75 aiPhone4Super 1

「親愛なるスティール・ジョブズへ」
「貴方は多くの人に感動を与え、多くの人に生きる希望を与え、多くの人にモノ造りの偉大さを教えました」
「貴方亡き今も、多くの人は貴方が産み出した感動に浸っています。どうか天国でもあらたなる製品を生み出してください」
「貴方と同じ時代に生きれた事を誇りに思います」
「天星12年:藤崎紀美香」
ふぅ…。さて、手紙も書いたぞ。
「あんた何書いてるのよ?ラブレター?」
あ、何をしやがる!!
クソビッチが俺の大切な手紙を取りやがった。
「スティール・ジョブズ?誰?」
「か…ぇぇ…せぇ…」
「ひっッ!」
俺はクソビッチから手紙を取り返した。
「な、なんなのよそれ」
「スティール・ジョブズを知らないなんて。情弱め!」
「知らないわよ。海外の名前ね。アメリカ人?」
「偉大なアメリカ人だよ」
俺とユウカの会話を聞いていたコーネリアが間に入ってくる。そして俺の情報を補足する。
「スティール・ジョブズハaiPadナドヲ世ニ送リ出シタ、現代ノ発明王デースッ!!マァ、名前ヲ知ラナクテモ仕方ナイデショウ…日本デハアマリ有名デハアリマセンカラ」
「へぇ〜…そうなんだ」
「Mapple(マップル)の代表取締役社長だよ」
「え…?Mapple…。知らないわ」
俺は驚きのあまり椅子から転げ落ちて拍子に俺の机をひっくり返し、フラフラとする身体を支えようとメイリンの机を持ったが叶わずメイリンの机もひっくり返してしまった。
「ちょっ…コケ方がオーバー過ぎよ。三枝師匠もびっくりよ」
「ユウカの情弱っぷりが酷すぎるんだよ。日本人で毎日お米食べてる人がお米知らないみたいな情弱っぷりだよ」
「なんの会社なのよ、Mappleって」
「コンピュータの会社だよ!もう…それぐらい知ってるのが普通でしょうに。おばあちゃんでも知ってるよ」
「そういう機械とか全然わかんないの!」
「ユウカ、ケータイ見せてよ」
「え?何よ?突然」
「いいから」
ユウカの携帯をポチポチ弄る。そしてケータイのメーカーやら関係会社、登録商標などを出す画面を見せる。
その中にはMappleの表示があるのだ。
「へぇ〜…ケータイの会社なのね」
「違ーーーうぅッ!!」
「だってケータイ…」
「いやだから、ケータイに技術を提供してるって事だよ。ほら、この操作とか(ケータイの画面をポチポチ触って表示が切り替わっている様子を見せる)こういうのって特許が取ってあって、マネて作ったらいけないんだよ?Mappleの表示があるって言うことは、このケータイの会社…えっと、これはチョニー製かぁ。チョニーがMappleの特許を借りて作ってるの!」
「ふぅ〜ん…あっそう」
あー、はじまった。
「あっそう」だよコレ。来ましたよコレ。情弱は機械の中身がどうなっていようと別にどうでもいいんだよ。みんなが使ってるから使う。どんなにそれが変なものでも使いづらくても高くても海賊品でも、みんなが使ってるから使うんだよ。
「それでキミカがそのMappleの社長に向かって手紙なんか書いてどうしたの?クレームでも送るの?」
「Mappleの社長にクレームなんてとんでもないよ!むしろ楽しい製品を売ってくれてありがとうって送りたいぐらいだよ!!」
そこにコーネリアが情報を添える。
「Mappleノ社長ハ先日亡クナッタノデス…」
そう。
そうなのだ。
偉大なるスティール・ジョブズが先日癌で亡くなった。
aiPhoneの発売を待たずして…。
その知らせを家のニュースで知った時は俺は衝撃のあまり震えてテレビの前で泣いていたよ。しかもケイスケのクソ豚がチャンネルをニュースからアニメに変えた時には、さすがに温厚な俺もキレて泣きながらケイスケのズボンに噛み付いたよ。
せめて発売日まで生きていて欲しかったな。スティール・ジョブズの最後に世に送り出した製品になるのはもうわかっていたんだ。みんなが喜んでそれを買う様子を見て天国に旅立って欲しかった。
それが俺達Mappleのファンが最後にジョブズにしてあげれる追悼になったんじゃないのか!!
と俺が涙を流しながら考えていた時…。
「ふぅ〜ん…あっそう」
マヌケなユウカの一言が…。
俺は驚きのあまり椅子から転げ落ちて、その拍子にせっかく元の状態に戻し終わった俺の机をひっくり返し、フラフラとする身体を支えようとメイリンのスカートの裾を掴んだが叶わず思いっきりそれを引きずり下ろしてしまった。
パンツ一枚になったメイリンが俺を見て一言。
「何をしている…頭、ウジ湧いたか」
「いえいえ…でも情弱のユウカを見てると本当にウジが湧きそうですよ、まったく。なんだよその反応、偉大なるスティール・ジョブズが死んだのに間の抜けたような空返事は」
「し、知らないわよ、そんなの。人はいつかは死ぬのよ」
「いや、人とスティール・ジョブズを一緒にしないでよ」
「人じゃないの?」
「神…かな…」
「」
「ちょっ、そこ、目がリアルに点になるのやめてくれない?言ってて虚しくなってくるからさ」
「虚しいわよ、虚しがりなさいよ。遠く離れた国の誰かが死んで一喜一憂するなんて…ったく、宗教ね。Mapple教よ」
「とにかく今週末はMappleの新作aiPhone4Superの発売日だから、花束を買ってこの手紙も添えて、天神のMappleストアに並びに行くんだよ。そして献花もしてaiPhone4Superも買って帰る」
「はぁぁぁ?通販で買えばいいじゃん?九州までわざわざケータイ買いに行くの?バカじゃないの?」
「通販サイトでどうやって献花するんだよ!」
ユウカが呆れる顔をしているのをスルーした俺はただただ意気込んでいた。今週末は待ちにまったaiPhone4Super…スティール・ジョブズの遺作となったaiPhone4Superの発売日なんだ。
今、行動しなくていつ行動するんだ?!