73 右と左のライアーゲーム 5

空港でマスコミの間で歓迎を受けた後の米国の国防長官が玄関で日本の国防長官…つまりは中央軍の東条秀明と出会う。
ここでもマスコミは終始カメラのシャッターを押しまくる。
えと、米国の国防長官は誰なのかな?
…。
俺は東条の横で米国の国防長官が来るのを待った。
ん?
あれ?来たのかな?っていうかカメラマンがシャッター切ってるから既に到着してるって事なんだろうけど、って、東条が握手してるし。その握手している先を見てみましょう。
「おおおぅ!!」
握手している先には何か黒い物体がある。黒い人だ。
洒落にならない怖い話というサイトの中で紹介している話の中に「黒い人」っていう話がある。それは母親が焼身自殺して真っ黒い人となって自分のこどもの元へと現れるという事だ。
いままさにその黒い人が東条と握手している!!
俺がわなわなと震えていると東条が俺の頭をぽんと叩き、
「何を怯えている?彼女がアメリカの国防長官だ」
かかか、かかかか、彼女ォォォ?!
俺は思わずその物体に向かって身構えてしまった。
するとその黒い物体の真ん中が白く開いた。よくみたらそれは歯だった。歯だ。人間の白い歯が黒い物体の真ん中に突然現れたのだ。これは一体どういう…。
などと思っていると黒い物体から黒い手が伸びてきて、まるでそれは俺に握手を求めているような…!!
「何をやってるんだ」
と再びペシッと俺の頭を叩く東条。
俺は仕方なしにその黒い物体…というか黒人のアメリカ国防長官と握手をした。そうだそうだ、黒人だったんだ。
あぁ、びっくりしたなぁ。ほんと。
「貴様、いまレイシストも真っ青の差別的な反応をしていたのではないか?」と東条が言うので、俺は首をブルブルと振りながらそれを否定した。危ない…国家間問題へと発展するところだった。
その黒い人(アメリカの国防長官)は空港の玄関に用意されたリムジンへと乗り込み、日本の国防長官である東条も同席する。俺もボディガードのように後部座席へと陣取り、助手席には東条が「先生」と呼んでるイチが座る。
そしてリムジンは出発する。
さすがにエライ人は違う。東条は英語ペラペラで米の国防長官と話しているではないですか。俺は蚊帳の外だ。かと言って話に加われと言っても丁重にお断りしたい。
などと思っていたのだけど東条は俺を英語で紹介しているようだったのだ。英語と英語の間に「キミカ」っていう単語が出てきて、黒い人が再び俺を見てから軽くお辞儀をするのだから…。
「ハ、ハーイ、ナイストゥーミィーチュー!」
と挨拶はそれでするって事前に言われていた言葉を投げる。
それから英語でペラペラと返ってくる…。ま、いっか。俺はその英語の話題をBGMにしてのんびりしてればいいんだよ、後は東条がなんとかしてくれるでしょう。
そして車はどこかの料亭のような、旅館のような、高級和式住宅のような…とにかく金持ちが行きそうな場所へと到着。
「おおぅ…すっげぇ…」
入り口からして造りが違う。入る時に「ぴんぽんぴんぽん〜!」っていうお客さんが入りました的な音がならない。人が出迎えてるじゃん。すげぇ…。これ玄関?靴のまま入ってもいいの?
まぁとりあえず米国防長官も靴のまま入ろうとしてるから俺も靴のまま、ってやろうとしたら思いっきり俺は背中を東条に引っ張られて、そのついでとして東条は英語で「靴は脱いでください」的な事を国防長官に言う。俺に向かっては、
「貴様の家では靴のまま入るのか?」とか言う。
「だって黒い人が…」
「黒い人は日本の文化をまだ熟知していらっしゃらないのだから仕方ないのだ。貴様はそうではなかろう!」
「へいへーい」
ったく、うっせぇなぁ〜
俺はぽいぽ〜いッと靴を脱ぎ捨ててトタトタと上がる。
「こらッ!ちゃんと靴を揃えr、あぁ、すいません」
と東条が言う。俺が脱ぎ捨てた靴を揃えようとした東条の側で料亭の人が靴を揃えている光景がそこにあった。
はいはい、すいませんねー(棒)
そのまま和式な廊下を進んで進んで、和室へと通される。あの食事やらを乗せる台?が人数分用意されていて、その上には既に料理が置いてある。ちょこんと置いてある。
全員が席についた。
これだけ広い部屋なのに中央に席がちょこんとあるだけっていうのは随分と違和感があるな。もうちょっと狭い部屋でも用意すればいいのに。これは宴会場みたいな部屋じゃないか。
しばらくすると料亭の女将みたいな人が現れて「本日は…(略」と挨拶を述べた後、料理の説明をしていった。それがひと通り終わったところで「お飲み物」の注文をする事となり、
「あたしはビールで」
と俺が言うと案の定、
「貴様、勤務中だぞ!」
などと東条が言ってくる。
「お客様がお酒を飲むというのに、招待した側がお酒を飲まないのは失礼に当たるのではありませんか?」と澄まし顔で俺。
ふッ…反論してやったぜ。
「くッ…」
さすがにこれは筋が通ってたようだね。東条がお酒を注文してるのに俺が呑まないわけにはいかないでしょうに。
黒い人もビールを注文、東条もビールを注文。そして俺もビールで、イチというか「センセイ」と呼ばれてる人は日本酒を熱燗で注文していた。なんともその姿に似合っているな。
説明は聞いていなかったので料理がどういう名前なのかよくはわからないけども、前菜として置かれているものじつにお酒の肴としては優れたものばかりだった。
俺はビールをグビグビやりながら前菜などをモグモグした。
さすがは料亭だけあって創作料理?の類は味が絶妙だった。こんなのは普段の生活の中ではでてこないだろうな、特にこの山菜?を使った料理とか。山菜がまず手に入らないだろうからね。ただ、あっという間にビールを飲み干した俺は隣でイチ(センセイ)が熱燗をグビグビとやっているのを見て、日本酒も飲みたくなった。
しかし俺も熱燗をやるのはどうも真似してるみたいで嫌だ。
ここは一つ、冷酒として注文しようじゃないか。
「すいませぇ〜ん…」
「はい」
「えっと(カラになったビールジョッキを指さして)」
「あ、はい、お飲み物のご注文ですね」
俺はメニューをチラチラと見る。さすがは高級料亭だ。揃えてる日本酒の数も半端ないぐらいある。全国のお酒があって県別にならんでいるじゃないか。ここはひとつ、俺が酒についてツウである事を知らしめるためにメニューなんて見ずに注文してあげましょう。
「獺祭を」
ふッ…。県内の有名どころを言ってあげたよ。
さて、このトンキン人な人は判るかな?やっぱり片田舎の銘酒は置いてないのかなぁ?ククク…。
「はい、ございます。冷でよろしいでしょうか?」
おおぅ!
「あ、はい」
「5割と3割9分がございますが、どちらにされますか?」
え?えーっと…なんですか?それは。5割って通常の値段の5割引ってこと?だとしたら3割9分は約4割引きだから4割引のほうが高価って事で美味しいって事なのかな?っていうか高級料亭のくせにお酒を割り引いて出すってどういうアレなの?田舎のお酒だから半額ぐらいでいいんじゃね?って思われてんのかな?
ま、まぁいいか。
ここでうだうだ悩んでいると「こいつ、意味分かってんのか?」って思われてしまうじゃないか。よし、決めるか。
「3割9分のほうで」
「はい、かしこまりました。1合でよろしいでしょうか?」
ふッ…。
この俺が1合程度で満足するとでも思ったのか!ジョッキで持って来いジョッキで!!と、言いたいところだけど、さすがにジョッキで日本酒を飲むほど野暮な事はしない。それに下品ですよ?
「3合で」
「は、はい…」
ふッ…。見たか、俺の酒ツウっぷりを。
って、誰も見てねぇ…。
センセイは無言(しかも目瞑ったまま料理をちゃんと食べれてるし)東条は黒い人(アメリカの国防長官(黒人))と仲良く話してるし。なんか虚しくなってきちゃったなぁ…。