74 キミカ先生のよくわかる美少女講座 2

「えぇっと…まずは、可愛いとはどういう事をいうのか。この定義が曖昧だとこれから皆さんが目指す『男にモテる』という目標から外れてしまいますので、可愛いの定義をまずは示そうと思います」
俺はホログラムに用意していた資料を表示。
そこには二つのホログラムがある。
一つは「初音ミンク」のアンドロイド。
もう一つは「東雲言葉(しののめ・ことは)」という歌手。
初音ミンクのアンドロイドは言わずもがな、ボーカロイドとしてネット界に降臨して2次元の世界での歌い手として沢山の男性ファンを集めているアニメキャラを無理やり3次元の世界に召喚して2次元の魅力を3次元で表現しようとしたもので、俺やコーネリアなどのドロイドバスターにも繋がる黄金律を体現している。
「東雲言葉」はボーカロイドの初音ミンクとは異なり、実在するシンガー・ソングライターである。顔は…まぁ、歌がメインの人だから男性から見たら決して可愛いとは言いがたい。けども、キャラがいいので女性から絶大な人気がある。
「この二つのホログラムにある女性は…」
「いや、その初音ミンクのほうは実在しないし!」
さっそくツッコミが。
誰かと思えばクソ野郎のユウカだ。このクソ野郎がクソッ!!
「はい、なんですか…早見ビッチさん」
「ビッチじゃない!」
やれやれ…わからずやさんは黙らせるしかないか。
「可愛さを語る上で『実在している・していない』というのは無意味な考えです。実在しないからと諦めているのは可愛くなろうとする努力をも白紙に戻す行為なのです」
ぐぬぬ…」
よし、黙らせた。
「この二つのホログラムにある女性は二人とも『可愛い』と定義されている女性です。しかし片方は女性に人気があり、片方は男性に人気があります。これが意味するところは何か…?…それは、可愛いは男性にとってのものと、女性にとってのもの、それぞれまったく異なるものだという事です。これは大切な事ですので肝に命じておいてください」
会場からは深い感嘆の声が聞こえる。
そしてジト目で俺を睨むユウカ。
「男にモテる為には男の価値観での可愛いを作らなければなりません。ちなみに女性の中で定義する『可愛い』にはその言葉だけの意味以外にも様々な思惑が見え隠れしています。例えば…男にモテそうにない女、これをカッコイイとか可愛いともてはやしたりする文化が女性にはあります。女性は本能の中に自分が世界で最も美しい、または可愛いとするようプログラムされており、それに従うと…自分の障害にならないであろう同性…いえ言葉を替えましょう。『ブス』は可愛いと声に出してしまうのです。男にモテる可愛さはきっと『可愛い』ではなく『あいつには負けたくない』となるでしょう。あなたが敵対心の炎を心に灯した時、そのターゲットである相手は『男性の求める可愛さ』を持っている事をまず理解してください」
心当たりがあるのか集まった連中は苦虫を噛み潰し多様な顔をして俺からの戒めに渋々頷いていた。
さてと…これからが本番だ。
俺はホログラムのコントローラーをポチポチ押して次の映像を表示する。そこには会場がどよめく要素があるのです。
「にぃぃぃぃ!!かのんちゃんだにゃん!」
ケイスケが大喜びだ。
会場はどよめく。
何故なら、表示されているのは「葛城かのん」っていうアニメキャラだから。ちなみに葛城かのんっていうのは「かにまに」っていうエロゲが深夜アニメ放送枠でアニメ化された時に追加されたキャラ。つまりエロゲの登場人物という事になる。
その葛城かのんの水着姿と浴衣姿がある。
「ちょっ!何よコレ!アニメじゃないのよ!」
「あー、もうさっきからうっさいな!黙っててよビッチ!」
「ビッチじゃない!」
「さっきも言ったけど可愛いから目を逸らすと可愛くなれないよ?男にモテないよ?いいのそれで?」
ぐぬぬ…」
よし、OK。
ユウカの隣では後輩であるメイが「おねぇさまがお話されてるのですからツッコミは無しですわよ」とか落ち着かせようとしてる。
「えっと、アニメキャラを見せた時、それが美少女・美青年だった時の男性及び女性の反応は二つに別れます。一つは『うわッ、やべぇ、なんか変なの見ちゃった』と、もう一つは…さっき石見先生が見せたような反応ですね。先生お願いします」
「萌え萌えだにゃーん…ハァハァ…」
いい反応するなぁ…この変態紳士。
「こほん…。えーっと、このように、キャラを好きになるか、キャラに対して畏怖の念を抱きます。アニメキャラでの美少女・美青年はおおかた、人間の中にある美の可能性を完全に追求したものになっています。その完璧な美しさは人の心を奪いますし、それができないにしても、奪われそうになる事を人は畏怖するようになっています。というかそうプログラムされています」
「っていうかさ、テレビとかみても実在しないアニメのキャラに陶酔してる奴ってロクなのがいないじゃん!キモいし!現実見えてないし!そんなの全然不健全じゃん!」
まーた始まった。ユウカのクソビッチが…!
「えーっと、早見ビッチさんが言われるような、」
「ビッチじゃありませぇーん!」
「早見さんが言われるような事をリアリズム主義と言いまして、自分の価値観が現実に存在しうるものなのかチェックをして、社会的に反しているのなら否定するという機構が人間にはあります。もちろんこれは正常な反応なのですが、過剰なリアリズム主義は可愛くなる事を阻害します。今の早見ビッチさんのようにですね」
「あ゛あ゛ぁ?」
「過剰なリアリズム主義は迷彩服のように自然の中に自分の身を消し去る事を目的としています。流行りの化粧、流行りのお洋服、流行りの整形…。過剰なリアリズム主義の果てに待っているのは量産されるアンドロイドのような、不細工でもないけど可愛くもない目立たない女性です。これは可愛いと言えるのでしょうか?否。かといって個性を主張すればいいというものでもありません」
「ぬ…ヌゥ…」
はい、論破。
「可愛さを求めるには、まずは可愛さを受け入れる事からはじめなければなりません。どうして自分は可愛くないのだろう?どうして自分は男にモテないのだろう?そう思っている人達は、早見さんのように知らずのうちに可愛さを否定していませんか?美少女ゲームを否定する人は美少女を否定しています。美少女を否定している人が美少女になれるわけがありません」
何か大切なものに気付かされたようにはっと目を見開いて女子達は拍手を始める。会場は拍手に包まれたのだ。
どうやら俺が言いたいことが解ってもらえたらしい。
1名以外は。