51 メイド・イン・ヘヴン 5

部屋に戻った後も俺達は話続ける。
犯人が気になってしょうがない。
もし毒物が本物であったとしたら、こんな田舎の屋敷の中で殺人がひっそりと行われようとしている、という事になる。実は意外とそういう事は多いのかも知れない。誰も気付かないうちにそんな事が行われて、ひっそりと事故や病気で処理されて、人が人に殺されていく。俺達はその氷山の一角を目撃しているのかも知れない。
「犯人誰だろ?屋敷の中にいるのかな?」
「アノメイド長ガ犯人デーッス!」
確かに、この屋敷の中では人間の数が限られているからな。しかし…動機が薄いな。
「でもさ、メイド長が主人を殺して何の特があるの?」
「給料少ない。ストライキのつもり」
「マゾノメイド長ナノデス…」
「そう来たか」
メイリンは腕組をして目を瞑ったまま、
「全員に聞いてみるか」という。
「そりゃまずいよ」
「なぜ?」
「犯人が屋敷にいるとしたらあたし達が色々と聞いている間に証拠を隠されるし、そうなったら後で警察も動けなくなるし」
「ふむ」
「アノ料理、用意シタノメイド長デスカー?」
「コックじゃない?」
「デハ取リ敢エズ今一番怪シイノハコックデスネ」
「コックがかぁ…」
という事は、この屋敷にいる人間は主人とメイド長、コックという事になる。ついでに言うのなら後は俺達3人だ。
「あのコック、人間、違う」
「え?」
「メイドアンドロイドと同じ。コックアンドロイド」
「えと、じゃあこの屋敷ってさ、メイド長と館の主人以外はロボットって事か。ふぅ〜ん…。っていう事は、アンドロイドに指示を出してる奴が黒幕なのかもね」
「ではメイの親戚、犯人」
俺達は今までかき集めてた色々な情報などがグジャグジャに頭の中をぐるぐるしていたのが、メイリンのこの言葉をきっかけにして一本の線で繋がった。メイの親戚が犯人。これはしっくりとくる。

「目当て、遺産か?」
「ナルホドデス…」
メイにとっては屋敷の主人は叔父にあたる。そしてその叔父の子供がいて、叔父が死ねば子供に遺産が引き継がれる。じゃあなぜその子供(メイの親戚)が親を殺そうとしているのか?それはメイと屋敷の主人である叔父、つまり彼らの父親がとても仲が良いから。万が一にも莫大な遺産をメイが引き継ぐことになったら…。
「で、でもさ…ん〜…そこまで自分の親が信じられないかな?」
「ソウデース…メイサンハ従姉妹ニ当タルノデハナイデスカァー?」
自分達の父親が従姉妹のメイに財産を配分するかもしれない、という疑心。実際に財産を渡すかどうかじゃなく、その可能性が1パーセントでもあれば実の父親でも殺せるというのか。殺人に手を染める事が出来るのか?それで得た財産を使って何を得るのか?俺の頭の中には汚い人の心みたいなのを垣間見たきがして、それが嘘であって欲しいという考えも同時にあった。
「人は金で、変わる。金、人を変える。貧しい産まれなら、なおさら。小さいころの乾き、ずっと癒されない。金持ちになっても癒されない。治すこと難しい」
この言葉には重みがあった。
メイリンが中国でどういう家庭に育ったのかは知らないが、日本に来てから制服を揃える事が出来ないぐらいに金がない。常に価値のあるものを探してそこから金銭を得ようとしている。この言葉が真実だという事を信じたくない俺がいる。人は金のために家族を殺したりしないと信じている俺がいる。
だがメイリンも、最後までそれを信じて、それでもどうしようもない嫌な部分を見て、重たい言葉を放ったのだろう。