89 マコト君通夜会場 2

ケイスケとナツコ、それから俺とマコトがマコトが俺達の家に一緒に住むことになったお祝いのパーティをしていた時、そのお祝いにとてもそぐわないものが流れた。
テレビをつけっぱなしにしていたからだ。
ニュースではあのモールでのテロの件が流れていた。
幸いにも俺達の学校の生徒が巻き添えを食らった事にまではいたらなかったけど、40人近い人達が亡くなった。しかし、それだけ大暴れしたにも関わらずテロの首謀者が声明を発表することは無かった。
だから結局、彼等が何をしたかったのかはわからない。
奴らの唯一の生き残りは「ヘカーテ」と呼ばれるドロイドバスターらしきものだけ。後は全部ソンヒによってぶっ殺された。
ある意味、ソンヒが40人以上の犠牲者を出さないように防いだ…と言っても過言ではないと思う。
アイツには感謝しないとな…馬鹿だけど。
テレビではソンヒがヘカーテと戦っているシーンが流れた。
据え置きタイプのミニガンと呼ばれるマシンガンをヘカーテに向かって放つソンヒ。あれは重いから手に持つよりも地面に3脚みたいなので立てないとダメなんだよね。その銃弾はヘリやらが積んでるようないわゆる「装甲車でもバラバラに分解してしまうほど」に強いものなはずなんだけど、ヘカーテはそれを食らって血肉を吹き飛ばしながらもどんどん復旧している。俺にはソンヒの放った銃弾すらも身体に取り込んでいるようにも見えた。
「な、なんなの…これ…」
マコトが驚きを隠せない様子だ。
「あの時、テロの首領みたいな奴がいたんだ。ヘカーテって名乗ってたっけ。あのライオン頭の奴」
「ヘカーテ?」
そこでナツコが説明を入れる。
「ヘカーテ…別名はヘカテ、ヘカッテ、ヘカティなどとも言われます、古代ギリシャの神の名前ですわ。今では邪神という扱いとなっていますわね。まだ神であった頃は子育てや豊穣…浄めと贖罪を司る神として崇められていますわね」
それに加えてケイスケが説明する。
「FBIにもテロリスト認定され世界中で指名手配されていますにゃん…実際の顔はわからないというのがFBIの見解ですにぃ。周囲の物質を取り込んで自らの身体を作ってしまうから、顔を変えるなんて屁でもないと思いますォ」
やはりテロリストだったのか。
あのクソ野郎…この借りは絶対に返してやろう。
ついで俺はケイスケに質問。
「テロリストとしては有名だったんだ…あれもドロイドバスターの能力なの?周囲の物質を取り込んで…」
「そうですにぃ。ドロイドバスターの能力は個人差があって例えばキミカちゃんはグラビティコントロールを得意としていますにぃ。ヘカーテの能力はクォンタムコントロールエレクトロンコントロールの複合…既存の物質を物理法則を無視して変化させる能力ですにぃ」
既存の物質を物理法則無視で…変換?
どっかで聞いたことがあるぞ。
コーネリアじゃん?
コーネリアの能力は確かそうだったはずだ。どんなものでも爆弾に変えてしまう能力だ。
「それって、コーネリアも同じ能力を…」
「そうですにぃ。ドロイドバスターの能力は宇宙にある様々な法則を無視して自らの思いだけでコントロール出来るというもの。能力は4系統あって、キミカちゃんはそのうちの一つを持っていますにゃん。グラビティコントロールはその能力の一つですにぃ…フヒヒ」
「マジ…ですか…」
そこでナツコが補足する。
「キミカさんの目の色が変身後に青くなるのは4系統のうちの一つ、グラビティコントロールの影響ですわね。同じようにグラビティコントロールを扱うコーネリアさんの目の色が青いのもそうですわ。一方でメイリンさんやマコトさんの目が赤いのは別の能力系統を扱えるという事を意味していますわ」
「え?じゃあマコトはグラビティコントロール扱えないの?」
「えっと…例えばコーネリアさんがヘカーテと同じ、クォンタムコントロールエレクトロンコントロールを扱える一方でグラビティコントロールも扱えているので一概に目の色が能力と直接結びつくわけではありませんけど…」
「よし、マコト、これを浮かせてみて!」
俺はマコトにチーズフォンデュを手渡す。
「ええええ?」
「頭に浮くことを念じてからやるといいよ」
「う、うん…」
マコトはチーズフォンデュに神経を集中する。
睨んだり、手を手前で組んで祈ったりする…がいっこうに何かが起きる気配はない。
「はぁぁぁぁぁぁッ!」
マコトが中二病臭く手をチーズフォンデュの手前で覆うように置く…と、その時だ…チーズフォンデュが…。
「あッつぅッ!」
燃え出した。
「すげぇ…燃えた…」
「こ、これは…」と目を凝らすナツコ。
エントロピーコントロール…ですにぃ。不知火というテロリストの首謀者、ジライヤが扱っている能力ですぉ」
「すっげェ…。ところでエントロピーコントロールって?」
と俺が聞くとケイスケがズッこける。
「キミカちゃんが驚いてるのは何か解ってるからと思ったのですが、ギャグですかにゃん?」
「まぁお決まりです」
エントロピーっていうのは全ての物質は必ずエントロピーが減少するという宇宙的法則をねじ曲げて、例えば物質を燃やしたり逆に凍らせたり、気体・液体・固体という状態を自由にコントロールする能力ですにゃん」
ま、マジですか…。
そういえば俺が日本海でジライヤと戦った時、奴の周囲には海水が凍らせて氷河のようになっていた。
あれはそういう事だったのか…ジライヤのエントロピーコントロールで海水のエントロピーを増やして固体化させたって事か。
「という事は…逆に凍らせる事も出来るのかな?」
とマコトはコップを手にとって中に入っている牛乳(マコトはお酒じゃなくて牛乳が飲みたいと言ったので)に視線を集中させる。
すると…。
「あ、凍った」
マコトが握っているところから牛乳が凍っている。
「凄いじゃん!」
と俺が褒めると、
「えへへ…それほどでも…」と頭をポリポリ掻くマコト。
そして「これならどこでも火が作れるから料理が出来るよ!」と力強く拳を握って目を輝かせた。
…いや、料理の為の能力じゃないんだけど…。