79 体育会系忘年会… 7

ここまでの戦いで採点では俺達は劣勢に立たされていた。
この勝負の条件からすると勝ったほうが負けなので(勝ったほうの代表が俺とキスする)俺達は普通に歌うだけで勝利を手に入れそうな状況になっていた。
「そっちわざと下手に歌ってるんでしょうが!」「卑怯者!」「ちゃんと勝負してよね!」などとテニス部の女子部員がブーイングを言い始めるも、水泳部女子部員も負けてはいない。「あはは!勝ちそうですね、おめでとうございます」「キミカちゃんのキスをくらえ!」「うやましいわーッ!」と反撃。
なんだか俺のキスが女子の間で避けなければならない厄災みたいな扱いをされていることがさらに腹が立つ。これでも中身が男なんだから女子にそんな事を言われるとショックだ…。
「あ、次はユウカじゃん!…クックック…。秘密兵器登場」
え?秘密兵器?
ユウカが歌うと何が起きるの?
「ちょっと、失礼でしょ?ぶっ飛ばすわよ」
といつもの調子でユウカがテニス部部員どもに怒る。
ユウカがセレクトしたのはまぁ、無難にどこかの女性シンガーの曲だ。コマーシャルなんかで聞いたことがあるなぁ。という曲の最初、ユウカの声を聞かない時までは、そんな風に思っていた。
その時だった。
ユウカが歌い始めたのだ。
最初の印象。
下手。
しかし…下手というだけなら、今までも下手な人はいた。ちょっと音程が外れていたり、曲に歌が乗り遅れたり、早すぎたり、そんなのは別にいいんだ。しかし…ユウカの歌は…。
なんか頭が痛くなってきたぞ。それから吐き気がする。
耳を抑えてもこの不安定になるユウカの声が頭に響いてきて…ってなんじゃこりゃぁ…!!下手ってレベルじゃないぞ、おい。どんだけ人の気分を悪くすればいいんだよ。
俺は頭を抱えてテーブルの上に突っ伏す。
他の人達を見てみると、ある人は両耳を手で抑えて、ある人は大声で話す事でユウカの歌を聞かないようにして、ある人は何か口から呪詛みたいな言葉をブツブツと並べる事で気を紛らわしたり、とにかく奴の歌声はセイレーンが旅人を殺す時のアレだ。旅人じゃなくてRPGの主人公達を攻撃するアレ。惑わすとかそんなレベルじゃない。殺す時の奴。ダメージを与える系だ。
俺は頭が痛いとか吐き気がするっていう最初のステップを既に通り過ぎていて、目の前が真っ白になったり、耳が聞こえなくなったり、全身に汗を掻いたり、周囲の景色がぐるぐるまわったりした。これはアレだ、サウナ風呂から出てきた時に身体が温まりすぎて気を失いかける時のに似てる。
「ちょっ、マジ…マジで勘弁」
俺はフラフラと立ち上がる事が出来たがそのまま歩くことは叶わず、地べたを犬のように四足で這ってからカラオケVIPルームの扉を開けて廊下を這い、やっとの思いでトイレへとたどり着いた。
そしてお手洗いのところで思いっきりゲロを吐いた。
「あ〜…あ〜…やばい…ゲロ吐いたの久しぶりだよ」
俺はガンガンする頭を抑えながらそう言い放って、深呼吸をした。そしてちょっと外の空気を吸ってきてからVIPルームへと戻った。
…。
戦闘は終了したようだった。
そこには死体の山が…じゃなかった、ユウカの歌を聞いてダメージが許容範囲を超えて倒れている人達の山があった。
「ちょっ、何よ!なんなのよ!」
キレるユウカ。
「もうユウカの勝ちでいいよ」
「どういう勝負での勝ちよ?!」
まぁ、とにかくだ。これでようやく3次会が終わりを告げようとしていた。全員歌い終えて、AIによる採点の結果が出る。
ユウカの歌がどれだけ下手だろうとこれは覆せまい。ギリギリで俺達の勝ち(負け)になる…。ほら、やっぱりね。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
テニス部の女子部員で代表に選ばれた奴が叫ぶ。
それから、
「ほんッと、ごめん、無理、無理だから!わたし、そういう趣味ないから!!女同士でキスとか無理だから!!!」
テニス部の代表は逃げようとするが、それをテニス部部員と水泳部部員が一斉に抑えて動けないようにする。と、そこで俺がじわじわと恐怖を与えながら接近する…。
「キースッ!キースッ!」
「無理無理無理無理!!絶対だめだってば!」
「キースッ!キースッ!」
「ちょっ、何顔赤らめてるのよ!キミカ!あんたね!あんたも反対しなさいよ!マジでレズなの?!」
「キースッ!キースッ!」
俺との唇接近はあと5センチ。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
あと2センチ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
あと1センチ。
「(しーん)」
(んちゅ…)
「んーッ!!んーッ!!!」
(んんちゅ、くちゅ…)
「んーッ!!んーッ!!!んーッ!!!んーッ!!!」
(んちゅちゅ…くちゅ)
「んんんん!!ん?んんんん!!!」
(くちゅ、くちゅ…ちゅぽ)
「ぐげぇ…へぇ…い、いやああああああああああああああああ!!なんで舌入れてくんのよ!!しかも思いっきり歯の裏側まで舐めたでしょ?!変態!変態キミカ!」
「変態だよぉぉ(白目」
ごちそうさまでした。