73 右と左のライアーゲーム 1

本日はミサトさんの案内で東京の防衛省に来てる。
防衛省というと中央軍の基地もある場所。
九州の南軍の基地がビル軍の中、地下のほうにあるのに対して、中央軍の基地は広大な山の中に広い平地があって、その中にある。これもある意味防衛っていう観点では立派に役割を果たしているらしい。例えば、俺がミサトさんとたどり着いた場所にはヘリポートがあって、そこでヘリに乗ってから防衛省ビルまで移動するだとか。
つまり敷地内にヘリ以外の乗り物で近づくものがあるとぶっ殺されるわけなのです、怖いですね。
俺がドロイドバスターである事は南軍でも一部の人間だけしか知らない。中央軍ではまったく知らされてないだろう。
ヘリから降り立ったのが女子高生のような(じゃなくて女子高生ですが)姿であるのを見て、防衛省職員は「え〜…何しにきてるのコイツ」って感じの「顔」になった。
ミサトさんに案内されて防衛省内の長い廊下を進んで、司令官さんがいる部屋の前まで来る。これまでに事務所らしき場所や作戦会議をする場所など、アメリカの映画の中に出てくるペンタゴンみたいな感じすら覚えたよ。日本にもこういうところがあるんですね。
さて、司令官の部屋に入って俺は周囲を見渡すと、司令官らしき人が机に座っていたわけだけど、立ち上がって軍隊式の敬礼をする。と、ミサトさんもそれにあわせて敬礼をする。
部屋にはもう一人、和服を着こなしているおじさんが居て、逆光でその顔は見えないが今時珍しく軍刀らしきものを腰に据えている。
司令官の男は「東条秀明」と名乗った。
第一印象は美青年。しかもメガネ系の。
よく薄っぺらい同人誌で男同士でセックスしている絵面にはそんなメガネ系美青年が載ってる。あんな感じである。
初対面で印象を良くしようと色々な国の人は笑顔で握手でも求めてくるのに対して、その東条という男の顔にはどこにも笑顔に費やす筋肉を持ちあわせておらず、仏頂面でムスッとしている。
そして途上は冷たく以下のようにのたまう。
「噂に聞くドロイドバスターがどんな女性かと思えば、まさか君のような女子高生だったとは…驚かされるな」
俺はさっきから背後に立ってる軍刀を持ったおっさんが気になっていた。寝てるのかずっと目を閉じたまま、背中は曲げたまま。ただ、どっかで見たことのある背格好だ。和服っていうか、作務衣みたいなのを来てるな。
…えっと、思い出せない。
どっかで会ったことがあるような…。
いや、確実にどっかで会ったことがあるぞ。
と、俺が思ったのは、壁に掛かってる「面」だ。鬼の面だ。
鬼の面に作務衣の格好の盲目のサムライ…。
あの面、俺が日本海で不審船を拿捕しようとする海上保安庁の船の邪魔をした「ジライヤ」がつけてた面そのまんまじゃんか!!
おいおいおい!
思い出したぞおい!
背後にいるオッサンも、あの時、ジライヤと一緒に俺に挑んできやがった刀の使い手だ。クソ盲(めくら)野郎のイチじゃないか!!
「えっと…ミサトさん。ちょっと席を外してもらえますか?」
俺は満面の笑みでミサトさんにそう言う。
「え?」
不思議そうに俺を見るミサトさん
「私からもお願いしよう」
メガネをクイッと押し上げて、そのジライヤ…じゃなかった東条秀明という中央軍司令官が言う。
「は、はぁ…」
ミサトさんは不思議そうに思いながらも敬礼をして、その後、部屋を出ていった。
そして扉が閉まったのを確認して…。
俺は一瞬でドロイドバスターに変身し、それとタイミングを合わせるようにジライヤ、つまりは、東条秀明はグラビティコントロールで「鬼の面」を自分の元へと引っ張ると顔につけ、それを合図としてドロイドバスターへと変身した。
そう、俺が日本海で見た、あいつだ。あいつが目の前にいる。まさか日本の国防を預かってる中央軍の司令官がテロリストだなんて、今時、週刊◯集でも記事にしないようなネタだぞ。大丈夫なのか日本は?こんなテロリスト野郎に国を任せて。
俺はグラビティコントロールで机をまずはイチに向かって投げつけて、奴はそれを刀で真っ二つにするが、その混乱に乗じてジライヤに一閃を仕掛けた。居合い斬りだったが見切ったジライヤは苦無(くない)でそれを受け止める。
「喧嘩っ早いオナゴだな。そんな事では男に好かれんぞ」
あのドスの聞いた地の底から聞こえるような声。まさにジライヤだ。これで俺は確実に今の事実を受け止める事が出来たぞ。
「ここはちょっと気圧が低いみたいで沸点が低くなっててさ」
と俺はブレードをグラビティコントロールもあわせて押し付けて奴の苦無を削り取っていく。
「話、聞く耳持たず、という事か?」
「あたしを始末しようと思って呼んだの?それとも、そろそろ始末されようと思って呼んだのかな?」
「貴様にとっても利がある話だと思って呼んだまでだ。我々の計画に協力してもおうと思ってな。ここで戦っても貴様には不利益しか振っては来ぬぞ?」
まぁ、たしかに、ここ(防衛省)で暴れても日本軍を敵に回すようなものだし。それにコイツがここまで俺を呼んでおきながら、それがわざわざ殺す為だったのならいちいち呼ばないでも何かしらのアクションをしていたはずだ。
俺とジライヤは同時に刀を収めた。