72 自殺とデートとクラッカー 6

次に向ったところはレストラン街後ろの動物園だった。さっきも言ったけど、この遊園地には動物園も実は併設されていたのだ。
俺とフォックスは檻に入れられてるトラやらゴリラを見ながらなんかつまんないね、などと話をした。
「ごめん、俺と一緒だと…つまんないよね」
「え、ちょっ、おいおいおい!そういう意味じゃないってば」
「え?」
「檻に入った動物を眺める動物園は、ちょっとねぇ…って意味」
「あ、それならこっちに動物と触れ合えるところがあるよ」
フォックスが俺を連れて行ったところでは安っぽい木の柵で囲まれた妙に草木が生えてない荒地的な空間で、ロバやらウサギやらネズミやらが放し飼いしてあるところだった。
「おぉぉぉ!すごい。ここ人が入れるじゃん」
俺は我先にと木の柵を乗り越えて中へと侵入した。
その安っぽい柵の近くには鳥小屋みたいな小さな小屋状の物体がポールの上に乗ってて、その上にはコインが入るようになっており「餌代100円」と書かれてある。ここの中の動物用の餌だね。
フォックスはその小屋状の物体の屋根の部分からコインを入れて、しばらくすると紙袋に入った餌が出てきた。
よくある犬の餌みたいなパサパサに乾燥したウンコみたいな餌だ。それが袋にビッシリと詰まっている。
俺達がその餌を小屋から出したって事に気づいたのか、一斉に貪欲なロバだかヤギだか羊だかの群れが俺達目掛けてやってきた。
残念な事にその時俺がフォックスから餌を手渡されたばかりだったから俺目掛けて一斉にヤギやら羊やら豚やらが来て、俺はバンザイしながら餌を取られまいと必死だった。
「ぎゃああああああ!!」
俺は叫び声をあげた。
ヤギだか羊だか豚だかわからないが俺のスカートを捲し上げたり、シャツを引っ張り出したり、勢いでブラを外したり、おっぱいぷるんぷるんしたりした。慌てて手を振ってそれを止めようとしてしまった事から持っていた餌がクソ家畜どもに食われまくった。
乾燥ウンコみたいな餌が虚しくも枯れた大地にばら撒かれて、ゴキブリも真っ青の食欲でそれらを喰らい尽くし、元の枯れた大地に戻るまで1分もかからなかった。そして紙袋までもがヤギに食われて俺達は餌購入前の状態に戻ってしまった。
「…」
俺は無表情で脱がされかけた服をそのままに、呆然とその場に立ち尽くす。あの家畜どものせいで…100円もする餌が。
フォックスのほうを見てみると、俺のほうからは顔を逸らして「僕は見ていません」アピールをしていた。だがさっきジッと俺のおっぱいを見ていたのは知らないとでも思っていたのか。
「…」
「あ!あっちいこっか、ほら、あのウサギがいるところ!」
フォックスが指さしたのはドラム缶の周囲に沢山の穴ぼこが掘ってる場所。見ればどの穴もウサギが掘ったものらしい。連中は暑いのか掘った穴に身体を半分だけ入れて休憩していた。
「うっひょおおおおおお!!!かわいいいい!」と叫んで俺はウサギを撫で回した。
「たしかウサギはこうやって耳を握って持ち上げるとか」と言いながらも俺はウサギを乱暴に耳だけ持って持ち上げたりもした。
「よーし、パパ、ウサギに乗って移動しちゃうぞー」と言いながらも俺はウサギの椅子に座ってみたりもした。
「なんか餌あげたいね、餌」
と俺はその辺りをウロウロとする。
「餌箱から買ってこようか?」とフォックスが言うも、
「また連中に取られちゃうよ」と俺が返す。
そういえばこのエリアだけ草一本も生えてないと思ったら、柵内の動物が草木を絶滅させたって事なんだろうと今、把握した。
「あ」
俺は柵の少し外に雑草が沢山生えてるのを見つけた。
そこに駆け寄る俺。その後ろをフォックスがやってくる。
「この雑草をウサギにあげようよ」
「おぉ、いいのがあるね」
それから、俺とフォックスは柵の外の雑草を撮ってきてはウサギに食べさせてあげるっていうのを繰り返した。本当に、差し出せばモグモグと絶え間なく食べてくれるのが面白くてしょうがない。コイツらの胃袋はブラックホールなのか?
…まぁ、それは置いといて。
そろそろ外の雑草も無くなってきた。
それから俺とフォックスは散々そこで遊びつくして飽きてから、近くのお化け屋敷に入ることにした。
「しかたないなぁ、恋人だからね。今日は」
と言って俺はフォックスの手を握る。
「あら、さっきよりも…手に力が」
とか言ってしまう俺。何故ならフォックスはさっきの力を込めずに人形みたいにだらんと手を垂らしたわけじゃなかったから。向こうから握り返してきたのが俺にもわかる。
「いや、その、暗くて危ないからさ…」
と恥ずかしそうに言うフォックス。
中は妖怪シリーズだ。
メジャーなものから俺が知らない地方だか海外だかの妖怪まで、幅広くお人形さんで登場してくる。3G映像だとかホログラムだとかアンドロイドだとかを使っているリアルな演出のお化け屋敷を見てる俺からすると、そこはいかにして今まで沢山の人を怖がらせてきたかっていう歴史を感じるタイプのお化け屋敷だった。つまり、怖いっていうよりもアンティークなものを見るような気持ちだったよ、高尚な気持ちね。
最後の廊下、真っ暗な道がずっと続いて、マジで怖がらせるっていうよりも転ばせようとでもしてんじゃないかっていうぐらいに、床そのものが斜めになってる。嫌味な構造だな。
などと俺が思っていた時だった。
突然俺が歩いてる右側がパッと明るくなって、中から今までの妖怪シリーズにはなかった「ジェイソン」が現れるじゃないか。そりゃないぜ、妖怪で統一しようぜ…ジェイソンは妖怪じゃなくて映画のキャラじゃんかよ…。って思うのもつかの間、俺はジェイソンがしつこくナタを振り回してくるので身体がふらついた。
「あ」
という間に俺の身体がフォックスに抱きついてしまう。
「あああ、ごめん」と俺。
「いや、ぜんぜん…悪くないよ、うん」とフォックス。
俺の肩を掴んだフォックスがしばらく固まってしまう。なんか、離すタイミングを逃してしまって、後は俺待ちって事になったみたいな微妙な雰囲気だ。タイミング逃したのは俺もだけど。
「こほん」
俺はひとつ咳をして、身体を離した。
「ご、ごめん」
フォックスが謝る。
「いやいや、全然気にしなくていいよ、ほら、恋人でしょ!」
と、俺は肘でつつく。
「あ、う、うん…」
フォックスは顔を真赤にした。