73 右と左のライアーゲーム 7

本日のお宿は温泉らしいですね。
昼間がアレだから夜もかなりアレだと思って俺は凄まじい期待を持っていた。やっぱり和食でキメるのだろうか、それとも昼は和食だから夜は洋食で饗すのだろうか。
昼であのレベルだから夜はそれに追従して脂の乗った和牛が出てきそうだよ。普段はそう簡単には口にはできないだろう!!
「(じゅるり…)」
「随分と嬉しそうだな」
と俺の表情を見て気付いたのか東条は言う。
「ヒック…夜も和食?それとも洋食?」
あー、しゃっくりがとまんねぇ。
「夜は関係者を招いての立食パーティだから、洋食という事になるだろうな。貴様はあまり縁がないだろうが」
「おおぅ、立食パーティ!!…ヒック」
立食パーティか…俺の脳裏にはハリウッドの映画の立食パーティシーンがロードされる。そこにはテーブルに並べてある様々な高級な料理、それを自分の皿に取って食べる俳優達、そして高級なお酒が浮かんでくる。そう、食べ放題だ。バイキングだ。よし、食うぞ!これ以上食えなくて吐きそうになるまで食うぞ!!
「昼間のような粗相をするな」
などと言ってるけどももう俺の耳にはほぼ届かないね。
いやぁ、楽しみだなぁ。
ん?検問か。
旅館に行く道中で警察が検問をしている。やっぱりお偉いさんが集まるから変なやつらが居ないかチェックするんだろうな。
なんて思っていたが、なにやら違うみたいだ。
「…奇妙だな。検問が行われる手はずになっていないのだが…」
それは奇妙だ…。
嫌な予感がするぞ。
そして東条は携帯電話を取り出すと険しい顔で、
「すぐに車をこちらへまわせ。いざとなったら二手に分かれる。国防長官の護衛は先生と貴様らで頼む」
薄暗い杉林の脇道に警察の車が停まっていて、警官がそこに俺達の乗る車(リムジン)とお付の他の車に停まるよう指示をする。
懐中電灯を持った警官がこちらに歩いてきて窓を手でこんこんと叩く。運転手がそれにあわせて窓を開ける。
「ちょっとよろしいですか、みなさん、車から降りてください」
「どういう事だ?検問はまだ先のはずだが」
警察官とやりとりをする東条。
「…どういうつもりだ?」
東条がそう言ったのは、バックミラーでは後続の車から東条の部下達が降ろされているのを見てからだ。何故降りたのか、それは警察官に銃を突きつけられたからだ。
どう考えても異常事態だった。
「おとなしく従って頂くわけにはいきませんか?」
と落ち着いた口調で警官が言う。
俺達も車を降りた。
作戦の通り、イチことセンセイは米国防長官の隣に配置。俺はジライヤこと東条の隣に配置。この状態で国防長官の近くには東条の部下が並んだ。国防長官に何か危険が及ぶのなら、部下を連れて車で逃げる。その隙に俺とジライヤで敵を引きつけたりする。
「これってもう暴れちゃっていいって事?…ヒック」
俺は小声で東条に指示を仰ぐ。
「いや…まだスカーレットの姿が確認できない」
確実に国防長官の命を狙うのならスカーレットが現れるのがベストなんだろうけど、そうノコノコと現れるものなのかな?
しかし、東条の思惑は外れてさっそく連中の攻撃が始まった。
警官の一人が無条件に銃を放ったのだ。
あの黒い人…じゃなかった、米国防長官に向かって。もちろん、それはイチの刀によって弾かれて、その後、銃を放った警官はバラバラにされた。それが戦闘開始の合図だった。
米国防長官を後続の車の中に押し込んだ東条の部下達。そして車を盾にして銃撃が始まった。
イチがいる側ではイチが銃弾を弾くため被害はそれほど多くはないが、イチが居ない側では思いっきり一斉射撃を喰らってほぼ全滅だった。車が穴だらけだ。
「早く車をだせ!」
そう叫ぶ東条。
東条の部下が運転する車はイチや米国防長官、そして他の部下を乗せて車を急発進。残った俺と東条は近い敵から斬り殺した。
東条は苦無(くない)と体術で周囲の警察官に扮した男達を倒し、俺はグラビティブレードで斬り殺す。
奴等が逃げ切れないようにレールガンで連中の乗ってきた車(警察車両に扮してる)を穴だらけにする。
とりあえず周囲の敵は倒した俺と東条は乗ってきたリムジンへと乗る。すぐさま俺達を始末してやろうと警察官に扮してない敵が現れた。結局やっぱりスカーレットの部下だったか。
「何をしている?早く車をだせ。国防長官を乗せた車を追え」
何をトロトロしてんだよ、この運転手。っていうか、こいつも東条の部下なんでしょ。今の状況に怖くなって車を出せないのかな?
っていうか、車ださないからあっちゅうまに包囲されちゃったじゃないか。どうしてくれんねん、この野郎。
って思っていた俺だったがどうも様子がおかしいのだ。
その運転手は突然、後部座席にいる俺達の方を向くと、
「王手ですよ。東条さん」
そう言ってニヤリと笑った。