79 体育会系忘年会… 3

水泳部とテニス部の両者は同じ部屋の別のテーブルでそれぞれが飲み会を淡々と行なっていたのだけど、最初にちょっかいを出して来たのはテニス部のほうだった。
ちなみに連中がちょっかいを出す前から俺はユウカの頭に向かって枝豆の中をぶつけたり、ユウカの刺身の皿の中に焼き鳥を投げ入れたりとか嫌がらせをしていた。なんか楽しそうにイケメン先輩と話してるアイツの姿を見ているとムカつく…。
男の嫉妬のようなものが女になった俺の中で完全に覚醒し猛威を振るっていたのかも知れない、が、止める気はさらさらない!
あぁ、話を戻そうか。
どうも向こうはこっちみたいにノリにノッて馬鹿やるような連中じゃないらしく外でも自分達の見た目?的なものを気にしているっぽい。体育会系でも少し意外ではあるね。
そのテニス部が少し盛り上がりにかけるからと、俺の近くまであのイケメンキャプテン君がやってきて、
「ねぇ、キミカちゃん、僕らと一緒に飲まない?ほら、ここにいても釣り合ってないじゃないの?ほらほら」
とニヤニヤしながら俺の手をとって連れていこうとする。
俺は「ちょっと先輩やめてください殺しますよ」って言おうと思ったんだけど、既にテニス部キャプテンが近づいて来た時から色々と言おうと思っていた連中(ファンクラブ団員)が動いた。
イケメン先輩の腕を取って、
「その汚らわしい手で我らの天使を触らないでください」
とキモい事を言った。
それを聞いたイケメン先輩は俺が思ったような反応をしやがったよ。オーバーに手を動かして団員の手を振りほどいて、
「Oh!天使ときたか!やめてくれよ〜ッ!怖いよ〜ッ!」
うぜぇ…。
「なぁ、水口ぃ、キミカちゃん貸してくれよ?いまいち盛り上がらないんだよ、俺ら」
とか言ってる。おいおい、人をモノみたいに…。
「おい!天使様をモノみたいに扱うんじゃない!」
と泣き上戸団員Aが言う。
いや、お前らも十分俺をモノみたいに扱ってるじゃん…。
さて、そろそろ熱血系水口キャプテンがキレるぞ。と、思ったら案の定、俺の予測していたとおり…水口は立ち上がってしかもイケメンキャプテン君の襟首掴んで、
「おい、あんま調子に乗んなよ?部員にちょっかい出すのやめろ」
ひょおぉぉぉぇ〜かっこいい〜
俺が女の子だったら惚れちゃうワンッ!
すると、向こう(テニス部)のほうから野次が飛んできた。
「ちょっと、キャプテ〜ン!そっちからキミカちゃん取ったらアンバランスになるじゃん?やめてあげなよ〜。あははははは」
うへぇ…露骨な攻撃だなおい。
これは思いっきり水泳部女子の逆鱗に触れる。
「ふッざッけんじゃないわよ!何よ?!アンバランスになるって?!こちとら顔のバランスで部員構成してんじゃないのよ!」
ごもっとも…。
「きゃーッ!こわーいッ!」
うぜぇ…。
しかし、こんな状況にも関わらず、澄まし顔で「自分は関係ありませんよー」的なイメージを周囲にばらまいている奴がいる。ユウカだ。てめぇ、そっちにいる限りは俺達の敵だっていう事を忘れているわけではあるまいな…発射ッ!
俺はさっきから発射していた枝豆弾を今度はほくほくポテトの餅団子弾に替えてユウカの頭に投げた。
それはうまい具合にユウカの頭の上に乗った。奴はまったく気づいていないフリをしていたらしいがさすがにポテトの餅団子は例外だったらしい。思いっきり勢い良く立ち上がると今まで俺が奴の頭に向けて投げてた枝豆弾がコロコロと床に散らばっていった。
「キミカ!さっきから何投げてんのよ!小学生か!」
「あらあら…言い掛かりはやめてよォ」
「気づかないとでも思ったの?!あんた殺すわよ?!」
そんな二人のやり取りの間にファンクラブ団員が口を挟む。
「我々の天使様が貴方のようなビッチを相手にするわけないでしょう。変な言い掛かりはやめてもらいたい!汚れる!」
「んだとォゥッ!」
鬼のような形相で我がキミカファンクラブ団員を睨むユウカ。
そもそもなんでこんな事になってるんだっけ?
あぁ、そうか…クソイケメンキャプテンがこっちに話して来なかったらこんな事にはならなかった。ったく…。
「キミカちゃんとどっちが関係が深いかで決めようじゃないの?ん〜?」と水口キャプテンに言うテニス部キャプテン。
「はぁ?何にってんだお前。藤崎は水泳部に所属してるんだぞ?関係が深いのはこっちに決まってんだろ?」
「あ〜、これだから脳筋は困るな。キミカちゃんは水泳部所属だけど同時に帰宅部所属なんだよ?わかる?」
そりゃごもっとも。
それに続けてテニス部キャプテンが言う。
「俺はキミカちゃんのお尻に思いっきりアレをくっつけたことがあるぞ?これに勝てるか!?水口!」
突然なんてこと言い出すんだこのバカは。
「な、ナニィィィィ?!」
キレる水口。慌てるファンクラブ団員達。
「ほ、本当なのですか?天使様」
いや、だから天使様やめてよ…。
「まぁ、そういう事もあったような…」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然キミカファンクラブの団員Bが泡を吹いて倒れて、団員Cがそれに心臓マッサージをしている。「クソッ!死なせはせん!死なせはせんぞぉ!!」とか言いながら。いや、そいつ確実に死ぬよ。
まぁ確かに以前このヤリチン(テニス部キャプテン)が絡んできた時に俺がわざと腰をぶつけて勃起させ、周囲の女子に変態野郎の称号をつけさせるように仕向けたのは事実だけどね。
「で、お前はどうなんだ?あぁ〜ん?」
と今度は水口キャプテンに問う、変態野郎。
「お、俺は…一度藤崎に抱きついた事もあり、抱きつかれた事もあり、それから騎乗位体勢で腰を振られた事もあり…、あと、これは言っていいかわからないが藤崎のパンツの中身を見たことがある」
顔を赤らめて言ってはいけない事まで全部暴露する水口。
「な…ナニィィィィィィィィィ!?」
あんぐりと口を開けて固まる変態野郎こと、テニス部キャプテン(こいつ名前なんていうんだったかな…まぁいっか)
「き、キミカちゃん…それは本当なの?」
と目を見開いて震えながら俺に問う変態。
「まぁ、嘘ではないけど…」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それまで心臓マッサージをしていた団員Cが突然泡を吹いて倒れて今度は団員Aが泣きながら「動け、動け、動いてよぉ!みんな殺られちゃうんだよぉ!」と言いながら心臓マッサージしている。
「どうだ?わかったか?俺との繋がりのほうが大きいんだよ?」
ふふん、と偉そうにする水口キャプテン。
これは確実に水口の勝ちだな。
と思っていたがしぶとく絡んでくる変態キャプテン。
「女子とは不釣合いだって言う話はどうすんだよ?だいたい、そっちの女子はお色気度がゼロじゃないか?キミカちゃん以外」
うわぁ…言ったよ、言っちゃたよ。それ言うとうちの女子は怖いぞー。殺されるぞー。あのたくましい筋肉に。
「あんた、首と胴体が繋がってる間にやっておきたい事を全部すませときなよ?今しか食べたり飲んだりできないからさ」
キターッ!
ビクついてる、ビクついてるぞ、テニス部キャプテン。
「っていうか、何?ファンクラブとか、潰したはずなのに!キモいんですけどぉー」と声が聞こえたぞおい。誰かと思えばビッチユウカ様じゃないの。しかもそれに声を合わせるように、
「そうだそうだーッ!キモイっていうのーッ!」
ってテニス部女子が言う。
さすがに俺もこれにはキレたね。
「団員A、B、C。玉座を準備しなさい」
と俺は命令する。
玉座…それはファンクラブの団員にしか許されない、肉の椅子である。それに座るのは世界でただ一人、俺だけなのだ。
気絶から意識を取り戻したファンクラブ団員はせかせかと椅子の形を3名の身体で作り上げて俺が座れる状態になる。そして俺がそれに座ると、ゆっくりと玉座は起き上がって高く高く、
「いてッ」
あんまり高くすると頭をぶつけてしまうだろうが!
「あぁ、申し訳ございません、姫」
と団員Bが言う。
まぁいいだろう。
「ビッチユウカ…今のあなたとあたしの立ち位置の差があなたとあたしの差なんだよ」
「いや、あんた座ってんじゃん…。しかも体育祭の時の騎馬戦の騎馬みたいな変な椅子に」
呆れた顔でユウカが俺を見上げて言っていやがる。
それには俺よりも先に騎馬のほうが怒り始める。
「なんだと!この無礼者め!この騎馬…じゃなかった、玉座はキミカ姫以外は座ることを許されない究極の椅子なのだぞ!」
とか言いながら勢いをつけた騎馬、じゃなかった玉座を構成する団員Cが勝手に動くので俺は天井に頭をゴリゴリと擦られて「いてッ…いたい。いたいってば」と言う。
「あぉぁッ!申し訳ございません!姫!」
ところでなんで俺こんな変な椅子に座ってるんだろ…?あぁ、そもそもテニス部のバカキャプテンがこっちに話し掛けて来なかったらこんな事にはならなかったんじゃん。どうしてくれんのよ、天井に頭が擦られまくるしさ…。
「ねね、みんなで2次会行こうよ、せっかくだし」
とナノカが突然言う。
「み、みんなって…水泳部とテニス部で?」
「そうそう。カラオケ勝負しようよ!勝負で決めようよ!」
うわぁ、やめてよその体育会系のノリ…。2次会はやめようよ。非体育会系は1次会オンリーで帰宅するんだよ…。
「あたしは、ちょっと用事があるから1次会だけでいいや…」
俺は玉座の上からそう言った。
即座に玉座のほうから、
「姫ッ!なぜそんなに弱気なのですか!」
いや弱気とかそういうアレじゃなくて面倒臭いだけ…。
「あんたあれだけ挑発しといて逃げ得するわけじゃないでしょうね?わかってんの?勝ち負け決まるまで帰さないんだから!」
ヌゥゥ…。
これだから体育会系は嫌いなんだよ…。