79 体育会系忘年会… 4

1次会は早々に終わらせて2次会会場であるカラオケのジダッグズへと足を運ぶ体育会系の一団。
というか納会を1次会とすると今のが2次会で3次会になるんで俺は帰っていいかな?普段から基本的にぼっちな俺は3次会とかレベルが高すぎて追いつけないし追いつきたくもないんだよね。
と、幾度と無く俺は駅の方面へ向かって歩こうとしたがユウカのクソに襟首掴まれ引きずられるハメになった。
そしてカラオケのジダッグズへと到着。
まるでお城のような造りの建物である。さらに悪趣味な事にライトアップされていて暗闇に浮かび上がるその姿はまさに悪の…いやリア充の居城。一体どれぐらいの少女達がこの建物のなかでスケベな男達にあんな事やこんな事を…フヒヒ…。
それはともかく、じつは俺は生まれて一度もカラオケというものには言ったことがないんだよね。アレでしょ、プロでもないなんちゃって自称歌手野郎が偉そうにプロが作詞作曲した歌を歌ってみてほらボクチンってかっこいいでしょ?ってやるアレだよね、うわぁ…リア充寒いわァ。
「ほら、何やってんのよ!入るわよ!」
とユウカが俺の背中を押す。
幹事でもあるキミカファンクラブの面々が一通り手続きを済ませると俺達は一番奥に用意されている通称VIPルームへと通される。
テレビなどで見たことがあるカラオケルームとはイメージが随分と違う。軽く20名ぐらいは収納出来るような広い部屋に液晶のテレビっていうちょっと今どきでは古い(と言ってもホログラムは高いから導入を渋るのはわからないでもないけど)設備ではあるけど、内装はしっかりとしている。お城みたいだ。
「それで…ここは回転ベッドとか泡風呂とかマットとかはどこにあるの…?コンドームとかはベッドの横に置いてあるの?」
と俺が聞けば、
「キミカ姫…そんなものはカラオケボックスにはありません」
と真面目な顔で答える団員A。
「あれ…前にテレビではそんなのがあったような…」
「多分それはラブホテルです…」
俺達はそれぞれ適当に椅子に座ろうとするわけだけど、ここでまたあのウゼェテニス部キャプテンのイケメン野郎が、
「ちょっと待って!座る位置重要だから!」
とか言い出す。そして、
「キミカちゃんの隣に誰が座るかが重要だから!」
と続けるとこれには水泳部部員男子どもも、キミカファンクラブの団員もキレる。十二分にキレる。
「水泳部なんだから水泳部部員と一緒に座るに決まってんだろ、アホか」「お前それしか考えてないのかよ!」「テニス部は頭じゃなくてペニスで物事を考えるからな」と罵詈雑言の嵐。
「ま、まぁ、キミカっちの意見を聞こうよ」
とナノカが間に入る。
俺?俺か。俺はね、
「美少女の間に座りたい…フヒヒ…」
「ほら!我がキミカファンクラブ近衛騎士団に挟まれて座るのが安全だとキミカ姫はおっしゃっているぞ!無粋なテニス部部員の間に座るなど危険極まりない!誰が許すか!」
おーい、軽くスルーするなよおーい。
結局、俺は近衛騎士団っていうかキミカファンクラブの水泳部出張所の面々に挟まれるような形になって座る事になった。
「それじゃあ、ルール決めようぜ!」
うぜぇ…なんだよルールって。さっそくあのバカ(テニス部のキャプテン)がルールがどうとか騒ぎ始める。
「なんだよルールって」
「勝負だよ!勝負のルールに決まってんじゃん」
「負けたほうが勝ったほうに土下座とかするかぁ?」
と水口がドヤ顔で挑発。結構自信があるらしい。
「はッ、バカか。これはキミカちゃんを争う勝負なんだぜ?勝ったほうがキミカちゃんの唇を奪えるっていうのはどうだ?」
おいおいおいおい!!
「ふざけんな!そんなの許されるわけねーだろ!」
さすがは水口キャプテン。そこはきちっと言ってやってくれ!っていうかそれ以前に俺の意見を取り入れてくれよ、人をモノみたいに扱いやがってよ、さっきから。というわけで、
「さっきから黙って聞いていれば!あたしは勝っても負けてもキスとかペッティングとかセックスとかはしませんから!」
と俺が言うと、キミカファンクラブ団員も「そうだそうだ!」と応戦する。テニス部の女子も水泳部の女子も「不謹慎よ!」「死ね!」「変態野郎!」「いやペッティングとかセックスとか話に出てないから!」とか罵詈雑言を浴びせる。
まぁここで色々と考えても埒があかない。俺がご褒美を上げるっていう路線は取り敢えず残しておいて…。
「勝ったチームへのご褒美はあたしが決めます」
そう言って場を仕切る俺。
「(ごくり)」
男子達の生唾を飲む音が聞こた。
女子は俺を見つめ次の動向を伺う。
俺はゆっくりと息を吸い込んで、そして言葉を放つ。
「勝ったチームの代表の女子に…」
…。
「じょ、女子にィィ?!」「(ごくり)」「な、なに?ビンタをくれてやるとか?」「なんなのよ…?」
…。
「キスをプレゼント」
…。
一同は一斉に三枝師匠ばりに椅子から転げ落ちた。ちょうど新婚さんいらっしゃいと同じぐらいの転げやすい椅子だったから綺麗にキマったらしい。みんな怪我もせず派手にこけれた。
「ちょっ、それご褒美なのォ?!」「罰ゲームの間違いじゃないの?」「あんたが代表やりなさいよ!」「いや、あんたでしょ、ここは…」「ちょっ、マジで複雑なんだけど」とテニス部女子達は大混乱に陥り、一方で水泳部女子達は俺がレズ(というか中身が男なんだからレズっていうかまともなんですが)という事を知っているのかジト目で俺を睨み、「言うと思った」「ご褒美って自分へのご褒美ってオチじゃん」「代表はナノカでいっか…」「誰かキミカちゃんとキスしたい人〜?」という荒れっぷり。
こちらの代表はナノカに決まって、つまりはもし俺達がカラオケ勝負で勝ったのならご褒美にナノカに俺がキス出来るわけだ。
向こうは…。
テニス部の女子は性格は若干難ありだけど、顔はまぁまぁ、美少女まではいかないにしても普通の学校の女子よりかはレベルは高い。お嬢様学校の学園の中でもどっちかっていうと悪い意味でのお嬢様が集まっているのがテニス部という感じに見える。
その悪い意味でのお嬢様達は今、誰が罰ゲームを受けるのか…いや、誰がご褒美である俺のキスを受けるのか決めるべく、真剣勝負のじゃんけんがスタートしつつある。
俺がそいつらの中でも目があった女子に向かって投げキッスを送る。微妙な表情で俺の投げキッスを受け取ったそのテニス部部員の女子は顔を赤らめながらも髪の毛を逆立てるという微妙な反応で俺の投げキッスに応じた。
「「「「「最初はグー、じゃんけんぽい!!」」」」」
あいこだ。
「うわぁぁぁぁ!!」「あっぶな!」「あーッもう!やめてよもうやめてよ!」「もーなんなのよーもう!」
…。
2回戦目。
「「「「「最初はグー、じゃんけんぽい!!」」」」」
うわぁ…。2名残って後は勝ち。
って、ユウカが残ってるじゃんワロタ。
俺は「あははははははは!!」と大笑いしながらユウカを指さした。ユウカは顔を真っ赤にしながらプルプル震える。
一方でもう一人残っているテニス部女子部員はテニス部部員の中でもさらに根性腐ってそうなお嬢様って感じの顔つき…つまり、美人だけど性格は腐ってそうな女だった。
そのプライド高そうな女子部員が顔を真っ赤にし、同時に冷や汗を頬に伝わせながらじゃんけんの次の勝負を待つ。
3回戦目。
「「「「「最初はグー、じゃんけんぽい!!」」」」」
「っしゃッァ!!」
ユウカが勝ちやがった…っていうことは…。
俺はその視線を、ドラマでも悪役に位置しそうなお嬢様に定めて、にっこり微笑み、舌なめずりをした。
「ちょっぉぉぉぉッ!マジで…!いやあああああああ!!かんべんしてもーッ!」と凄い嫌がり様。
「まぁ、もし勝ったらって事で」
とユウカがフォロー。
「絶対負けてよね?絶対だからね?」
とユウカ及びテニス部部員達に向かって支持するそのお嬢様。でも面白がられてるらしく、「まぁ、勝負だから全力でいくわよ」とか「もう覚悟しなさいよ…くくッ」とか「ミスアンダルシアとキスできるなんて羨ましいわッ!」とか「え?もしかしてファーストキス?」などとからかわれている。
ちなみに最後の「もしかしてファーストキス?」って質問でよりいっそう顔を真っ赤にしたから本当にファーストキスっぽい。
…思わぬ収入が得られたわい。
…ひぃひぃ言わせてやろう…フヒヒ。