73 右と左のライアーゲーム 3

さて、さっそく任務出発前に変身しておきますか。
と、俺が変身しようとすると、東条が止める。
「貴様はそのままでいい。スカーレットに姿を見られているからな。変身するのは奴を完全に射程距離に捉えてからだ。私も変身後の姿は人外の者だからな、控えておく」
「はぁぁぁ?相手はあのスカーレットなんでしょ?向こうは殺す気まんまんで来るのに普通の人間でいたらいい的だよ?」
「心配ない。その時の為の先生だ」
と東条は先生(イチ)を呼ぶ。
「え…盲(めくら)でしかも普通の人間が変身後のスカーレットと互角にやりあえるの?!」
「…貴様は学校の道徳の時間に障害者に対するマナーを守るように言われなかったのか…。盲とはなんだ、盲とは」
「えっと…」
「…」
座頭市
「…」
デアデビル
「…目の不自由な人…または視覚障害者だ」
「えっと…。ふぅ…。目の不自由な人でしかも普通の人間が変身後のスカーレットと互角にやりあえるの?(棒」
「先生は我々で言うところの変身後の状態だ。常に」
「な、なるほど…」
「それから先生は目は見えないが心の目で見る」
な、なにその中二病設定は…。
まぁいっか。とりあえず一度イチと殺りあった俺からするとコイツはめちゃくちゃ強いからひょっとしたらスカーレットは一人で倒してしまうかもしれない。そういう意味だとこのジライヤ(東条)はすっごい心配性なのか完璧主義者だなー。
「それから、貴様は表向きは中央軍の軍人という肩書きにしておく。任務の際には軍服を着用しろ」
「えーッ!」
「これだから女は…。なんだ軍服に不満があるのか?」
俺のイメージはCMなどに出てくる女性軍人が着てる固っ苦しい日本軍の制服か迷彩模様の戦闘服だ。しかも迷彩柄だったら着たら逆に目立つだろうに、戦地でもないのにさ。…などと心配している俺を無視して東条は軍服一式とハンドガンを手渡す。
「いいからこれに早く着替えろ、すぐに出発する」
畳んであるから全貌は掴めないものの、なんか女子高生が着てもおかしくないような感じの制服だった。それにこれってニーソックスじゃないのか、この緩い生地の奴は。
さっそく更衣室で試着してみると、俺は思わずズッコケそうになった。まんま女子高生のような制服だ。
中央軍の紋章である青龍のマークがあるベレー帽、袖に同じく青龍のマークがあるブレザー、白のブラウスにチェック柄のスカート、赤のネクタイ、それからニーソックスと銃を収める太ももに装着するベルト。紋章を取ってしまえばどこの女子高の制服ですかって言われるレベルだ。こんなの着てる軍人見たことが無いぞ。
っていうか、まだ俺みたいに若いのはいいけど歳とってるババア軍人がこれ着たらそれだけで十分攻撃力ありそうじゃないか。
まぁいい…。着替え終わった俺は更衣室を出てヘリポートへと向かう。そこには既にヘリ(アサルトシップ)が待機中だ。
東条は開口一番に、
「遅いぞ、着替えは1分あれば十分だ」
「それよりこの制服はなんなのさ、こんなの着てる軍人見たこと無いよ。どこの女子高なんですか」
「軍では年齢に相応した制服が支給される」
「あぁ、そうなんだ。よかった。ババアがこんなの着てたら何かいろんな意味で人間兵器になりえるなとか思っちゃったりしたよ」
「…」
搭乗してしばらくするとアサルトシップは中央軍基地を離れた。
眼下には広大な整備された空港のような土地が広がっていてドロイドらしき影があって道の整備やら警備などをしていた。本当に山の中にあるみたいで、進路の途中からは木々が生い茂る山へと変わった。
「ゲストとして日本が招いてるのはアメリカの国防長官だ。くれぐれも粗相のないようにな。貴様は日本の代表であり、中央軍の代表でもあるのだ。貴様の行動そのものが中央軍を表す事になる」
ったく、うっせぇな、俺だって好きでこんな事やってるわけじゃないっての。そんなの軍人さんで威張りたい奴にやらせろよ。
「へいへーい」
と俺は空返事をする。
「そんな返事をする軍人はいない」
「じゃあセリフの頭とケツに『サーッ!』をつけて話せばいいの?」と俺が返すと、
「もういい…貴様は黙っていろ。相手はアメリカ人だから日本語なら失礼な態度でもわからないだろう。サーはつけるな。ふざけていると思われたら問題だ…」
俺の中のアメリカ人のイメージは元々ハリウッドの映画が定着させてたけど、それがコーネリアと出会ったせいで剥がれ落ちてもう彼女のイメージで塗り替わっちゃってるからなー。なんかいつものコーネリアとのふざけあいみたいな感じで接しそうで怖いよ。