77 ファッキン・クリスマス 1

この時期は街を歩くのがつらい。
寒いからつらいとか、足が老化してんじゃねーのかとか、デブなのかとか、運動不足だろうがとかそんな半端なレベルの話じゃない。歩いてみればわかるよ、ほらそこの恋人のいないキミ。
街を歩けば楽しそうに歩いてるカップルが1カップル、2カップル、3カップル、4カップル…うわぁぁぁぁ!!
楽しそうに歩きやがって…露出狂め!
いいか?俺はこんな身体だから彼女を作ろうと思ってもできないんだぞ!世の中そういう不幸を背負って生きてる人がいるんだ。健常者は少しは俺達のほうを見てくれよ!健常者(=恋人アリ)と同じように街を歩きたいだけなんだよ!!
え?メイとか誘えばそれなりに恋人と歩いているような気分にはなるじゃん、贅沢言うなこの野郎だって?
もしその俺が歩いている最中にふと鏡のような反射する何かに映ったとしよう。まず可愛らしいメイの姿が鏡に映る。ここはOK。
次にこれまた可愛らしい…ってメイよりも可愛いじゃないか。誰だこの可愛い女の子は!うわぁ可愛いなー…彼女にしたいよ、この女の子。紹介してよ!!あぁぁぁあぁ!!
…って俺じゃん!
その可愛い女の子、俺じゃん!
俺は思わず誰も見ていないのに自分にツッコミを入れる。
つまりそういう事だ。
俺は男として女の子と歩きたいわけだ。
しかしそれは叶わない夢。
だから俺はクリスマス近辺には街を歩きたくない。惨めな気持ちになる。生きてる事が罪に感じる。夏祭りでちょっと興味があるからって一人で来てしまって「あ、やべぇ…」って周囲を見渡して自分しか一人で来てる人がいない時のあの心境だ。
ちなみに、俺が男の時もそんな心境になっていたのは心の奥底へと始末している。今はその時よりも状況は良くなっている…のか?
俺は女だからという理由で女の子と付き合えないっていう現実から目をそらしていないか?俺の心の中でブラック・キミカが「てめぇが一人なのは今に始まった事じゃないだろうが…ケケケ」と笑っているような気がするので俺は妄想の中でブラック・キミカをゴミ箱の中へと放り込む。
とりあえず電子品街を歩いてるときに新作ゲームである「ファッキン・クリスマス〜サンタの服は血で染まる」というFPS(一人称視点のシューティング)を購入したのだった。
これはモテない主人公がサンタにふんして街へと現れて戯れる恋人どもに血の制裁を加えるっていう異常極まりないゲームだ…。
さて、ところ変わって数日後の学校にて。
「でさでさーあの2ndステージのボーナスステージの男女が聖夜にセックスパーティしてるところに侵入してさ、」
「オーッ!キミカモソノステージ行ッタノデスカーッ!」
「あれ、超面白いよねーッ!!」
「私モ大好キデーッス!!特ニセックスシテル野郎ヲショットガンデ始末シタトキニ、死ンデモマダ腰フッテルトカ、」
「アハハハハハハハハハ!!アレめっちゃ面白いよねッ!」
などと俺とコーネリアが談笑していると、
「あんた達何話してるのよ…」
ったく、コイツは。空気が読めないな。クリスマスをどうやってぶっ壊すかの話だよ!!
「Oh…ホームルーム始マリマスネー」
どうやらホームルームが始まるらしい。
俺が席に着くと、しばらくするとケイスケが現れた。
サンタクロースの格好で…。
ケイスケのサンタの格好を見たクラスメートの女子達は空気を読んだのか、「せんせー!メリークリスマース!」などと言ってる。こらこら、そんなことを言ったら…。
突然ケイスケは自ら着ていたサンタクロースのコスチュームをバリバリと引き裂いて素っ裸になった。
ケイスケの広いお腹には真っ赤なマジックで英語で「Christmas is dead(クリスマスは死んだ)」と書かれてある。それが血に見えなくもない…。よっぽど憎たらしいのだろう。
「きゃーーーーーー!!」「なんで脱ぐのー!!」「さいてー!」「消えろ豚!」「てめぇ汚ねぇモノ見せんじゃねーよ!」
うわぁ…言われてる言われてる。
「だ・ま・らっ・しゃ・い!!」
黒板をバンバンと叩いて怒鳴るケイスケ。
それでもクラスの女子達は罵声を浴びせるのはやめない。
すると、ケイスケはパンツに手を掛けた。
まさか…脱ぐんじゃないだろうな…。
「ぎゃーーーーーーーーーー!!!」「やめろーー!」「バカ死ね!」「夢にでる!」「太りすぎだよ、死ねばいいのに」
「おとなしくしないと脱ぐにゃん!」
…。
「」
…。
あれだけうるさかったクラスメート達が一瞬で静まる。
さすがケイスケ。女子の扱い方を知ってるな。
「今年のクリスマスは3連休ですが…」
とケイスケが言い出すと、やっぱり女子は3連休のクリスマスが嬉しいのか今度は嬉しい悲鳴をあげ始めた。
それに被せるように続けて、
「冬の冷え込みが予想以上に激しいため、中止となりました」
マジかよ。
「はぁぁぁぁぁい?」「何言ってんのコイツ?」「せんせー…マジで…」「黄色い救急車呼ぼうよ」「うわぁ…寒い」
…。
気持ちはわかるけど中止にはならないよ…。
「先生はクリスマスがだいッ嫌いだにゃん!」
そんな自己中な意見に対してクラスメートは、
「知るかよそんなこと」「それは先生だけでしょ?」「自己中過ぎるじゃん」「だからって中止はないでしょ…」
当然の応酬だった。
「クリスマス…先生は小さい頃はクリスマスが好きだったにゃん。パパ様とママ様がサンタクロースにふんしてプレゼントをくれる夜だにぃ。サンタなんていないって子供心にもわかってたけど、それでも家族で一つ屋根の下で楽しく過ごす大切な日だったにぃ!」
俺にはどうしてもケイスケの父親がサンタの格好にふんしてプレゼントをくれるようには思えないんだけど…。どっちかっていうと落武者が返り血を浴びて生首を入れた袋もって家に上がり込んでるイメージしか浮かんでこないぞ…。
まぁ、とりあえず…そんなケイスケにクラスメートの一人は、
「だ、だからどうしたっていうのよ…普通じゃん」
「じゃあお前は今年のクリスマスは家族と一緒に暮らすんですかにゃん?!先生お前の家を見張るにぃ!!」
「家族と一緒に過ごすに決まってるじゃん…」
「嘘をつくなにぃぃ!!!」
「なッ…」
「恋人と一緒に過ごすって前に話してたにゃん!1組の飯田って奴と一緒に過ごすって話してたにゃん!」
何でお前がそれ知ってんだよ…。
「なんで知ってんのよォォ!!!」
ケイスケはバンバンと黒板を叩きながら
「いつから!クリスマスは!セックスする日に!なったんですかにぃ?!先生は許しませんッ!許しませんォォォォ!!」
まぁケイスケの言ってる事は一理ある。
身に覚えのある女子はみんな顔を赤らめている。
「クリスマスは男女で遊ぶのは無しとしますにぃ」
すると、その見に覚えのある女子達は一斉に反論。
「ふっざけないでよ!先生には関係ないじゃん!」「そうだそうだ!」「先生がモテないから僻みじゃん!」「っていうかどうせクリスマスはお休みだから先生の監視とかないし」
最後の一言、誰が言ったかは知らないけどケイスケはそれを聞き逃さなかったのだ。ニヤリと笑ってから、
「フフフ…この3連休は警察と先生で協力して街で監視するにぃ。もし不純異性交遊があったら即逮捕だにぃ」
「「「エーッ!!」」」
「保護者の皆様には娘さんがどこの馬の骨かわからん男のチンコを処女マンコにぶっ突き刺して男のチンコを真っ赤に染めながらも愛液でビショビショにして絞りとるように男の精液を子宮内にたっぷりと注いで、終わったらいちごみるくをベッドにばら撒くって考えていますよって言ってあるにぃ!!」
なんてこと言うんだコイツは。
「「「ぎゃーーー!へんたーい!!!」」」
それからはもうケイスケサンタと女子クラスメートの激しい応酬。もう泣き出す生徒とか先生が居たりしたよ。
まぁ、俺はどのみちクリスマスは外出できないけどね。