75 aiPhone4Super 2

週末。早朝4時。
俺は福岡の天神にいた。
まだ周囲は真っ暗。でも真のMappleファンなら全然苦じゃないよ新製品の発売日にする行動はそれがどんなにアホな事だったとしても全然苦じゃないんだよ。むしろ幸せなんだよ。
さてと、持ち物を確認しましょう。献花用の花、それから俺のメッセージが入った手紙、そして線香とマッチと…あとはaiPad。これは暇つぶしようね。よし、OK。
さて、並びましょう。
お、既に行列が出来てる。ヌゥゥ…。俺よりも早く並んでいる奴がいるとは、やっぱり徹夜組かな。
俺の前には5人並んでいる。スキンヘッドのにぃちゃんに、パンクのような中央だけ髪の毛を残した頭のにぃちゃんに、髪を栗みたいにトゲトゲに立ててるにぃちゃんに、ピンク色のショートヘアのねぇちゃん、それから青色のツインテールのねぇちゃん。
一見するとそれはどっかの暴走族のようにも見えなくもない。けれど、Mappleのファンにはそんなトンデモな人達もいる。ビッグウェーブに乗り遅れないようにしている人達が。
とりあえず、そこらの暴走族がたまたま座ってるっていうオチじゃない事を確認しようか。
「おにぃさん達は暴走族の人ですか?」
俺が聞くと、
「え?…違います。aiPhone4Superの発売待ち行列ですよ」
ほらね。
俺はその5人の後ろに持ってきたござを敷いて座った。
そして朝焼け空を待ちながら物思いにふける。
aiPhone…それはケータイの世界に革命を起こした商品だった。
ただの液晶パネルをツンツンと触っていた過去のケータイとは違って初めて「ホログラム」インターフェイスを採用したケータイだったのだ。ただ、発売当時はホログラムは高価だし処理もちょっと重くて不評だったんだ。それでもMappleは売り続けた。決して他の会社に空気をあわせず、自分の信じた道を進んでいた。
そしていよいよマシンの性能がMappleに追いついた時、ホログラムは魔法のアイテムになったのだ。
世界中で大ヒットした。それが答えだ。
ジョブズの思いは…魔法は、世界に届いたのだった。
その大ヒットから1年で発売が予想されていたaiPhone4Super。そこには革命の第2ステップが盛り込まれていた。
そう…電脳インターフェイス対応。
コンピュータと人類が融合した究極のユビキタスインターフェイス…電脳に対応したのだ。
ただ、電脳化した人は日本ではまだそれほど多くは居ないので、これはあまり目立つニュースじゃなかったけどね、それでも他にも色々と盛り込まれた機能がファンを唸らせたはずだよ。
俺はケイスケ曰く電脳にも対応してるっていうより、電脳化してるらしいからaiPhoneの機能を十二分に使いこなせるわけだよね。
あー、ちなみにaiPhoneの電脳対応っていうのは旧インターフェイスと電脳とを中間でゲートウェイしてくれる機能なのね。例えばネット端末の操作は普通はキーボードをカチャカチャ打つわけだけど、そこにaiPhoneを繋げるとあら不思議、俺の電脳インターフェイスと旧インターフェイスを持つネット端末が繋がって、キーボードをいちいち打たなくても操作可能になるのだ。
人類の夢と希望がそこに詰まっているんだよ。
などと思っていたら、行列はどんどん増えていった。俺の後方には先に並んでいたパンクっぽい頭の連中がわんさか増えてる。やっぱみんなビッグウェーブに乗り遅れないようにしてるんだね。
ん?なんか向かい側の店にも客が増えてきてるな。
って、朝の4時だぞ?
一体なんの行列?
っていうか何のお店なんだろ?
向かい側の行列はパンク野郎が並んでるMappleストアとは違って地味な服を着たおっさんとかがずらーっと並んでて、店名は…。
「Napple…ストアァァァーッ?!」
俺は思わず声に出して叫んでしまった。
Nappleストアってなんじゃそりゃ!!
なんて紛らわし名前なんだよ!間違えてそっちに並ばなくてよかったよ!っていうか紛らわしい名前で向かい側に店を作ってんじゃねーよ!滅びろよクソったれが!!
「ふぅ…ふぅ…」
怒りと興奮で過呼吸になりそうだ。落ち着こう。落ち着くんだ。素数を考えて落ち着こう。って素数ってなんだっけ?
ってNappleストアって何を売ってるんだ?
広告を見てみる。
「aiinPhoneンンンンン〜ッ?!」
俺は思わず声に出して叫んでしまった。
aiinPhoneってなんじゃそりゃ?!アイーンフォンって呼ぶのかよ?!バカ殿仕様かよ?!なんて紛らわしい名前なんだよ!!aiPhone買おうとした人が間違えて買っちゃうよ!!っていうか間違えて買っちゃう人を狙ってんだろ!!!著作権違反みたいな事してんじゃねーよ!滅びろよクソったれが!!!!
「ふぅ…ふぅ…」
怒りと興奮で過呼吸になりそうだ。落ち着こう。落ち着くんだ。草原で犬と戯れる美少女を考えて落ち着こう。
「あぁ、サムチョンのaiinPhoneか、あれは反則だよね」
ふと俺に話しかける人が。
隣にいるパンクみたいな頭をした男だ。
「サムチョン?って、朝鮮メーカーの?」
「うん。今世界中でMappleに訴えられてるよ。似たような製品作って間違って買うのを狙ってるからね、当然だよ。実際、様々な国で裁判に負けて賠償命令が出てるし販売も禁止されてる。日本ぐらいじゃないかな?未だに売ってるのは」
ヌゥ…許せん。許せんぞ…クソパクリ国家め!!
などと俺は思いながらそんなサムチョンのNappleストアに並んでるバカな日本人どもをジロジロと見ていた。この情弱どもは自分が間違って並んでる事気付いてるのかな?気付いてないだろうな…。でも、こっちに並んでる人達に比べるとなんか客層は違うな。
と、俺の視線は列の先頭から6人目に釘付けになった。
栗色の毛でそれを頭のてっぺんで止めててタマネギみたいな髪型の小さな女の子がいる。
…見覚えがあるぞ…。
たしか俺達の学校にやってきてイタズラなどをやらかした不良どもの中にいた奴だ。あの朝鮮人の…。
たしか奴は…。
あ、向こうも俺に気付いたな。
「あーッ!!」と俺を見て指さしてる。
それから、
「キミカ!!なんでこんなところにいるニカ?!」
思い出したぞ。
「パクリ・ソンヒ!!」
「ち、違う!私はパク・ソンヒ!!人の名前間違えるなニダ!」
そうそう…パクリ・ソンヒだ。
なんで奴がここに…クソ!!