前の修業で日本に来ました…。えっと、お、お願いします」
ぺこりと挨拶するマコト。
この美少女にクラスのみんなは微妙な雰囲気になる。
「え?ボク?」「可愛いな…」「男の娘なの?」「やだ…可愛いわ」「キミカちゃんの双子の妹?どおりで…美少女だと思った…」
周囲の視線に耐えられなくなったのかマコトは早々に自分の席、花瓶が置かれているあの席に着席。
「げ、ま、マコト、そこじゃないってば」
「あ!あわわわ…間違った」
というやり取りを俺とマコトがしていたのをケイスケが見て、
「えーっと、面倒くさいのでその席をそのまま使ってください」
とケイスケが言う。
さすがにそれが「冷たい大人」ってイメージをクラスメートに与えたのか知らないけど、ブーイングが起きる。
しかし、ケイスケはコレさえも丸め込んでしまうのだ。
「マコトくんの遺族であるマコトちゃんがマコトくんの遺品を受け取ってマコトちゃん自身の教育の糧にする事の何が悪いのですかぉぉ!!それがマコトちゃんのマコトくんへの弔いにもなるというのに!」
なんかマコトマコトうるさいな…。
「とにかく。マコトくんの話はここで終わりにするにゃん!」
そう言って冷や汗を拭き拭きしながらケイスケは教室をそうそうと出て行ってしまった。ごめん…ケイスケ…。めっちゃくちゃクラスメートの反感を買ってしまっているね。
俺のせいだ…後でフォローしなきゃな…。