73 右と左のライアーゲーム 2

変身を解くジライヤ。
俺も同じくして変身を解いて元の女子高生へと戻る。
「これだから女は嫌いだ。人の話を聞こうとしない」
変身後と変身前では口調が異なるようだ。東条の時はクールガイな声。ジライヤの時はドスの聞いたおっさんのような声だ。
…っていうか、俺は女じゃないって。
まぁいっか。
案の定というか、あれだけの大きな音を立てて放っておくはずもなく、背後の扉が開いてミサトさんが入ってくる。
「今、凄い音がしたんですけど…どうかしたんでs」
と言いかけて机を見るミサトさん。その目に飛び込んでくるのは多分、俺が投げつけてイチが真っ二つにした机だ。
「いや、なんでもない。大丈夫だ」
とメガネをくいっと押し上げながら東条が言う。
「ちょっ、キミカちゃん、何してるの」
って何で全部俺やねん。
そりゃまぁ確かに俺だけどさ。まだ誰がやったのかわかんないのに俺が悪い事を前提に話進めないでよマジで。俺は不良少年かよ。
「すまないが、席を外してくれ」と再びミサトさんに言う東条。ミサトさんにも聞かれてはマズイ話なのか?
少し違和感を感じ首を傾げながらも、上司の命令である。再びミサトさんが敬礼をして外へと出る。
それを待った後、東条は話を始める。
「貴様はスカーレットと名乗るドロイドバスターと戦った事はあるか?強盗団の首領であり、左翼のテログループにも属している」
スカーレットの話か…。
「あぁ〜…うん。あるよ」
右翼であるジライヤからするとスカーレットなどの左翼だか強盗だかやってる連中は敵対勢力になるな。
「どうやら奴は今回の米国の国防長官来日を狙っているらしい。アメリカの国防長官を暗殺する事で日本とアメリカの間に亀裂を入れ、左翼の連中に権威を見せ、そして彼らの活動を活発にさせる事に繋げようという魂胆だろう」
またあのクソババアはテロ行為をしようっていうのか。しかも日本が招いた「お客様」にたいしてだ。そして後で日本政府の対応が〜とか警察の怠慢が〜とか評論家の如く他所から言うんだろう。実はテロ行為は自分が引き起こしてるくせに。
「なるほど、国防長官を守ろうっていうんだね」
俺のその言葉に首を振る東条。
「少し違う。もちろん国防長官を守る事も重要だが、重要なのはスカーレットを倒す事だ。二度と起き上がれないぐらいに完璧にな。貴様だけではそれが失敗する可能性もあるし、我々だけでも失敗する可能性もある。ここは確実にする為に手を組もうという事だ」
右翼にとってもパワーと財力を持ち合わせてるスカーレットが邪魔なのだろう。この際ギリギリで勝つよりも確実にパワーで叩き潰してしまおうというのが理系っぽい目の前の男の考えらしい。…本当に理系って嫌だな。完璧主義者でさ。世の中数字じゃ計算できない事だってあるだろうに、その観測の仕方がわからないから、それらの事象も全部無かった事にするなんだ…!!
本当に理系って嫌だわ。
「なんだその顔は。嫌なのか?」
あぁ、やべぇ、俺としたことが理系嫌いが顔に出ちまった。
「いや、ただ理系が嫌いなだけ」
と俺が言うと、メガネをクイッと押し上げた東条は、
「貴様が好む男は街を彷徨いてる文系のスッカラカン男だろうな。頭も軽ければ腰も軽い。そして尻の軽い女が好きときてる」
いや、だから俺は女じゃないって…。まぁいっか、どうせ言っても信じないだろうし。理系は目に見えるものしか信じないからな。
しかし言わせてもらおう。
「えらく女を馬鹿にするけど、スカーレットのおばさんも倒せないようじゃ国防は務まるのかな?しかも倒すのに女の『子』の手を借りるなんて、日本男児も堕ちたものですね」
と挑発してみる。
「ふん…貴様も何度も取り逃がしているだろう。スカーレットは逃げ足だけは早い。十分に引き寄せて確実にダメージを与えなければならない。そうしなければ奴は調子に乗るのだ。貴様が幾度と無く取り逃がしているせいで奴は調子に乗っている」
「え、何そのゲームみたいな設定…調子っていうパラメータが取り逃がす都度アップしていって強くなるの?」
「馬鹿な女とはそういうものだ。下手に出ればどんどん調子にのって、より一層に沢山のものを要求してくる。もし貴様が決定的なダメージをヤツに与えていたら今g」
「あー、はいはい、わるぅございましたァ(白目」
ったく悪党の癖にやけに説教臭い奴だな、うぜぇ…。
それにしても。
俺とジライヤが話してる最中も、背後に立ってるイチって奴はずっと黙ったまんまだ。やっぱ寝てるのか?
「それよりこの爺さん起こさなくていいの?風邪引くよ?」
と俺が指摘すると、
「口を慎め。先生は眠っているのではない。目が見えないだけだ」
「おおぅ、これは失礼」
でもなんも反応ないから寝てるのかと思ったよ。
って、やっぱり目が見えないのか。目が見えないのにあの殺陣はどうなんだ。めちゃくちゃ強いじゃないかこのジジイ。