88 ドロイドバスター 4

マコトの記憶はテロリストを掻い潜ってモールの外に出るまでに連中に発見され、逃げたところを撃たれた…ところで止まっていた。
そこで死んだと思っていたらしい。
俺達はマコトがドロイドバスターになるまでの…いや、『美少女』になるまでの経緯を話した。
マコトを生き返らせるためにはそういう手段しか無かったという事、たまたま女の子のモデルしか存在しなかったという事。
それからこれからの事…。
これからの事…それは、マコトは既にこの世には存在しないという事だ。だから別の人間として生きなければならない。
きっと頭の整理はつかないだろう。
今はまだ。
だから俺の話を聞いて頷くしかなかったんだろう。何一つ疑問を持たず、ただ聞くことしか出来てなかったみたいだ。
「マコト君の死体を元の場所に戻してきて欲しいにぃ…」
ケイスケがそう言った。
マコトは自らが男だった時の死体を見てショックを受けていた。お腹にぽっかりと穴が開いていた。それは痛々しいショットガンの弾痕でもあった。
もう死体は死後硬直を始めていて生前の姿から離れていく。
「ボク…死んだんだ…」
改めてそう認識しているマコト。
人は言葉で説明しても頭で本当に全てを理解出来ているかと言えばそうではない。自らの死を知るのは自らの死体を見てから、それはとてもシンプルでとても残酷な方法だった。
俺はまだ素っ裸のマコトに、用意していた俺のブラウスを背中から掛けてあげる。そして言った。
「マコト君はあたしを守って死んだんだよ…」
マコトは自らの男だった時の死体を触った。
顔から喉、胸、そしてお腹。名残惜しそうに。
「でもキミカちゃんが生きててよかった。もしキミカちゃんが死んでたらボクは生き返った意味がないもの」
そう言ってマコトは微笑んだ。
その微笑みは涙と一緒にあった。
「じゃあ、死体をモールに置きにいこう」
俺はドロイドバスターに変身するとともに、マコト君の死体をキミカ部屋(異次元空間)に吸い込んだ。
俺の目の前でマコト君の死体の周囲の空間がネジ曲って渦巻き状になり、亜空間へと吸い込まれていった。
「す、すごい!」
マコトが驚く。
コーネリアやメイリンやソンヒもそれを見て驚く。
「ど、どういう技ニダ?」
というソンヒに、
「お前も吸い込んでやろうか!」
と俺が身構える。
「や!やめるニダ!!危険な奴!」
吸い込みゃしないよ、っていう。
さてと、モールへ行くか。
既に警察の連中がウロウロしてるだろうからこの死体を置きに行くのは時間の経過と共に苦労するぞ。
俺はマコトとソンヒを。コーネリアはメイリンをグラビティコントロールで輸送してモールの上空へと向かった。ちなみに途中、マコトは空を飛んでるのが嬉しいらしく凄い喜んでいた。確かに初めて空を飛ぶわけなんだからなぁ普通喜ぶかな。
屋上から見下ろしたモール下には既に警察が立入禁止のテープを張り巡らしていた。
そしてその周囲にはマスコミと野次馬が沢山。
「大騒ぎになってるね…」
マコトがそれを覗き込んで言う。
それに続けて俺が言う。
「はぁ…なんで無実の人が死ななきゃいけないんだろうね。それにこんな田舎のショッピングモールで…。あ、変身を解いて置こうよ。途中で警察に見つかったらやばいし」
「ソウデスネー」
そこでみんな一斉に変身を解く。
「凄い、みんな…スーパーヒーローなの?」
学校で同じクラスの連中が変身して別の人間になったり、また元に戻ったりっていうのを目の当たりにしたマコトの感想がソレだった。そういうマコトも変身できるはずだけど。
「マコトも変身してみたらいいじゃん」
「ええ?ぼ、ボクもできるの?」
「うん」
マコトは俺達に見つめられながら、変身しようと色々とポーズをとっている。どっかのヒーローモノの日曜の朝にやってるアレみたいな感じで「へーんしん!」とかやるも全然効果なし。
「プッ…クッソ笑えるニダ!!」
と言って「ウハハハハハ!」と大笑いするソンヒ。
「だ、だってどうやって変身するか習ってないからしょうがないじゃんかよーッ!!」と怒るマコト。
そういえば俺も最初はなんか変な事をしたら変身したような気がするなァ…思い出したくもないけど。
「変身ハ自分ガ一番身近ナポーズヲ取レバ出来ルヨウニナッテイルハズデス…。例エバ私ハ、」
コーネリアはそう言って胸元のロザリオのペンダントにキスをする。と、金髪ツインテールの女の子へと変身。
「す、すごい…。身近なポーズ…身近なポーズ…えっと」
しばらく考えた後、マコトは地面に跪いて手を胸の前で組んだ。そして目を瞑る。それはマコトが最初に俺達と出会った時、あの教会の中で神の偶像の前でしたポーズだった。
その瞬間、マコトの周囲を炎のような結界が包み、一瞬でマコトの身体はあの培養液ビーカーの中で見た黒髪ショートカットの美少女へと変身した。
…。
でも、全裸だった。
「うわあああああ!!!!」
「クッソ笑えるニダァ!!ウアハハハハハハハ!!!」
全裸のマコトを見て大笑いするソンヒ。
「何故全裸ニナルノデーッス…マコト…」
「違ッ、違うよ!変だよ!なんで全裸に!」
「まだ戦闘服とかの設定がないんじゃないの?ケイスケにいろいろやってもらわないとダメかな」
「そ、そっか…それより戻る時はどうするの?」
やっぱり素っ裸は恥ずかしいらしい。
「戻るように願えば戻れるはず」
「う、うん…戻れ戻れ戻れ…」
呪詛のように願うマコト。
あっというまに元の姿に戻る。ちゃんと服は着ている。俺が渡したブラウスだけで後は素っ裸だけど。
その後、俺達は警察がウロウロするモール内を歩いていた。時折、怪我は無いかとか外に救急車が待機しているからとか、警察の人達が俺達をいたわるような事を言う。
他にも生き残った人がいるみたいだ。
「この辺りにしとこっか」
周囲に警察がいないというのと、監視カメラなどが無いのを見計らって俺はマコトの死体を異空間から取り出した。
「ヘーイ…マコト。マコトヲ撃ッタ奴ハ誰デスカァ?」
コーネリアが言う。
「あ、あんまり覚えてないよ…確かマスクをしてたかな。頭全部を隠すようなタイプの」
「ソレハテロリスト全員ガソウデスネェ…」
ごもっとも。
コーネリアはそう言いながら側に転がっているテロリストの死体のマスクをグラビティコントロールを使って剥ぎとった。まるで汚いものには触れたくないような表情で。
「Hmmm…」というコーネリアに、
「何かわかったか?」とメイリン
「ドウヤラ、コノテロリスト、イワン野郎ノヨウデス」
「イワン野郎?」
ウォッカ野郎トモ言イマスネェ…ロシア人デス」
あまり時間はないようだった。
俺達の周りでは警察はどんどん増えていった。のんびりしていたらテロリストの仲間だと勘違いされてもアレだしね。そうそうに切り上げて俺達は他の負傷者と共にモールを後にした。
それにしても、ロシアのテロリストがなんでこんな田舎に?