76 Mapple vs サムチョン 1

インタビュアーがどこかへ消えた後、俺はMappleストアの前に供えられているジョブズへの献花に俺の持ってきた花を添え、そして線香を焚いた。
「ありがとうジョブズ。貴方のお陰で、あたしはここにいる」
そう言って両手をあわせて目を瞑る。
いよいよ、Mappleストア、オープンだ。
扉が開く。
一人、また一人と店内へと流れていく。
いつもなら店員のハイタッチがあった。
自分達の誇りにしている商品を売れる事が嬉しくてMappleファン達とハイタッチをして歓迎していた。
でも今日はそれがない。
ジョブズは死んだんだ。
自分達が誇りを持って売っていた商品を作ってくれていた偉大なるスティール・ジョブズは死んだ。だからもうこれからは売ることが出来ない…かもしれない。そういう可能性が1パーセントでもあって真っ暗な未来に絶望して、そして静かなのかもしれない。
俺は恐る恐る店員達の顔を見てみた。
しかし、誰一人として悲しい顔はしていなかった。
けれども笑顔でもなかった。
そこには決意があった。
ジョブズの死は巣立つ若鶏へ向けられたある一つのサインなのだろう。これから自分達の翼で空を飛んでくれと、大空という自由と危険が隣り合わせの世界へと羽ばたいてくれと、そういう意味を持ったある一つのサインなのだろう。
それを受け取った彼らの目には、これから押し寄せる困難を全て受け入れて飲み込んでいく、覚悟があった。
「ふッ…あたしも負けてはいられないな」
苦笑いをする俺。
そして俺は予約していたiPhone4Superの箱を手にした。
店内にはiPhone4Superを手にしたパンクな男達、女達が時代に乗り遅れないようにと我先にパッケージを開放し、ジョブズが最期に残したその素晴らしい快挙を堪能していたのだ。
俺もさっそくパッケージを開くか。
店の中で買ったものをすぐさま開くのはちょっと無粋な気もする。けれどもそれはジョブズのファンだから許される行為。だって彼の作品を家に帰るまで見ないでいるなんて、それは失礼じゃないか。それこそ無粋だよ。彼の前ではね。
手のひらより少し大きい箱を開くと中には10センチぐらいの説明書らしきものが入っている。けれどaiPhoneには説明書は不要なんだよ。何故なら直感で使い方がわかるんだよ。本当に便利なものは使い方も直感でわかるから説明書はいらない。
「うふふ…この曲線、フォルム、まさに美を追求しているね、実に素晴らしい。機能だけではなく見た目も意識する。ジョブズの意思はここにもまだ残っているんだよ、うん」
などと俺が言っていたその時だった。
そう、その時だったのだ…。
一発の銃声が響いたのだ。
「え…?」
俺は目の前がスローモーションになったのかと思った。Mappleストアの窓ガラスが真っ白になったかと思うと、一発の銃弾が俺目掛けて飛んできたような、そんな気がしたのだ。
そして俺の手にあったaiPhone4Superが粉砕されていくのが分かった。俺の手の中にあるこれから相棒になる奴が、その生命の灯火を何者かによって吹き消されていくのがわかった。
aiPhone4Superの破片が俺の頬を斬り、血を流させる。
「どう…して…?」
呆然と立ち尽くす俺。
「ふせろぉぉぉぉぉ!!!」
パンク野郎が叫ぶ。
店員もパンク野郎達も一斉に伏せる。
店内には銃弾の雨。
自動的に警備用のドロイドが現れて応戦する。だが押されている。押され気味になっている。
「武器は…武器はないのか?!」
パンク野郎が叫ぶ。
俺は武器リストからレールガンやプラズマライフルなどを出した。ショックカノンは俺しか扱えないからダメだ。武器はこれしかない…そして俺は、絶望の中にいた。
俺から武器を受け取ったパンク野郎がそれを外に向かって撃ちまくる。そして俺をかばいながら、
「負傷者だ!負傷者をはやく店の奥へ!!」
そう叫んだ。
負傷者…俺の事か。
でも俺は負傷なんかしてない。俺はaiPhone4Superのお陰で今もまだ生きてるんだ。クソ畜生な事に、俺は今でも生かされているんだ…。俺はボロボロになったaiPhone4Superの破片を集めながら、ポロポロと涙をこぼしていた。
「あたしが、あたしが代わりに死ねばよかった…うぅ」
「何を言ってるんだい!」
見ればパンク頭をしたパンク女が俺の肩をガシっと掴んで、そう叫んでいた。そして俺の肩をガクガクブルブルと揺らしながら、
「あんたは誓ったんじゃないのかい?!ジョブズに!!aiPhone4Suerは壊れても何度でも生まれ変わる。けれど、Mapple信者のあんたが諦めたらMappleが終わっちまうんだよ?!Mappleが終わっちまったら…!」
そうだ…。
Mappleが終わってしまったら、俺のこのドキドキも終わってしまう。俺の人生がまた一つつまらない色褪せたものになってしまう。俺が生まれた意味がまた一つ減ってしまう…。
それは俺だけじゃない。
この世のMapple信者も、これからMapple信者になるであろう奴等も、全ての奴等の人生が色褪せてしまう。
俺はゆっくりと立ち上がりながら、そして頬を伝う涙を指先に絡めて、空を斬ってそれを飛ばした。
Mappleストアの向かい側にはソンヒが居た。
奴は泣きながら笑ってチェインガンを取り出してMappleストアに撃ちまくってる。さっきの私服とは格好が違う。メイリンが着るような中華な赤を基本とした、お腹が見えてるセクシーな服。ああいうセンスはドロイドバスターでコンセプトモデルしかありえない。
つまり、既に変身完了って奴かよおい。
「ウハハハハハ!!!クソMappleは滅びるニダァァァァ!!!信者と共に瓦礫に消えろニダァァァァァァァァ!!!アーッハッハッハッハッハッハ!!!」
俺の渡した武器を使っても奴はそう簡単には倒せない。奴は通常の人間じゃないから通常の兵器では倒せないのだ。
Mappleストアの防衛に当たっていたドロイドはもう限界が来ていたのだ。ストアの防弾シャッターはゆっくりと降り始めた。
「あんた、どこへ行こうっていうんだい?!ここに居たほうが安全だよ!外に出たら、あの悪魔が…」
多分悪魔っていうのはソンヒの事なのだろう。
「大丈夫…あたしは、もう大丈夫だから」
「?」
「奴が『悪魔』だっていうのなら…」
「え…」
「あたしは『鬼』になるまで」
「あ、あんた…」
俺はその足でMappleストアのトイレへ進む。
そしてトイレの個室の中でドロイドバスターへと変身した。
黒い煙と波動に包まれて俺の身体はドロイドバスターへと変わる。そう、俺は鬼になるのだ。
この世界にMapple信者が居て、彼らがMapple製品で幸せになれるのなら、それを邪魔する奴等は許さない。例え鬼になり、憎まれようとも、俺はMapple信者の幸せを守る…!!
俺はトイレを出た。
店内がざわつく。
「き、キミカだ…ドロイドバスターキミカだ!」
「おいおい…マジかよ…俺達のもとにとんでもない救援が来たぞ!彼女がいれば100人力、いや1万人力だ!!」
ジョブズよ…見えてるか…?もし生きてたら見せてあげたかったよ…あんたに、この光景(死闘)を!!」
パンク野郎達は一斉に士気を盛り上げたのだ。
これから戦いが始まるのだ。
俺は亡くなったaiPhone4Superの破片を手にとり、Mappleストアの床を掘った。そしてその破片を掘った穴に埋めて墓を作った。
余っていた線香を墓に立てて火を灯す。
「行ってくるよ、相棒…」
aiPhone4Superの墓に俺は手をあわせた。
そして店内に飾られたジョブズの遺影にも手をあわせて、
「あんたはモノ造りの日本に現れた救世主だった。あんたが革命を起こしてくれたんだよ。ガラパゴス化したクソみたいなスマートフォン業界を神の光で焼き尽くしてくれたんだ。利権にまみれた総務省と通信業界のクズどもに一泡ふかしてくれたんだ。だから、こんどはあたしの番だ。あたしがあんたが残したものを守る番だ」
しんと静まり返った店内が一気に盛り上がる。
「うおおおおおおおおおお!!!!」
パンク野郎とMappleストアの店員達が叫ぶ。
俺は奴等に向けて言葉を放つ。
「今日、この街からNappleストアは消える!」
「うおおおおおおおおおお!!!!」
「世界中でサムチョン相手に訴訟が起きている!そんな生温い事は信者の誰も望んでいない!!」
「うおおおおおおおおおお!!!!」
「この歴史からサムチョンもaiinPhoneも、消し去る!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」