54 関電ハンター 3

しかしそれにしても…。
もう100年以上も前に起きた事故の件で今だに関係者が殺されて続けてるのはどうなんだろう。それまでの間は住む場所を点々として逃げ回っている人をハンターが追い続けているって事なのかな。それと、さっき気になることが…。
「さっき、毎年この時期になるとハンターがって、言ってたけど、ハンターに襲撃される時期が決まってるの?」
と俺は質問する。
もんじゅが爆発を起こした日の近辺がそうだ。ある意味、一次被曝の被害にあって亡くなった人々の命日に近い日だな」
なるほど…。だから警察もこの時期だけ警備を厳しく出来るって事なのか。毎年恒例の行事なのね。
「殺される人も決まってるの?」
「いや。ただ、あてはある。今回殺されると予測されるのは清水考。元関東電力の代表取締役社長だ」
「あー。そりゃあ殺されるねぇ」
「毎年、ターゲットにされそうな人間を絞って警備に当たっている。幸いな事に今までで警察関係者で警備の際に殉職した人間はいない」
「え?えっと…じゃあ警察関係者以外では…」
「無関係な市民も巻き添えになって亡くなるような事はない。今まで亡くなったのは原発関係者のみだな」
「それって、警備しきれてないじゃん」
「…まぁ、そうだな。現実はそうだ。今これだけの人間が『生き残れている』のは警察や警備会社によって守りきれた人間がこれだけであって、これだけしか『生き残っていない』のもまた、警察や警備会社の実力がそれまでだったという事だ」
ふむふむ…ってモノは言いようだなぁ。
「キミカ君と馬頭、警視庁の小山内の3人で清水考という男を護衛する事、それが任務だ。時間は現時点から翌日9:15分まで」
「今回はやけにきっちりしてるじゃねーか」
白髪義眼の男が言う。
「今までもそうだっただろう。制限時間内で必ず殺害しようとする。これが彼らの理念なのだろう。どういう理由なのかは知らんがな」
「んじゃ、さっそく、行くとするか。よろしくな、お嬢さん」
「お嬢さんンン?…」
どうやらこの白髪オールバックの義眼オッサンが『馬頭(バトウ)』と呼ばれている人らしい。バトウは身長140ぐらいしかない俺の頭を身長2メートルぐらいの上空からガシガシと撫で回した。
俺はそのゴツイ手を振りほどき、少し後ろに下がってから変身した。いつものように黒い煙が足元から頭の上まで撫でるように走って、煙がどいたところからドロイドバスターへと変化する。
「おぉ!すげぇ…。そういやテレビで見たことがあるぜ」
バトウも驚く。
「そのコスチュームのままでは目立つのでこれに着替えることは出来るか?」と、ハラマキが手渡したのは黒のワンピースタイプのドレス。白人女性がパーティ会場へと着ていく時に着るようなものだ。
「え?今のコスチュームは脱いだら駄目なんじゃねぇの?」
「…このコスチュームは深い意味はなくてですね…」
「そうなのか!すげぇな」
バトウもやっぱり最初はそんなふうに思うか。
俺も最初はそうだと思ってた。戦闘服のようなものでそれ自身に防御だとか攻撃の役割があるものだと思ってたからだ。だが実はそうじゃなくてケイスケが見た目がカッコイイものにしたかったからで実は深い意味はない。本当にスーツに防御力があるのならセクシーにする意味はないんだよ。防弾チョッキみたく最低でも胸元は隠すし。
そして俺とバトウさんが公安8課の事務所から出ると、廊下には一人のスーツを着た男が待っていた。年齢はバトウさんよりも少し年下ぐらいに見える。疲れた顔をしていて髪の毛もぐしゃぐしゃ、メガネを掛けていて印象的には大人しそうな感じ。
「よぅ!小山内。今年はお前か?」
「たはは…そのようですね」
どうやらこの人が警視庁から来たという「小山内」って人らしい。これから命を狙われているという人を守るという任務を背負うにはあまりにも緊張感の無い雰囲気が漂ってくる。
ようやく3人が揃ったところでいよいよ、俺達が今回護衛する対象がご到着である。
えっと、関東電力、だいひょうとりしまりなんとか。なんとも偉そうな名前だな。と思っていたら案の定、俺達3人がビルを出て来たところに大きなリムジンが到着し、中から中年のおっさんの運転手が出てきて急々とキーを小山内に渡す。このリムジン、防弾なんだろうなぁ。それにしてもお金持ってるなぁ。
「えと、例年通りですが、僕が運転しますね」
「うーい、シクヨロ」
小山内は運転席に、バトウは助手席に、そして俺は後部座席に。
ドアを開けるとそこにはこれまたスーツを着た男が一人座っている。小太りして髪の毛は白髪混じり、ただそこらの年寄りのオッサンとは違う「金持ち」っぽい雰囲気が漂ってくる。例えば一見すると普通に見えるスーツもやたらと綺麗だったり、髪も白髪混じりだけど美容院から出てきたばっかりのような整え方で…。
「ではでは、お乗りください、お嬢様」
うぜぇ、そのお嬢様ってやめてほしいな。俺は男ですよ?
俺は眉間にシワを寄せながらしぶしぶ後部座席に先に入る。
「どういう事なんだ?!毎年毎年警察はどんどん手抜きをしてるんじゃないのか?人の命が掛かっているというのに!いいか?ワシは高い税金を払っているんだぞ?その結果がこれか?今年はこんな子供をよこすなんて…!!」
というのがこの関東電力のだいひょうとり…なんとかの開口一番に発した台詞であった。