51 メイド・イン・ヘヴン 4

キッチンの電気はつけてないが、メイリンが中華鍋でバンバン材料を宙に舞わせる際に放たれる炎でキッチンは明るくなっている。
凄い料理さばき。
刻んだ食材を鍋に突っ込んで、後は目分量で様々な調味料を突っ込んでいく。ただ、途中で色々と中華独自の食材が無くてメイリンが味見した結果で似たような調味料を突っ込んでいった。それでも香りはまさに中華。最初はただの冷たい肉や野菜の物体だったのが熱を与えて調味料を与えていくとドンドン料理のそれに近づく。まるで魔法だった。
そして出来上がったのは酢豚。
「Oh…God…美味シソウ…メイリンハ変態デスガ、料理ガ上手ナ変態サンデーッス…」
「変態は余計」
俺達は豚の如く、その酢豚を胃の中へと放りこんでいく。
「んま!!んまんまんまーい!!」
「Ahhhhhhh!!!ティスティィィィ!!」
「(中国語で何か言っている)」
ひと通り食べた後。
俺達は、多分、俺達だけにしかない感覚で一つの疑問を持っていた。
普通の人間の味覚よりも実は俺達の味覚は優れている。これは味覚に限った話ではないけど、ドロイドバスターの身体に変わったときに感覚が鋭くなったのだ。これは俺だけじゃなくて俺と同じコンセプトモデルであるコーネリアもメイリンも同じだったみたいだ。変身していない状態でもその鋭い感覚はある程度は維持されている。食べ終わってから頭の中に疑問符が浮かんでいるのだ。
メイリーーーン…」
「何だ?」
「毒ヲ盛リマシタネ…」
「私、食べた!毒盛った本人が食うか?」
そう。毒だ。
少なくとも普通の人間にとっては有害な何かが入ってる。
「洗剤を間違えて入れちゃったとか?」
「洗剤と調味料、間違えない!」
「ん〜…なんだろ。明らかに毒入ってない?」
それが明確になんの毒かはわからないが、普通に食べるものと違う味がわずかに入っている事は違いない。
「そういえば…」
メイリンは、瓶を一つ取り出してから言う。
「これ、なんか違う味だった」
それは『バルサミコ酢』。ヨーロッパの料理に使われる酢。酢豚の酢の変わりに使った。ただ、バルサミコ酢の酢豚料理は実は中華料理店でもたまに見かけるから、別に変な事はない…はずなんだけど。ここはメイリンの言葉を信じて…。
俺達3名はそのバルサミコ酢を持って金魚鉢の前に行く。
確かめる方法は一つだけ。
この酢を金魚鉢に入れてみて、どのように反応するか?もし毒が入っているのなら…。
少しだけ入れてみると、金魚は元気に泳ぎ回ったかと思うと、一匹、また一匹と浮かんで死んでいく。
「Oh…My…God…」
まだだ。
酢を入れたから金魚が死ぬのかも知れない。
そういえばこの屋敷では犬を飼っていたっけ。ちょうどいい実験材料があるではないか、フフフ…。このバルサミコ酢を犬に毒見させてみよう。毒見する前に既に俺達は食べちゃってるけどな!!
そして俺達は屋敷の外へ出て犬小屋へと近づいた。
犬はドッグフードばっかり食べさせられているらしい。
エサ入れには食べ残されたドッグフードがまるで鹿のウンコみたいに残っていた。そこに犬が一番喜ぶであろう肉系の、しかもさっき作ったばっかりの温かいオマンマ。これで喜ばない犬は飼いならされた犬だけだ。
ほうら、案の定、凄い勢いで食ってる!お腹空いてたんだね!
すると…。
「くぅぅん…」
さっきまで元気に尻尾を振っていた犬がふらふらになって、パタンと倒れて、小さく呼吸しておとなしくなってしまった。これは毒?何かの毒が入ってる。
「やっぱり、毒入ってる」
「身体の大きな人間の場合の死亡率は低いけど、長い間僅かに料理に混ぜて与え続けると死ぬね。でも誰が毒入れたのかな?」
と、その時、
「何をしてるの?!」
この怒鳴り声はメイド長だ!
「Wow!!驚キマシタ!!」
「少しおしっこ漏れた…」
「くっそババァ…」
俺達は犬にエサをやっていたとか、トイレがわからなくて外でおしっこしようと思っていたとか、月が綺麗だったからとか各々に理由を話して部屋へと戻った。