89 マコト君通夜会場 1

今日は色々とあった…。
本当に色々と…。
朝は寝坊するし、まだ冬休みだとか勘違いするし、バスには乗り遅れるし、出会い頭にマコト君とぶつかるし、学校は遅刻するし、夕方はテロリストと遭遇するし、撃てれて変身出来ないし…。
そして色々あってマコト君はマコトちゃんへ…まぁ、つまりは美少女へと変わってしまった。
あれから皆と別れて俺はマコトを連れてケイスケの家に戻った。
マコトはこの日本に来て板前の住み込み修業で師匠の家に居たらしいけど、もうそこには戻れない。突然その師匠のところへ美少女がやってきて「これからここでお世話になります」とか、まぁそれはないにしても「私はマコト君本人なのでマコト君の荷物を貰います」って言ったらどういう顔されるかわからないからね。
結局、マコトは俺達の家に住むことになりそうだ。
ケイスケも自分が設計した美少女2名が家に住むのはエロゲ的展開で全然ウェルカムらしいし、むしろマコトを他の家に済ませたくない的なところまで考えていたらしい。
ご飯の支度をしていたケイスケはそれはもう嬉しそうだった。調子のいい時には意味もなく「にゃん!」とか言うけど、今回もまさにそれで「にゃん!」とか言いながらお祝いだとか言って沢山の美味しそうな料理を拵え(こしらえ)ている。
一方でナツコはジト目でそれを睨む。
「お兄様はわたくしがドロイドバスターの装置に触ったら凄い剣幕で怒ったくせに、いざドロイドバスターの生成がうまくいったらさも自分の手柄のようにうれしそうでなよりですわね」
と怒っている。
「アレはボクチンの手柄ですにぃ!」
「結果は同じですわ。キミカさんからの連絡を受けたのはわたくし…。研究室まで連れていったのもわたくし…。装置に仕掛けたのもわたくし…その時お兄様はどこをほっつき歩いていたのやら!」
まぁーた喧嘩が始まった。
リアルに存在する兄と妹っていうのはアニメの世界とは違って本当に仲が悪い。同族嫌悪って奴かな?自分と似たようなのがこの世に存在しているのが嫌とか言って互いに殺し合うって奴かな?
「まぁまぁ二人とも…お祝いの席なんだから」
と俺がとりあえずフォローする。
そんな話の流れはぶった切ってマコトは言う。
「あ、あの、本当にボク…ここに住んでいいの?」
「もちろんですォ!」
「じゃ、じゃぁお言葉に甘えて…よろしくお願いします」
とお辞儀するマコト。
俺の目の前ではボーイッシュな女の子が顔を赤らめているようにしか見えない。これが前まで男の子だったマコト君なのか。なんて恐るべし…ケイスケの2次元美少女マジックだ。実は俺、美少女でもボーイッシュな女の子が好みなんだよね。
服は若干サイズ的には小さいものの、俺の服でも着れるっぽい。最初はブラやパンティーを装着するのに躊躇っていたマコトもブラなしで服を着ると乳首がぽっこり膨らんで見えるという破廉恥な姿になるのを鏡でみて、自らブラを装着した。
マコトは俺よりも若干背は高く設計されているけどあんまり差はない。差があるとすればおっぱいの大きさぐらいかな。俺がDカップぐらいだとするとマコトはBかA…かな。でもボーイッシュな女の子でおっぱいが大きいのはアレだから、アニメ的なセオリーどおりにそのサイズは実にキャラにジャストフィット(何)だと思う。
それはそうと、ケイスケは夕食の準備を終えたようだ。
テーブルに並べられた料理はケイスケの手作りの洋風料理。
プロ顔負けとまでは行かないまでも意外にもケイスケは料理は上手いのだ。ナツコはたまに練習しているのを見たことはあるけど、食べさせてもらったことはない。以前ナツコの料理を食べた事があるというケイスケ曰く「それほど美味しくはない」との事。
「わぁ…美味しい」とマコト。
「思う存分食べてくださいにゃん!」
ケイスケも喜んでいる。
「先生、料理が凄い上手ですね…ボク、割烹の修行に日本に来てるからお手本にしたいぐらいです」
「もちろんOKにゃん!先生は手とり足取り教えますにぃ!」
「キミカちゃんも料理はするの?」
と突然俺にマコトから質問が来る。
「え…あ、あたしは…食べる専門…みたいな」
俺は料理全然できないわ。
本を見ながらそのとおりにっていうなら出来るけど…それが楽しいかと言われると楽しくないからやらないだけかも?
「ぜ、ぜんぜんOKだよ!ぼ、ボクが作ってあげるから!」
なんか聞いちゃいけない事を聞いちゃったみたいな感じで少し焦ってマコトが言う。大丈夫大丈夫…料理が出来ない女の子は残念系だけど俺は中身が男の子だから別に気にしてないって。
「ちなみに妹も料理は全然ダメですにゃん!」
「お、お兄様!そんなの今は関係ないじゃありませんの!」
あぁ、もうまた始まった兄弟喧嘩が。
…ん?
そういえば…俺、今凄い違和感を持ったんだけど。
これはマコトがここに来てからずっと違和感があった事だ。マコトの話し方に関してだけどね…聞いてみるか。
「あ、あのさ、」
とケイスケに言う俺。
「ん〜?なんですかぉ?」
「なんでマコトは『僕』っていうのがOKであたしはダメなの?なんであたしの一人称は『あたし』なの?」
俺はドロイドバスターになった最初の頃は『俺』と言っていたのに、今はこのクソケイスケに話し方が男っぽいからっていう理由で『あたし』に変えられたのだ…許せない。
「マコトちゃんは『僕』じゃなくて『ボク』ですにゃん」
「知らないよそんなこと!そんなの発音したらわからないじゃんか!小説とかに書いた時しかわかんないじゃんか!」
「『僕』と『ボク』は全然違いますにぃ…フヒヒ」
「いや、聞いてるこっちは同じに聞こえるんだけど…」
「『僕』は『僕ぅ』が出来ないけど、『ボク』は『ボクぅ』ができますにぃ…フヒヒヒ…ボクっ娘ですにゃん!」
「いやいやいや、意味わかんないよ!!」
「キミカちゃんはボクって言ったらイメージが違うからダメですにゃん!キミカちゃんの一人称は『私』でも『わたくし』でもないにゃん!『あたし』ですにぃ…フヒヒ」
「あたしも『俺』とか使えるようにしろよぉぉらぁぁぁ!」
俺はケイスケの首根っこを両手で締めてそのままグラビティコントロールで身体を持ち上げながら言う。
「そ、そんな事したら猫語にするにぃぃゃん…」
「うわわわッ!」
素早く俺は手を離す。
猫語はやばい。
ケイスケに俺とか使えるようにしろって迫った時に一度「猫語」にされた事があったけど、思考の中まで猫語になってしまったにゃん。
う、うわあああああ!!!!
なな、なな、なんで思考の中が一瞬猫語になるにゃん?
ウヒヒィィィィ!!!
!!
今一瞬、ケイスケがニタァ…と笑った。
お、おそるべし…猫語…。