72 自殺とデートとクラッカー 5

「いやぁ、楽しかったねぇ」
と俺はフォックスの肩をぽんぽんと叩いた。
「死ぬかと思ったよ、途中…」
「なんかみんな途中からパニックになるからさ、あれはワロタ」
「いやそれは…君が色々と怖い話を」
よし、追加でもうちょっとウンチクを語っておくか。
「そういえばジェットコースターの横の売店には下着が売ってるんだって、ジェットコースターでビビってオシッコ漏らしちゃう輩の為に用意してるらしいよ」
「え…マジで。もしかして今のでオシッコでちゃった?」
「まさかぁ!」
俺は再びパンッとフォックスの肩を叩く。
「あ、でもスカート履いててオシッコ漏らしちゃった女の子が居たとしたら、係員がそれに気づかなくて椅子はオシッコまみれで少し乾いてその状態で次のお客さんが乗るとかあるらしいよ」
俺がそんな話をすると、何故かフォックスも降りてきた乗客も一斉に自分の衣服のお尻の部分を触って匂いを嗅いでいた。ごめんね、俺が全部驚かしてたんだね…ニヤニヤ。
「次、どこいこっか?」
「あ、うん、えっと…どこいく?君の行きたいところで」
「じゃ、えーっと…お腹が空いたなぁ」
「(フォックスは財布を見ながら)えと、じゃああのレストラン行こうか、ほら食べ放題のところ」
バイキング形式の食べ放題のレストランか。今の俺はお腹が空いてるからいくらでも入りそうだな、なかなかいいチョイスしてるじゃないかコヤツめ。
食べ放題形式のレストランは牛のマークがでかでかと看板にあり、その下には「すすめバイキング牛角丸」って書かれてある。焼肉屋がバイキングをオプションでつけたような感じだ。
11時オープンで、現在がちょうど11時。オープンしたての店内はまだ静かで客も疎ら、店員は待ち構えていて俺達が入ろうとすると、料金は前払いだと説明された。
「えと、じゃあ、俺が…」
と二人分の料金を払おうとするフォックス。
「あ、あたしの分は出すよ?」
「え?いやいや、ここは俺が全部出すよ。その、デートだから…」
デートって男が全部出すものなのか…。
っていうか店員の前で突然「デート」という単語を出されて俺は焦った。突然にも現実を叩きつけられたように焦った。そうか、いまデートしてるんだっけ、俺達は…。
「い、いこっか」
お金を払い終えたフォックスが、現実を認識中の千円札を出したまま固まってる俺に言う。
それはともかく。
さぁ、食うぞぉ。
学食のバイキングは女の子向けのクソみたいな野菜ばっかりだからな、やっぱり肉だよ肉。バイキングは肉だね。食べ過ぎてお腹壊したのか脂が強すぎてお腹壊したのか食中毒でお腹壊したのかわからないぐらいの勢いの肉であるべきだよ!!
「というわけで」
俺がもっさりと詰んできたのはカルビとホルモンだ。
「うわぁッ!そんなに食べれるの?」
とフォックス。
「だぁぁいじょうぶだぁぁいじょうぶ」
「ホントかな…」
「うへへ…」
さてと肉を焼きましょう。
ホルモンを真ん中に置いて脂を沢山出させると、その脂で火力が増して他の肉を焼く手助けになるって昔のエライ人は言ったものだよ、誰が言ったか知らないけど、とにかく昔の人だよ。
真ん中にホルモンを並べて脇にカルビを並べて…。という行為をしている時にフォックスは野菜サラダなどをお皿に持ってきた。
「男の子は沢山肉を食べないとダメだよ!」
と俺はそろそろ焼けてきた(けどまだちょっと赤い)カルビをフォックスのお皿に置いていく。
「これ、まだ赤いんじゃないの?大丈夫なの?」
「だぁぁいじょうぶだぁぁいじょうぶ」
「ホントかな…」
「肉はちょっと赤いぐらいが一番美味しいんだよ!」
フォックスはそのまだちょっと赤い肉にタレをつけて口に放り込んでモグモグ…。してから、「ん…確かに美味しい、かも」
「ほらほら、美味しいでしょ?」
と俺もまだちょっと赤い、というか赤すぎるカルビ肉をタレをつけて頂く。あ、何これちょっと冷たい、全然焼けてないじゃん。俺は口からそれを箸でつまみだすと再び焼き網の上に落とす。俺の涎が糸を引いて肉との間に橋をつくる。涎橋である。
その肉が焼けてきたので俺が取ろうとすると、
「キミカちゃん、そ、それ、その肉、食べてもいい?」
と聞いてくるフォックス。
「あ、うん、どうぞ」
涎橋を飾った肉がフォックスの口の中に。顔を真赤にしてその肉を頬張るフォックス。
「おいしい?」
「おいしい…」
フォックスはパイプ肉(小腸)を食べようとする。焼いてる時間はカルビと同じかそれ以上経過したからだ。
「あ、ダメダメ。小腸は危ないよ」
「そうなんだ」
「それはもうちょっとかな。表面が少し焦げてきたら食べ時」
「へぇ〜」
なんて話をしながら俺とフォックスは2皿、3皿と平らげた。意外とこの店っていいかも知れないな。肉が美味しいや。