79 体育会系忘年会… 6

数ある曲の中で俺は曲の中身は知らないけどもタイトルだけは知っているのをたまたま見つけたのだった。
これは神が歌えと言っているに違いない…。
周囲の視線が「キミカァ〜まだァ?」って感じに集中する気配を感じながら俺は急いで曲を登録して、そしてマイクを持って前に出る。もうそれだけでまるでアイドルが舞台に登場したかのようにキミカファンクラブの連中は俺に熱い眼差しを送る。
曲名は…『恋のロシアンルーレット
何となく曲名だけは頭に残ってたんだよ。
何の曲だったかなぁ…?まぁいっか。
曲が始まる。
すると歌詞が出ている画面には2次元の美少女が制服姿で走って来る萌え画像が流れる。まるでアニメのオープニングの様な…。
と、同時に、キミカファンクラブ以外の男女はみんな渋い顔をする。というより、まるで俺から目を逸らすかのように。
一体俺が何をしたっていうんだ!
曲が終わってから、
「ねぇ、それアニメの曲?」とか「うわっ…キモイよアニメでしょ」「絶対何かのアニメかゲームの曲だよ」「なんだろ、この気持ち悪さ…」とかヒソヒソと聞こえてくる。
許さない。
俺が一生懸命歌ったのに。
「くッ…無礼者め!姫に失礼だぞ!」
うわぁ…ここでさらに『姫』とか言いながら俺をフォローするのやめてくれ…。また俺が変な目で見られちゃぅぅぅ…。
「でもアニメソングじゃんか、キモ」
言われた…。ぐぬぬ
「違う、アニメソングじゃない」
え?マジで?
アニメソングっぽかったけど…。
実際にPVはアニメっぽいけど。
「確かこれはSecondHeartっていう美少女アダルトゲームの主題歌だね!あれは名作だったと思うよ!うん!」
なななな…なにぃぃぃ!!!!
「さすがは我らが姫、我々の趣味を熟知されている」
と全然フォローになってないファンクラブ団員Aの言葉。
引き続いて罵詈雑言の嵐をお届けします。
「や、ちょっ、マジで?」「美少女アダルトゲームって…」「うわぁぁぁぁ!きんもーッ!」「ちょっと、キミカ…水泳部の名前を汚さないで…」「ちょっと引くわ…」
…。
俺は中学の時の事を思い出していた。
それは俺の家に友達がやってきた時の事だった。
当時、俺はエロ雑誌やエロピンナップを集めるのが趣味で毎回オカズとして使用していたわけだ。そんな趣味の中に「エロ漫画」というものも含まれていた。
俺からすればただのエロい漫画…。しかし、友達はそれを「アニオタが読むもの」と勝手に判断していて、俺の部屋でそれらを見つけた友達は「アニオタキメェェェwww」と俺を罵った。
それ以来、俺は街中でアニオタがキモイっていうキーワードを見かけるたび、または聞くたび、ビクビクしていた。俺の事ではないのに。もうトラウマになっていたのだ。
そして、今そのトラウマが復活してしまった。
「うぅ…ううう…」
俺はうずくまって罵詈雑言に耐えていた。
「き、キミカ様…」「キミカ姫!」「我らがキミカ姫、どうか、どうか耐えてください。我々は今も味方です」
とかそんなのどうでもいい。
「うぅぅ…うひ…ウヒヒ」
「ちょっ、やばくない?」「おかしくなった!」「やばいやばい、キミカが壊れたよ?」「あたし悪くないもーん(笑い声」「おい、お前のせいだろうが」「笑ってるぞ…」「キレたか」
(ぷちッ)
「がるるるるるるるるるるるるッ!」
俺は「あたし悪くないもーん(笑い声」と言った奴に狙いを定めて(ちなみにテニス部部員だった)奴のスカートを捲り上げて「ぎゃああああああ!!」という断末魔を確認した後、そして奴の白いパンツ…じゃなかった白いケツに噛み付いた。
「いたッ!痛い痛い痛い痛い、ひーん!」
「がるるるるるッがるッ!」
「ひーん!ひーん!」
俺が我を失って噛み付いていたら、途中からキミカファンクラブの連中が引き剥がしにかかってきて、いよいよ俺の鋭い牙はクソ女のケツから離れる事になったのだった。
パンツ越しにもわかるぐらい綺麗な歯形がケツに残っている。
「がるるるッ!わんッ!」
「姫ッ!落ち着いてください!」
「わんッ!わんッ!」
「ひーん!ひーん!」
そういえば俺はこの間の記憶がないな。どうやら犬化していたらしい。許すまじ…リア獣め。
気がついたらキミカファンクラブの団員達が歌う順番にきていた。俺はそいつらが何を歌っているのか、それに気付いた時に驚愕した…。甲高い声、奇妙な振り付け、変な踊り…うわぁぁ!!
やめろ……やめろ。
俺のトラウマを思い出させるな…。
「ちょっ、キンモーッ!」「キミカの真似すりゃいいってもんじゃないでしょうが!」「男子がそれやるとか…ちょっと女子のキミカであの反響なんだから考えなさいよ!」「ひっこめオタクが!」「夢に出てきそう…マジでヤメテ」
うわぁぁぁぁ!
罵詈雑言の嵐はまるで中学生の頃の俺に対して向けられているような気さえしてくるのだ…やめてくれ。やめてくれ…。
「キミカ姫!」「どうですか!」「エロゲ主題歌の舞は!」
これだけ恥ずかしい事して誇りまで持ってるところが既に人間として終わってるぞ。って俺もじゃん…。
「キミカ姫ーッ!アイラビュー」
投げキッスをしてきた時に、また俺の中で何かがキレた。
たぶん、堪忍袋の緒だと思われる。
「がるるるるるるるるる…」
あとは言うまでもなかった。