80 一年の計は元旦にあり… 1

新年あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
前年の大晦日では本当に大人しく過ごしていました。
オードブルをスーパーで買って、お寿司をスーパーで買って、後はお蕎麦の材料などを買いまして…。家ではケイスケ、ナツコ、それからにぃぁも揃って大晦日を迎える…。俺は久しぶりに家族と一緒にいた頃の事を思い出したよ。
どうせつまんない正月の番組がテレビで放送されているだろうから買い物ついでにビデオディスクを借りたりした。ケイスケはアニメで俺が洋画、ナツコは本当にあった呪いのビデオっていうオカルトな邦画ビデオを借りた。
そしてそれを見ながら3人プラス1匹でコタツに入って夕食を摂る。
いつしか外にはちらほらと雪が降っているのが見えた。
今年もホワイトお正月になるのかな…。
熱燗を2合ほど開けたあとにゆく年くる年が始まった。そこでケイスケが年越しソバをシメとして出してくれるわけですよ、うん、いいですね、酒のシメはやっぱり温物ですね。
お蕎麦を食べ終わった後は初詣に行こうかと思ってたけど、外は寒いし、酔ってて歩けそうにないし、なんか面倒臭いし、というわけで、俺はソファーに寝転がってぐーぐー寝始めた。
これは俺の記憶にある去年の大晦日
それから年を…超えたと思う。
気がつくと何やら俺の首筋にモゾモゾと動く芋虫状のものがある。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は素早く翻るとブレードを引っ張り出してその芋虫状の太い指の持ち主であるケイスケをあと少しで始末できる位置で寸止めした。
「無礼者」
「ひいぃぃぃぃ!キミカちゃんんふぅ」
「いま思いっきり脱がそうとしていたね」
「違うんですぉ!」
「あけましておめでとうございます」
「…あけましておめでとうございます」
「そして死ね!」
「まッ、待つですにゃんォォ!!」
「はぁ…?」
「た、大変な事になってるんですぉ!」
「そりゃ大変だよ、新年あけましておめでとうしたらケイスケがあたしのブラウスのボタンを外しておっぱい見ようとしてたんだからね、こりゃぁぁ、大変だ大変だ〜。…死ねッ!」
「はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわッ!!そういうアレじゃなくて、アレがアレで大変なんですぉ!」
アレがアレでアレ?
なんなんだよ、死ねよもう面倒臭いから。
見ればケイスケはどこか他所行の…っていうかタキシードみたいな服を着ている。そしてナツコは和服に身を包んでいる。まるで初詣にでも行きますっていう格好だ。
「あぁ、初詣にいくの?」
「ち、違うにゃん!」
「え〜…じゃぁ、何するの?」
「お父様がボクチン達を呼んでいるのですぉぉぉぉ!!!!1」
「ほほぉ」
「お正月の挨拶回りです…」
お正月の挨拶回り。
ん〜…このキーワードは久しぶりに聞いたぞ。
家族と一緒に暮らしていた頃はそういうのはやってた。お正月は朝早くに起きてからお年玉を貰うやいなや、大急ぎで着替えて車飛ばして出掛けるのだ。そして県外に住んでる親戚の家に集合…。
親戚一同が集まる大イベントである。
みんなでおせちを食べてオードブルを食べてお寿司を食べて…。大人達は近況話に華を咲かせ、子供達は外で元気に遊ぶ。
もちろん当時子供の俺からすればそこでお年玉を色々な親戚から貰えるから別に悪いイベントでは無かったよ。だけど中学生…そして高校生と年齢を重ねる度にそれは面倒臭くなり、いよいよ「いい年こいた大人がお年玉なんてッ!」と親が親戚に断りを入れた時、俺はもう面倒臭さMaxで行くのを止めた。
そういうお正月の挨拶回り…っていうのを今からいくわけですね。
俺は大急ぎでシャワーを浴びて着替えた。そしてあのポンコツのミニカーみたいな車に3人が乗って、家を出発する。
しばらくすると車は高速道路の入口に入っていく。
「お父様の家っていうのはどこにあるの?」
「九州の片田舎ですにぃ」
「っていうか、今の家ってお父様の家じゃないんだ?」
「今の家はお父様とボクチン達とお母様が一緒に住んでいた頃の家ですにぃ。お母様が死んでからはお父様は空き家になっていた親戚の家に一人で住んでますにゃん」
「え?なんで?」
あ、今の質問はちょっと無粋だったかな…反省だ。
「お母様との思い出が沢山ある家には住みたくなかったんじゃないですかにぃ…。それに老後は田舎でお母様と一緒に暮らしたいって言ってたのもあると思いますにゃん」
…そっか。そうだよね。俺もちょっと違和感があったんだよ、お父様がいるのに一緒に暮らしていない時点でさ。
ふと俺はaiPhoneで時間を確認する。
既に午前10時…。
今からこのクソ遅い車で出掛けたとしても、到着は随分と遅くなるだろうか…だって山口から九州だもん。
「九州のどこなの?」
鳥栖ッ!」
そういうわけで、俺達は新年早々、渋滞する高速道路を九州へ向けて出発したのだった。