71 ネットウヨク 7

今、俺とナツコは商店街の中にある雑居ビル前の喫茶店にいる。
あの後、コメント欄に上がってた住所のうちの一つ、一番学校から近い場所を選んでそこへと向かったのだ。
ひと通り注文を終えて俺は聞く。
「ここで何が起きるの?」
「あ、来ましたわ」
んん?
ナツコが雑居ビルの前の道路を指さす。
そちらを見てみれば、一台のバンが路上に駐車してある。
そこから黒のスーツやらジャケットやらを着てる男女の集団が出てきた。なんとも怪しげな集団。ただ、俺はこの人達の違和感が長年の経験から理解できる。あれは人間じゃない。
整った顔、整ったスタイル、癖の無い無駄のない身体の動き。これらはアンドロイドの特徴そのものだった。
「まさか…」
「そうですわ。あれは全員アンドロイド。ネット右翼の『実体』の一つ。外部からリモートコントロールされた『処刑人』で構成される部隊ですわね。とりあえずライブのパスワードを今回は手に入れたのでキミカさんも見てます?」
「み、見てみるって…何を?」
「処刑人アンドロイドの視点からライブが見れるのですわ、初めての人はちょっと3D酔いしますけども…」
「お、おぅ…見てみるよ」
「えっと、キミカさんは電脳化のような事をされてるので特別な道具無しで直接頭に情報が遅れますのよ?えっと…準備しますわね。ちょっとaiPadをお借りしますわ」
そして俺から借りたaiPadを操作してナツコは別の小さな携帯みたいな機械にaiPadのコネクタを繋げた。
…。
ん?
俺に電脳通信してくる人がいるよ。
『キミカさん、準備はよろしいですか?』
「おおぅ」
『いま接続しますわ。アドミン権限がありますので必要であれば処刑人を操作できますわ。どうします?』
「そ、それはいいや。今回は見るだけで」
「わかりましたわ」
『では繋げますわ』
ん〜、ドロイドバスターの機能にこんなのがあったなんて。そういえば前にも戦闘中に戦艦だかバトルクルーザーだかの装備を遠隔操作した事があったな…あれみたいなものなのかな。
電脳通信と同じ要領で俺は電脳に接続してきた端末を許可する。
すると俺の視界は一瞬で雑居ビルの前に移動した。位置からするとあの処刑人アンドロイドのメンバーの一人、背の低い女アンドロイドから見た視界みたいだ。
さすがはアンドロイドの視界。視界脇には英語のメッセージがつらつらと流れてる。多分これは命令?みたいなものなのかな。
雑居ビルの廊下を進む。
廊下の一番奥にはプレートが掛かったドアがあり、そこから男が出てくる。そしてツカツカとこちら(処刑人がいるところ)に歩いてくる。と、その時、処刑人の視界にマーカーが現れて男の顔や服装にマーキングが施される。何かとマッチングをしている…ようだ。あぁ、この男ってさっき学校の講堂にいた奴じゃん。
と、俺が思ったその刹那、視界が激しく動いたかと思うと、男の顔に十字に線が入る。
これは…刀だ。
刀が十字斬りをして男の顔が4つにわかれた。血しぶきがあがる。
男は悲鳴をあげることすら出来ず肉塊へと変わった。
視界がどんどん早く前に移動する。
これは走ってるな、
アンドロイドが走って例の廊下の突き当りの部屋に移動し、部屋の前に来た時、ドアを蹴り上げる処刑人。ドアの向こうにいた男が圧で吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
「なんじゃワレァ!!!」
ドアの反対側にいたのは叫ぶヤクザ風の男。
そこにマーキング。
照合。
そしてハンドガンの照準が男の顔面に行ったかと思うと男の額に黒い点が出来て、後は後頭部から血が吹き出して終わりだ。
「殺せェェェ!!!」
ヤクザ達が叫ぶ。ヤクザ男がハンドガンを懐から取り出す。そして2、3発連続でこちらに撃ってくる。がバリアに防がれる。そして処刑人、ヤクザに接近、マーキング、照合、そして刀で胴体を真っ二つ。ずるりと上下が別になって崩れ落ちるヤクザ。
すっげぇ…容赦無いな。
人が操作してるのか?それともAI?いや、これはAIだ。確かによくロジックが組まれてるけども相手が人間だから通用するんだよな。これがドロイドとかだったら…。
と俺が思っていると、背後からコンクリートの壁を殴りつけるような音が聞こえる。視界は振り向く。あ、仲間の処刑人がアンドロイド?に殺られてる?っていうか、これ、ヤクザのメンバーの一人だ。こいつ、サイボーグ化してるのか。
サイボーグ化してるヤクザの男は処刑人で一番背の高いヤツを殴りつけて壁にめり込ませてた。相当腕のパワーがあるらしい。
他のヤクザと同じくマーキング、照合、ってやるんだけどリストにヒットしない。そりゃそうだ。こんなごついサイボーグは俺たちの学校には来てない。だけどリストにある(けど既に始末された)男に関連する人間の一覧にはヒット。
…ってそこまで調べてるんかい!
そうこうしてるうちにサイボーグ野郎は俺の方に(俺がライブで見てる処刑人)に歩み寄ってきてあの重たいパンチを食らわせてきやがった。思いっきり身体が吹っ飛んだ。そのままその事務所の窓から外に。というところで辛うじて手で窓枠をキャッチして落下を免れる。あぶね…まるで俺が吹き飛ばされたような感覚だった。
しかしサイボーグ野郎は今度は別の処刑人を倒そうとしてるらしい。処刑人のライブ映像ではゆっくりと窓枠から上に身体をのりあげる。すると既にもう1台のアンドロイドもそのサイボーグ野郎に倒されてるじゃないか。やっぱAIじゃん。
このまま負けるのもムカつく。
「ねぇ、これアドミンだっけ?制御するのってどうやるの?」
と俺はナツコに聞いてみる。
「あ、制御なさるの?いいですわ、今こちらでパスを通しますわね。…はい。OKですわよ。今、キミカさんの制御下です」
「さんきゅー」
んんん?
制御下…だけど若干身体の動きが重いな。
やっぱアンドロイドの身体だからか。
俺はハンドガンでサイボーグ野郎を狙う。とりあえず胸に当ててみて…ってやっぱダメか。弾かれた。防弾合金設計ですね。
サイボーグ野郎は俺のほうに向かって走ってくるわ。
刀…刀…刀。刀を俺がグラビティブレードを持つ時と同じ持ち方へと変えて、男の身体を4つ裂きぐらいにする。が、なんてボロイ刀なんだ。っていうか男の身体が硬いだけか。
弾かれた上に刀がボロボロに(涙)
サイボーグ野郎があの重たいパンチを食らわせてくる。俺はそれを心眼道の構えで交わした上でカウンターにして返す。効いてる。効いてるぞこれ。よし、一気に畳み掛けるぞ。
再び挑発するかのように俺は軽くジャブを男の顔に叩きこむ。やっぱり顔の方もサイボーグ化しているらしい。あまり効いてない。だが挑発の効果は十分にあった。
再び重たいパンチを食らわせてくるサイボーグ野郎のパンチの流れを利用して身体を奴に寄せると、勢いで半回転して一気に背後をとる。そして足に一撃。
サイボーグ野郎は「あれぇ?」とでも言いたげな顔。
再び挑発の一撃。また重たいパンチ。だが今度は裏拳でくる。それを腕で軽く流し反動を利用して身体をヤツの腕に巻き付ける。秘技、蛇巻き落とし。空中で俺の身体は捻れてサイボーグ野郎の太い腕に絡まり、その捻れに任せて一気に腕を持っていく。
メキメキと鉄が壊れる時の音が聞こえた。
それから残った腕で身体に巻きついてる俺(処刑人)を引き剥がそうとするサイボーグ野郎の背後に回りこんで、勢いで首をベキベキと引き剥がす。さすがにコレで死ぬだろ…。
いや、死ななかった。
全身サイボーグ化してるのだろうか。
バラバラにしても死なない。
仲間の処刑人のダブルでのショットガンの攻撃で両足を吹き飛ばされるヤクザサイボーグ。そして俺の刀が奴の口から頭蓋骨へ向かって突き刺さる。これで…ジ・エンドだ。