51 メイド・イン・ヘヴン 3

夜。
夕食で俺達は食事をテーブルに並べる役目だった。
この屋敷にはメイド長とコック、それからメイドのアンドロイドが数体、そして屋敷の主人が一人いる。
その主人はどうやらメイの叔父にあたる人らしく、メイがここに来たときは親しく話していた。結構キツそうな性格の人ではあったけど、メイの前ではまるで父親が子供に話すような朗らかな顔をしていた。しかしメイが帰ってからはまた普段のキツそうな、厳しい顔つきに変わり、食事の時もそんな表情のままでもぐもぐと食べてる。そんな顔でご飯を食べても美味しくないだろうに。
その部屋の隅で俺達3名は立たされていて、まぁ、他の要求があればキッチンに言ってコックに伝えて食事を持ってくるとか、そういう事をするわけです。
しかし…空腹な俺達にテーブルの上に並べられている料理を見せるのは何の罰ゲームなのか。
俺は獣のように目を光らせてテーブルの上の料理を見る。
変身後の超高速な動きであればあの食事の一つでも素早く口の中に放りこむ事が出来るだろう。普通の人間の目には一瞬で目の前の食べ物が消えたように見えるだけだ。しかしそれは実は俺の胃の中に消えたのだ…とかやってみたいけど残念ながら今は変身していない。悔しくて涙が出そうだった。
一方でコーネリアは口を半開きにして下唇をフルフルと震わせながら、屋敷の主人が食べ物を口に持っていくのをみて「ああぁぁ、あぁぁ、あー…」と毎回残念そうに聞こえるか聞こえないかわからないほどの小さな声で言っている。
一方でメイリンはコーネリアと同じく口を半開きにして涎を少し涎を垂らしながら、あたかも自分が館の主人であるかのように空気を食べている。妄想の中での味なので本人にしか理解出来ないだろう。大量にある空気を妄想だけで味をつけて食べる、まさに貧乏人が編み出した最も低コスト・低カロリー・低レベルの食事の楽しみ方である…。
「(キミカ)」
メイリンが小声で言う。
「(ん?何?今集中してるんだけど)」
獣のような目で俺はテーブルの上の料理を集中して見てたから、気をそらすような事を言われるとちょっとアレだ。
「(こいつ、残すと思うか?)」
「(どうだろ…)」
「(残したとしたら、残飯、私達のモノ?)」
「(だと思うよ)」
「(殺るか…)」
「(おいおいおい)」
それから小一時間。
残さなかった。
一粒たりとも残さなかった。
屋敷の主人が夕食を残さず平らげるのを見届けて…。
俺達の怒りはマックス。
休憩部屋に戻った俺達はそれぞれが怒りを発散している。
メイリンは矛を取り出すとビュビュビュビュと空を突きまくって、
「あの野郎!一つも残さなかった!あの時殺しておけば!」
と、顔を真っ赤にして怒っている。
コーネリアはベッドに寝転がって布団を敵とみなして背後から首を締めるような格好をしながら、
「ファーーーーッック!!!アレダケノ食事ヲ見セツケラレテ私達ノ食事ガカップラーメン一個トハ、神ガ許シテモ私ハ許サナイ…ダァァァァァイイ!!ユゥ!マスト!ダァァァァァァイイ!!」
俺は俺で、与えられたカップラーメンを宙に投げると、ブレードを取り出して(0.0021秒)十字にそれを斬って(0.0012秒)ブレードを締まった(0.0031秒)
「キミィィィカァァァ!!キッチンニGoデーッス!」
「何をするの?」
「Eat!」
…。
俺達はメイド長に見つからないようにこっそりとキッチンへと移動する。
夜は廊下以外は電気が消されている。
真っ暗のキッチンはゴキブリだけの天国っていうのかぁ…。それをあさる俺達はゴキブリ以下の存在?そんな事キニシナーイ!
「ヘイ!夕食ノ食材ガ残ッテイマーッス!」
コーネリアが冷蔵庫を開けて歓喜の表情だ。
「ん〜…でも、食材が残っていてもねぇ…」
食材をそのまま食べるとなんかさ、敗北感がね、俺達を包み込むじゃん。やっぱり料理として食べたいんだけど、俺は料理作ったことがないしさ…。
「コーネリアは料理出来るの?」
「肉ヲ焼クグライナラ…」
「そ、それは…あたしでもできるよ…」
「キミカハ出来ナイノデスカァ?」
「出来たら聞かないよ!」
俺とコーネリアは最後の望みを掛けてメイリンを見る。
「私、料理作れる。中華だけどいいか?」
「「おぉぉ!待ってました!」」