54 関電ハンター 4

「んじゃ、お嬢さん、どこに行きたいんだ?」
車に乗ってからバトウは俺に言う。
って、え?俺?
「どういう事だ?ワシの護衛をするんだからワシが行く場所を決めるのが筋だろうが!」
清水はキレ気味に言う。
その間もバトウは小指で耳をほじほじしながら「あーめんどくせぇな」とでも言いたそうに清水の怒鳴り声を聞いていた。で、ひと通り怒鳴り声が止んでから、
「ハンターはアンタがアンタの性格上どこに行くのかを目星をつけてるんだよ。つぅことは、アンタが行きたいところに行くのは襲撃される確率が増えるってことだ」
「それを守るのが貴様等の仕事だろうが!」
「こちとら神様じゃねぇんでね。守るにも限界ってもんがある」
なるほど。そういう事か。
「そんで、お嬢さん、どこに行く?」
えーっと、じゃあどこに行こうかな。
やっぱり東京に来たから良く場所は一つしかないな。
「アキバ」
「了解!」
「アキバのリナカフェに行ってみたい」
「リナカフェ?」
「そうそう。リナカフェでドヤ顔でaiPadを弄りたい」
俺はニヤニヤしながらバッグからaiPadを取り出した。
aiPadはつい最近アメリカの林檎社から発売されたデバイスだ。
コーネリアに頼んでアメリカから取り寄せてもらったのだよ。フフ。
コンピュータと言えば脳に直接接続するタイプのデバイスやら画面に指で触れてタイプするデバイスやらキーボードがついているデバイスやらがあるけど、このaiPadはPadと言いながらも板のようなものではなくてホログラムを目の前に作ってそこをタッチするタイプのモノなのだ。物理的な手で触れるタイプのデバイスと論理的な脳に接続するデバイスとの中間に位置するものだと俺は思っている。
そしてそれがカッコイイのだ。
だって脳に繋げるタイプのって外から見たら何してるのかわかんないじゃん。(あと電脳化もしなきゃいけないらしいし。まぁ俺の脳味噌はドロイドバスターになった時点で既に電脳化されてるっぽいけど)
そして、これを有名所の喫茶店で広げて周囲の注目を集めるという実に優雅な遊びが流行っているのだ。アキバの有名所お喫茶店といえば…リナカフェ。
「へぇー。キミカお嬢もそういうデジモノが趣味なのか。公安にもそういうのが好きなのがいてな、今は電脳化でより高速にコンピュータとやりとりできるから旧世代的なデジモノはいらんだろって話をしたけど聞こうとしねぇんだよな。やっぱりどこか惹かれるものがあるんだろうな。俺も車はアンティークなミッションタイプだからな、気持ちはわからんでもない」
そうこう言いつつ、アキバに到着。
駐車場に止めてからさっそくリナカフェに向った。
リナカフェはこの前話したラーメン一郎みたいな感じのアキバが起点となり全国展開してるカフェテリアで、リナカフェの「リナ」は「リナ」と呼ばれているアンドロイドを店員に使っている意味から来てる。
「リナ」は登場した当時は珍しかったって言われてる商用の店員タイプのアンドロイド。その人間離れした可愛らしいアンドロイドにメイドっぽい服を着せてメイドカフェみたいな感じにしちゃったのがリナカフェの始まりである。それから全国展開していくうちに、例えば京都だったら和服だとか、沖縄はアロハだとか、ご当地の制服を着用するようになって話題を集めた。
リナカフェの説明はこのくらいにして…。
俺達はついに最終目的地である東京秋葉原リナカフェにナゥしたのだ。
目の前にはヨーロッパのカントリー風デザインなオープンテラスを持つ建物が現れた。オープンテラスは木造でテーブルも木造のものが並んでいて、ハーブの鉢植えなんかが飾ってある。レンガやらで作られた基礎、及び壁が都会のアキバの中で異世界の入り口を作り出している。
「へぇ〜ここがリナカフェか」
とバトウ。
オープンテラスには既に来客が俺のようにデジモノを持って座っている。なんというセンスのある風景なのだろうか。リナカフェではカフェそのものだけでなく、デジモノを店の中で広げている客も、ある意味リナカフェを構成するオブジェの一つなのだ。それらが全て合わさって始めてリナカフェの姿を成す。
例えばあのオープンテラスに婚活系の女子が男達と婚活パーティをしていたらもうそれはリナカフェじゃない。三十路ババアカフェになる。
さてと、俺はさっそく先頭に立って店に入る。
店内にもデジモノを広げている客がいっぱい。
店の奥にあるテーブル席を陣取る俺達。
「んじゃ、俺は何にすっかなぁ」
バトウがメニューを広げる。
「カフェなのにワインとかも置いてあるんだな」
「そうそう。リナカフェではワインを優雅に嗜むことも出来るんだよ」
と俺はドヤ顔で言う。
「んじゃ、俺はワインにすっかな」
すかさず「貴様!勤務中じゃないのか!」と関電元社長。
「あぁ?俺は全身義体だからアルコールも制御できるんだよ」
「そういう問題じゃない!」
と被せるように怒鳴る関電元社長に、
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
と小山内さん。
バトウさんはワイン、関電元社長と小山内さんはコーヒー、俺はリナカフェ名物のメープルフロートを注文した。
さて、注文したものが届く前にそろそろドヤっておくかな。
俺はドヤる為に持ってきたaiPadをバッグから取り出し机の上に置いて電源を入れる。すると目の前にはホログラムの画面が広がるのだ。店内に広がる電子空間。今俺は何か難しい事をしているわけです(ドヤ顔
すると店内でデジモノを広げていた客達が一瞬俺のほうを見る。
すぐに目を逸らす。
そして目を自分の持ってきたデジモノのところへと落としすと、突然険しい顔になり、再びチラリと俺のほうを見る。
この時に彼らが考えている事を俺が代弁してあげよう。
(え、ちょっ…アレはつい最近アメリカで発売されたというaiPadじゃないか!凄い。映画の中でしかみたことがないようなホログラム装置が俺の視界に広がっているぞ!日本ではまだ発売されてないはずだ!どうやって手に入れたんだ!クソッ!羨ましい!奴は何をしてるんだ?株か?それとも何かの装置をリモートコントロールしているのか?険しい顔をしているな!)
俺は再びその視線を感じて、その方向をチラリと見てみる。
素早く目を逸らす客達。
ふっ…。
見てるな!
見ているな!
見ろ!見るんだ!あたしをみてー!
「お嬢さんさっきから何ニヤニヤしてるんだ?」
あぁ、もう、バトウ、邪魔すんなよもう。