70 ニダニダ 1

レイパー達を退治した件からしばらく経ったある日。
その日も秋の涼しげな風が窓から教室に流れこんできて、自然ってやっぱりいいよね、という風に夏場には聞くことの出来ないセリフを言い放ってしまいそうなほど清々しい気持ちになっていた。
そんな時だった。
授業中に何やら校門のほうが騒がしくなっていた。
誰かが校門側を眺めていて気づいたのだろう。最初はそちらを見ていただけのクラスメートは次第に友達に言い、友達が友達に言い、授業(というかホームルームの時間だったけど)クラスメートは次から次へと立ち上がって校門のほうを見る。
「なになに?何か面白いことでもあったの?」
俺も窓に駆け寄って見てみる。
そこで俺が目の当たりにしたのは、まるで数百年前のビデオテープの中から発掘されたかのような絵で描いたような『不良』の姿だ。
いまどき珍しく木刀やら鉄パイプやらナイフをチラつかせズラーッと校門の前に集合しているのだ。
「なんだぁ?」
誰かがその光景を見てそう言った。
次の瞬間、連中は低俗にもほどがあるというぐらいに、校門やら壁やら石造やらにスプレーで悪戯書きをし始めたではないか。嫌がらせだ。喧嘩を売りに来たんだとそこではじめて理解したよ。
ここは元々は女子高でお嬢様が通うような高貴なところだ。不良に定義されるような下賎な存在は逆に物珍しく見える。みんな次は連中がどんな悪さをするのか期待の眼差しで見ているようだった。
しかし常識的に考えてそいつらのやりたい放題に出来るわけでもなく、あの落書きだって業者に頼んで落として貰うのは学校の仕事なのだ。だからアレを追い払うのも学校の仕事…。
なのだけど、何故か、生徒指導の先生(女)が俺達のクラスへと入ってきてケイスケ(担任)に話しかける。ヒソヒソ話してるので何を言ってるのか分からない。
「な、なんでですかぉぉぉぉお!!」
顔を真っ赤にしてケイスケが怒鳴る。
「ほら、だって、先生は身体が大きいですし」
「身体は大きくても心はピュアだにゃん!!」
「おねがい!」
拝んでる。生徒指導の先生が拝んでる。
「いやですぉぉぉ!!」
なんか話が読めないので俺はケイスケに近づいて、
「どしたの?先生」
と聞いてみる。
「どしたもこしたもないにゃん!!あの校門に屯ってるクソ不良どもを何故か僕ちんが追い払わないといけなくなってるにぃぃぃ!!!ぐぬぬぬぬ」
いくらケイスケが身体が大きいからってそりゃ無理な話じゃん。使い勝手のいい肉のサンドバッグが連中の手に渡るだけじゃん。
「逝ってら」
俺はケイスケに手を振ってその場を離れようとした、そのとき、ふらふらと振っていた俺の手及び俺の肩を後ろから大きな手でガシッと捕まれて「キミカちゃんならあの不良どもを追い払えるにぃぃ!!」とか言い出す。
「ちょっ、か弱い女子高生になんて事頼むんだよ」
「か弱くないにゃん!」
「えー、めんどくさいなぁ」
傍らでそのやり取りを見てた生徒指導の先生は、
「キミカちゃん?ミス・アンダルシアの?おねがい!」
と拝む。クソッ、誰でもいいのかよ!
しかし、しかしだ。俺だけがこんな損なクジを引いてばかりでいいのだろうか?否!いいわけがない!誰かを巻き込むぞ。当たり前じゃん。俺はその巻き込まれ適任の2名を知ってる。メイリンとコーネリアさんだ。
メイリンとコーネリアも強いよ」
「いいですぉ!もうみんなで行ってちゃっちゃとやってくだしあ!警察を呼ぶから到着するまでの間ですにぃ」
「はぁ…」