71 ネットウヨク 5

その日の午後、生徒達は何故か学校から帰される。
俺は事情を知っていた。
あのヤクザだか左翼だか外国人だかよくわからない連中は今日の午後にアンダルシア学園の講堂に来るって決まってたらしいのだ。結構突然だよね、なんていうか、考える暇を与えないっていう奴等のやり方なんだろうとは思う。
その為に帰されたのだ。安全の為に。
珍しくナツコが話し掛けてきて、
「お兄様が言われてましたわ。右翼の団体と連絡をとっただとか」
「あぁ、うん、あたしも職員室で聞いたよ。っていうかさ、『右翼の団体』っていうのは何なの?あたしの頭ン中では右翼って街宣車のイメージしかないけど…」
「チャンネル椿?でしたわ。たしか」
「何それ…テレビ局?」
「ネットTV局ですわね」
右翼団体じゃないじゃん…」
なんかすっごい頼りない気がするなぁ…。
「わたくしはちょっと気になりますので講堂に向かいますわ。それからその変な団体を観察しようと思いますの」
「そりゃ面白そう、じゃなかった興味深い。あたしも行くよ」
…というわけで、俺とナツコは講堂の舞台裏にある、あまり知られてない小道具さん用の通路に忍び込んだ。本来なら生徒は今日は危険だから帰らないといけないわけだけどね…。
俺とナツコが小道具さんよう通路に入った時には既に始まってて、校長先生と教頭先生に向かって凄まじい野次が飛んでいた。
小窓から眺める限り、講堂に用意されてる椅子に座ってるのは全部、そのヤクザだか左翼だか外国人だかの集まりだ。
「一体この学校の人権に対する認識はどうなってるんだ!」
ブチ切れて顔を真っ赤にしてるオッサン。これは左翼側の人達だ。
「いえ…それに付きましては教育委員会によって定められt」
「そんな話はどうでもいいんだ!!」
どうでもいいのかよ。
「お前は『人権』という字は書けるのか?」
え?…ちょっ、それが何の意味があるの?
「あ、はい、書けます」
「書いてみろ!!」
えーッ…なんなのこのやりとり。
「しかし書くものが…」
そりゃそうだよ、白板があるのかな?ないじゃん。
「人権の意味を知っているのか?!」
「はい、もちろんです」
「嘘をつくな!!人権の意味を知っていたらなんでウチの可愛い脛夫がこんな目に会わなきゃいけないんだ!!」
と、そのブチ切れたオッサンの隣にいる『脛夫』っていう奴を見せて言う。脛夫はまさに脛かじりって感じで甘やかされて育ったんだろうか、デブで頭はスポーツ刈りで金髪に染めてて、特徴としては額に『肉』って書かれてある。って、あれ俺が書いたんだっけ。笑えた。しかも可愛い脛夫って。こりゃ笑うところかァ?
「しかしぃ…うちの生徒がお宅の息子さんに手を出したという証拠もどこにもないわけでして…」と恐る恐る言う教頭。
「証拠があるかどうかが重要なんじゃない!!あんたのところの学校での教育はどうなってるんだって話をしてるんだ!!」
なんかかるーく重大な部分をスルーされたような感じじゃん。ま、俺がやったんだけどね。
「先ほどお見せしましたビデオにあるとおり、お宅の息子さんは明らかに我々の学園内で落書き…いえ、器物破損をしており…」
「それがうちの子供っていう証拠はどこにある!!」
いやいやいや、あるじゃん、ビデオがあるじゃん。ビデオにお宅の息子さんが映ってるじゃん。しかも額に『肉』って書かれた奴はそうそういないよ?世界中を探してもそうそういないよ?
さすがにこれには先生も呆れてる。
こいつらの言ってる事は全然スジが通ってない上に、何か自分たちに都合が悪くなると「人権」だとか言葉を出して有耶無耶にしようとする。なんか小汚い悪って感じだなぁ。もっとかっこいい悪ならストレートで打ち負かされる時も気分がいいのにね。
それにしても、そのチャンネル椿ってテレビ局はどこにいるのよ…右翼団体なんでしょ?何やってんのって感じだよ…ったく。
俺は講堂内を見渡してみる。
あ、いた…。
講堂の隅っこで目立たないようにビデオカメラを持って淡々と映してるだけだ。その変な団体と先生とのやり取りを…。
うわぁ…マジで役に立たねぇ…。
しかもそのビデオに気づいた変な団体の人達がチャンネル椿に数名駆け寄ってきて、
「おい、何撮ってるんだ?」「そのビデオをよこせ!!」「撮るな!」「お前、殴るぞ?」とか言ってる。
しかしチャンネル椿はやっぱりマスコミの端くれなのか、平然とした態度でいる。男性がカメラマンで女性のほうは補佐みたいな感じだね。それが、
「やめてください、警察を呼びますよ?」
と毅然とした態度でいる。
けれどやってることはビデオに録画してるだけなんだよね…。
なんか俺は先生たちが可哀想になってきたし、あのチャンネル椿の連中があまりに無能すぎてナツコに聞いてみる事にしたのだ。
「ねぇ、ナツコ。あのチャンネル椿の人達ってケイスケが呼んだんでしょ?全然役に立ってないような気がするけど…」
俺が今思ってる疑問をぶつけてみる。
「ん〜…キミカさん。ネットの端末はあがります?」
「あぁ〜。うん。aiPad持ってるからね!」
「それでわたくしが言うサイトをみてくださいます?」
「え?サイト?」
…それがチャンネル椿とか、右翼となんの関係が…?