78 未だにサンタクロースとか信じてる人って… 2

「いい?サンタの格好して早く1階に来て!」
ユウカはそう言って部屋から出ようとする。
「ちょっと…。普通に1階に現れていいの?」
「ん…だって、それしかないじゃん」
「まぁ、それでいいならいいけど。サンタって意表をついた場所から出てくるから面白いっていうか、子供に愛されてるんだと思ったけどな。煙突からとかさ」
「あー…。そうだ!実はこの家、中2階があるのよ。階段の途中から行けるわ。そこは荷物置き場に使ってて、妹はその事実を知らないわ。だから使っても大丈夫」
「その…中2階に入ってどうするの?」
「1階のリビングに中2階へ通じる場所がもう一つかるから、そこから出てきたらきっと妹は驚くと思うよ?」
「ほほぅ」
ユウカに案内されたのは2階と1階を繋ぐ階段。この途中に中2階へと通じる扉があった。普通に大人が出入りするにはちょっとばっかしキツイぐらいの穴だけど、俺が入る分には余裕だ。
「それじゃよろしくね!」
ユウカはそう言って妹が待つ1階のパーティ会場へ向かった。
俺は中2階へと繋がる扉を開けた。
中はしんと静まり返ってて埃や蜘蛛の巣はそれほどない。
荷物入れとして使ってるという言葉通り、ユウカの家の人がちょくちょく倉庫として利用しているっぽい。例えば入り口には赤いフタの直径が20センチぐらいの四角の瓶が置いてあって中には梅がお酒に浸かっているのがわかる。
背を屈めてその暗闇の中を進む。
光が漏れてるのか明かりは無くても問題ないっぽい。
下から笑い声が…。クソッ。俺を抜きに楽しんでるじゃねぇかリア充どもめー!今からサンタさんが登場しちゃうよぉ?
特に光が漏れてる場所を見つけた。
その光は正方形に漏れてて、それは天窓がある事を意味している。つまり、この天窓を開けると1階へと出るわけだ。
(ぎぎ…ぎぃぃぃぃ…)
俺はゆっくりと天窓を開けてみた。
1階の中を見渡すと、さっきからギャハハとかアハハとか談笑している声の中心にユウカの妹がいる。あの布団でぐるぐる巻きになってる妹がお布団クリスマスバージョンという事なのか、サンタのコスプレみたいな色の赤の生地に白のふわふわがついてるお布団を巻いてる。よくまぁサンタバージョンとか作るよな…。
地面のほうを見てみると…ん〜…確かに天窓だけど…これ、地面から3メートルぐらい離れてるような気がする。ここからハシゴ無しに飛び降りろっていうのかよ…。
などと考えていた。
と、その時だった。
ぐるぐる巻の布団の中のユウカ妹が腰を屈める。と、中にいる妹の顔と天窓から覗く俺の目が合ってしまった。やばい。
固まるユウカ妹。
取り敢えずだ…取り敢えず事を荒立てないようにする為に、俺はユウカ妹にニッコリと微笑むと、天窓をゆっくりと締めた。
それから1階がしんと静まり返った…。
「ど、どうしたの?」
これはナノカの声か。
「なんかいる…」
そしてユウカ妹の声。
「え?」
「天井から何かが見てた!!」
「え〜?何も居ないよぉ?気のせいだよ」
「だって、私の方を見て不気味な笑みを浮かべてたもん!」
「気のせいだってば!あははは〜面白いなぁユウカの妹は」
さすがに事情を知ってるユウカはフォローにまわる。
「あ、アレじゃない?ほら、サンタクロースだよ!」
「おねぇちゃん!サタンクロースは煙突から入ってくるんだよ?」
なんだよサタンクロスって。
「だってほら、うちは煙突無いからさ!」
そこスルーかよ…。
「え〜…だってぇ…」
「ほら、呼んでみなよ?サンタさんが出てくるかもよ?」
あぁ、これは呼ばれたら出てこいって合図だな。ユウカがうまく帳尻合わせしようとしてくれてるな。
「ほらほら、早く呼んでごらん?」
「え〜…っと…。サタンさーん」
俺が出ようと天窓を開けようとする。
が、
「ちょっッ、あははははは!何、サタンさーんって」
とナノカの笑い声。クソッ…余計なところで…。出るタイミングを失ったじゃないか!!今出てきたら俺はサタンクロースとして大恥をかくところだったよ。
「サンタクロースよ?」
とユウカ。
「えっと…」
声に詰まるユウカ妹。
「呼び出す時は『深淵の闇よりいでよ、サンタクロース!!』って言って呼び出さないと出てこないよ?出てきたら仲魔として戦ったり他の悪魔と合体できたりするからさ」
また余計な事を…ナノカめぇ…。
ユウカ妹がゆっくりと息を吐いたり吸ったりする音が聞こえる。それから気合を入れて以下のセリフを吐いた。
「よ、よぉ〜し…いくよぉ…。我が名を元に呼び出す…深淵の闇よりいでよ、サンタクロース!!」
しかたない、今しか出るタイミングがない。
俺は天窓を開けて、地面へと着地…する時に怪我をしないようにグラビティコントロールを用いてゆっくりと地面へと着陸する。5、4、3、2、1、ゼロ…着地。っと。
しーん…。
俺が見渡すとユウカもナノカも驚きの顔。メイは相変わらず目の中の星をキラキラと輝かせて俺を見つめている。ナツコは苦笑い。そして…ユウカの妹に至っては身体を折り曲げて布団の中から俺を見てるわけだが、顔面蒼白で目を見開いてまるで悪魔でも見つけてしまったかのような顔をしている。
え、えっと…。これは俺はどういうリアクションすればいいのかな?取り敢えず妹はサンタクロースを信じてるんだっけ?今もなんか俺がキミカだっていう事に気づいてないみたいだし、ここは一つサンタクロースとして演じてやるか。
サンタクロースの真似…サンタクロースの真似…って、どういうのがサンタクロースだったっけ?
う〜ん…。
う〜〜〜ん…。
…。
「我が名は魔王『サンタクロース』今後ともヨロシク…」