73 右と左のライアーゲーム 6

酒を注文してから数分で女将が現れる。
なんかえらく長細い大きな徳利を持ってる。えっと、アレは俺が注文した獺祭…だよね?なんかちょっと多い…かな?イメージしていたものとはちょっと違うような…違わないような…。
あぁ、そうそう、普通、冷酒を飲む時ってグラスで飲むじゃないか。だから徳利で出てくるってなんなのかなァなんて思ったりしたり、でも3合って言ったからあんなのが来たのかな?
俺の席の隣に女将が来ると、
「お注ぎします」
と言ってる。
「あ、はい」
巨大徳利から盃に獺祭が注がれる。
あぁ、冷たい。旨そう。
「(ごくごく)」
「いかがですか?」
「(ぷはぁッー)美味しいです!」
いやぁ、やっぱり獺祭は美味しいな。名前は獺祭(だっさい)けど味は全然ダッサくない、なんちって。
やっぱり和食には日本酒が似合うね。
焼酎ももちろん似合うけども、アレはどっちかっていうと味の濃い料理とかに合うから懐石料理みたいな地味で微妙な味の差を味わうタイプの料理には日本酒が似合うと思うよ。
俺は料理を食べてお酒を飲んでを繰り返した。
こうやってお酒によって口の中がクリアされるとまた次の料理が美味しく感じれる。昔の人はよく考えたものだねぇ。
料理の味はどんなによくてもそれを食べ続けていれば口の中はその味で慣れてしまって最初の一口しか料理本来の味を味わえなくなってしまう。例えばおかずばかり食べるような。
そこで味をクリアする方法が必要なんだけど、それが弁当で言うところのご飯の役割なんだよね。ご飯とおかずを交互に食べる事で両方が美味しく感じる事ができるんだよ。そして今、ご飯の役割を果たしているのがお酒なんだと改めて気付かされるよ。
よくお酒は酔っ払うためにあるものだ、なんて言う人がいるけど、そんなに酔いたいなら理科の実験用アルコールでも飲んでいればいいと思うよ。つまり酒に酔うのはあくまでオマケなんだよ!!
これは声を大にして言いたい。
美味しい飲み物を開発しようとしたら行き着いたところにアルコールがあっただけであって別に他でもよかったんだよ。だってほら、遙か昔にはお茶とお酒ぐらいしかなかったわけじゃんか。ジュースなんてあるわけないし。そんな中でお米だとかの自然にある甘さ?みたいなのを味わえるのがお酒だったんじゃないのかな。まさに自然の恵みなんだよ。誰もそこにアルコール入れたいなんて思ってもないんだよ!!
あー…やべ…。
酔いがまわってきて、とってもきもちいいー。
あー…。
と、ここで俺の記憶は途切れてる。
…。
では、これ以降は何なのか?
…。
それは後で東条に教えてもらった事なんだけど、どうやら俺はここで思いっきりお酒に酔って暴れたらしい。
我ながら恥ずかしいですね、テヘペロ〜。
東条が説明した内容があくまでも真実だと「仮定」して話したなら、俺はまず服を脱ぎます
それからほぼ全裸で踊り始めて、キレた東条がイチセンセイの刀を借りて俺に斬りかかったところで俺は真剣白刃取りで受け止めた。
まずキレたからと言って斬りかかるところがおかしい。だからこれは嘘だと思うんだ。あとうまい具合に真剣白刃取りが発動するところも変だ。もうギャグじゃないか。
それを見た黒い人(アメリカの国防長官)は目の前で繰り広げられるサムライバトルに大喜びだったらしい。
それは置いといて…。
次に、まだ酔っている俺は料亭に置いてあったツボに頭を突っ込んで「誰が電気を消したの〜?電気つけて〜!」っていうボケをやらかしたらしい。慌てて東条が止めに入ったところで頭から転んだ俺はツボをそのまま木っ端微塵に破壊。
さすがにこれには東条だけでなくイチもキレて二人で刀で斬りかかった、ところを俺は宙を回転しながら軽やかに交わした。人間離れした動きに東条もセンセイも驚き、黒い人も「ニンジャ!ニンジャ!」と手を叩いて大喜びしていたという事だった。
これもおかしい。
まずツボに頭を突っ込んで「電気をつけて〜」ってギャグは俺が中学生の時にやっていたギャグだ。まさか高校生にもなって同じギャグで笑いがとれるとは到底思えない。
次に、宙を回転しながら東条やイチの攻撃を交わすなんて、酒の入った俺に出来るはずがない。酒が入ってなくても出来るか微妙だ。っていうか、変身してない時にそれをやるとか自殺行為以外の何者でもない。酔拳かよ。
それからお土産を料亭の人に要求したり(そういえば後で車に乗っている時にお土産を持たされていたから気づいたよ)池の鯉を三枚に卸して食べさせろと言ったり、料理長を呼べと叫んでべた褒めしたりとか、嘘かほんとかわからないような事が色々と…。
ったく、俺が酔って記憶がないのを良い事に東条もセンセイも俺の人格が疑われるような事が起きただとか、ったく…。
「そんな事あたしがするわけないじゃん!」
と料亭を出た後の車の中で俺が言う。
「貴様…あれだけ迷惑を掛けておいて…一切覚えていないというのか…。随分と都合のいい脳味噌を持っているな」
「その事実は捏造です」
「カメラがあれば終始証拠として撮っていたが、残念ながらそんなものはなかった。だが事実だ。とりあえずカメラでは無いが証拠の一つは持ってきている」
と、俺の足元には袋に入った壺の破片がある…。
一体誰が…こんな高級そうな壺を木っ端微塵にしたんだ!