74 キミカ先生のよくわかる美少女講座 6

「さて、そろそろ時間が来ました。最後に、美少女としての心構えを皆さんに享受しようと思います」
まさか見た目以外の話もするとは思ってもいなかったでしょうな。どんな物事も中身が重要なんだよ中身が。
会場の女子達はゴクリと唾を飲む。
「『男性は女性を見た目だけで評価する』という話を真に受けて、見た目さえ着飾れば男が寄ってくるだろうと思っている女性がこの世の中にはじつに沢山います」
と、俺は悲しそうな顔をして、
「じつに嘆かわしい事です…」
と言う。
「とある大学の教授がある実験をしました。被験者は男性、2つのグループに分けて片方には美少女ゲームの絵だけを見せて、もう片方には美少女ゲームを実際にプレイしてもらいました。さて、どちらの男性がより美少女を好きになったでしょう…?」
ユウカが言う。
「…やっぱり実際にゲームをプレイしたほう?」
「そうですね。皆さん、分かってるじゃないですか。男性は女性を見た目だけで評価するのが正しいなら、なぜ美少女ゲームをプレイしたグループのほうが美少女をより好きになるのですか?見た目だけで評価するのならどちらのグループも同じぐらいに好きになるはずでしょうに」
俺は続けて言う。
「男性には女性がどれだけ女性としての魅力があるのか見極める能力があります。そして同時に、その女性を守ってあげるべき存在かどうか見極める能力があります。もし女性が自分に嘘をついて、男性に近づき色気で騙そうとしたら男性はそれに気づきます。そしてその女性を守るべき存在とは思わないでしょう。むしろ騙した事に怒り報復するかもしれません。仮に『そうでなかった』とします。それでも男性たちの女性に対する不信感はどんどん大きくなり、どんなに気飾っても、どんなに美少女を演じても、男性は女性に魅力を感じなくなるでしょう。それは噂として男性から男性へ、マスコミから一般市民へと拡散されていき…そして男性は本物の女性から逃げて、2次元へと移行して行きます」
ここで俺はホログラムのコントローラーを弄って2次元の萌え絵を見せる。沢山見せる。そして言う。
「本物の女性達は、ただただ『2次元は不潔だ』『2次元は変態でロリコンだ』と罵倒して自らを省みようとしなくなります…。もし本当に自分達が素晴らしいと誇って言えるのであれば、罵倒するような事はしないでしょう。2次元よりも美しくなろうとする…それが無理なら2次元よりも中身が素晴らしいのだと言うでしょう」
会場は静まり返っている。
「そうならない為にあなた達ができる事は、健気に生きる事です。それは男性に媚びる意味でもなく、男性に頼る意味でもなく、女性同士で争うわけでもなく、まるで子供のように目の前の事に真剣に取り組むという事。見た目や声だけでは人はなかなか動かせません。けれど、行動する事は人の心に直接響きます。性別や国や、時には時代すら超えて心に届きます。見た目の評価はあとで中身を知った時に騙されたと思われかねません。けれども、心で評価されれば…それは『騙した事』にすらなりません」
静まり返った会場の中では恋愛系エロゲの様々なイベントシーンが流れていく。それは決して萌えだけを追求したものではない。二人の男女が出会い、そして障害を乗り越えて、互いを理解していく仮定が流れていく。ゲームをプレイしていなくとも、主人公とヒロインが何か頑張っている事は理解してもらえている、と思う。
「美少女は『女』ではありませんし『少女』でもありません。『美少女』なのです。美少女の『美』とは、その生き方なのです。真っ直ぐな姿勢を見せられた男達は貴方が望まずとも貴方を守り、貴方の為に尽くしてくれるでしょう。『白馬の王子様』は待っていても現れません。どんなに自分を気飾っても現れません。貴方の生き方がごく普通の男性を『白馬の王子様』にするのです」
そして俺はホログラムのスライドショーを止め、「…これにて講義を終了しようと思います。ご清聴ありがとうございました」
締めの言葉を言った。
一瞬静まり返った後、会場は拍手で包まれた。
俺の背後のホログラムにはエロゲのラストシーンで主人公とヒロインが再開し抱き合うシーンが映っている。
下部には「Fin」の文字がある。
涙を流してメイが拍手している。あのユウカでさえも感動してスタンディングオベーションしてる。
ちょっと違和感あるな…まぁいっか。…などと思いつつ、俺は静かに台本…というか、今回の講義の参考にしていた本を閉じた。
タイトルにはこうある。
「よくわかる美少女講座…著『石見佳祐』」