76 Mapple vs サムチョン 3

全てが終わった。
そう、終わったんだ。
俺は力尽きて変身を解いた。
俺の身体は元の普通の女の子へと戻った。
悪は滅びた。
澄んだ綺麗な青の秋空には少しだけ雲が流れている。そしてそれが一瞬ジョブズの顔の形になったような気がしたのだ。
「終わったよ…あんたが守りたかったものを、守ったよ」
歓声。
Mappleストアのシャッターがあがり、中で待機していた同士達が溢れんばかりの歓声を上げて俺の元へと近づいてくる。どいつもこいつも、見た目はアレだけど本当に良い奴ばかりだ。
そのパンク頭の奴等は俺の身体をみんなして持ち上げると、空へとジャンプさせた。胴上げだ。
「「「「わっしょぃ!わっしょぃ!」」」」
おいおい…やめてくれよ、俺だけじゃないだろう?
みんなも一緒に戦ってくれたんだ。
いまここには部外者も敗者もいない。
勝者しかいないのだ。
俺が地面へと降ろされる頃に、Mappleストアの店員が俺のもとへと駆け寄ってきた。
手にはバラバラになってしまった俺の相棒があった。そして、もう一つ。それは新しいaiPhone4Superの入った箱だった。
「こ、これは…どうして…?」
俺が戸惑いの顔をすると、店員は優しく微笑んだ。
「死んだはずじゃぁ…?」
Mappleストアの店員は首を横に振った。
「aiPhone4Superは常にあなたと共にあります。そう、まるで空を漂う雲(Cloud)のように常にあなたを見守っているのです。奪われ、破壊され、消え去ったとしても、何度でも復活します。無料で復活します。保守契約を結んでいらっしゃいますので」
俺は震える手でaiPhone4Superを手に取った。
そして頬に涙を伝わせながら、その高級感漂う感触を手に感じながら、ホームボタンを押す。
…黒い画面にメッセージが表示された。
それにはこうある。
「Mapple:いつもあなたのそばに」
それはジョブズが語っていた話の一つだった。
コンピュータはそれまでただの道具だった。
そこには魂もなければ愛着もない。ただの道具。道具だから同じ機能を持った別の道具でも代替えはできるし、それ以上の機能を持ったものが現れればその道具はあっさりと捨てられる。そう、金さえあれば、過去のものになってしまうのだ。
しかし、ジョブズはそんな道具に愛着と魂を与えた。
高級腕時計のように…またはメガネのように…または結婚指輪のように、それぞれ代替えする事なんていくらでも可能なのに、肌身離さずずっと持ち続ける事が出来るものにした。同じ物を大量生産しても…。
それを持つ人、一人一人に物語を。
そうなれる商品を。
「自分がいつも肌身離さず持っていられる物を創りたい。もし、そんなものが商品化されるのなら、それを売る私は、常にそれを使ってくれるみんなと一緒にいる」
…それは彼がMappleを立ち上げた時…
全社員(5名)に放った言葉だった。