50 おフランスざまス 2

運ばれてくるお酒。
テーブルの上には様々な種類のお酒が並ぶ。
ナノカやユウカ、俺はシャンパンなどを注文した。コーネリアは「仕事ノ後ハビールガ最高デーッス!」などと言ってビールを注文(でもこういうお店でビールが出てくるとは思わなかった…)そこまでは良いとして。メイリンは中国酒を注文しようとしたのでみんなでそれを止め、色が同じだからという理由でウイスキーを注文するメイリン
このメンバーの中で多分、俺一人だけと思うが、メイリンがお酒を飲むとどうなるのかが不安でしょうがなかった。
お酒を飲んでいない状態でアレだから、お酒を飲んだら…しかも本人が「色が同じだから」という理由で中国酒の代わりにウイスキーを飲もうとしている。一体どうなってしまうのか?何かあった時は俺が店の外に蹴り出すべきなのか、蹴るにしてもメイリンの立ち位置からすると店の外に蹴るのが難しいのではないか、万が一蹴ったとして一番弁償する金額の少ない位置はどこなのか、外に人がいない時に蹴らないといけないとか…色々と考えてしまった。
けれども、いざお酒を一口、ぐびっと飲むと意外にも全然お酒に強いらしい。ちょっと顔を赤くするだけで性格が乱暴になるような事はないみたいだ。これはコーネリアにしても同じで、自分のビールが無くなったからとメイのシャンパンも味見と言って飲んでいた。そのコーネリアが口をつけた後のシャンパングラスをメイは几帳面にペロペロと舐めまわし間接キスが出来ると大喜び。
そうこうしているうちに、いよいよ本格的に料理が運ばれてくる事となった。
本格おフランス料理というのはとても厳格なマナーの中での食事という印象がある。その最初のきっかけになるのがナイフとフォークの多さである。予約席の札が立ててあったテーブルには既に何本もの微妙に形状の違うナイフとフォークが用意されている。それぞれにはきっとどういうシーンで使うべきなのか、拘って形状がそれぞれ異なるのだと推測される。フランス人…いや、西洋食事文化におけるこだわりのようなものを見つけてしまった。日本で食事の際に食べるものに合わせて箸が異なるとかはありえんしね…。
こういう食事の時間ではクラスメートには必ずと言っていいほどに料理のマナーにうるさい奴が一人はいるもので、
「ねぇ、コーネリア。その持ち方逆じゃない?」
などと他人の食べ方に口を出す奴がここにもいるのだ。ユウカだけど。
ちなみに注意されたコーネリアはフォークを右手にナイフを左手に持っている。
ユウカはその礼儀作法に目を光らせていたのだ。ユウカの中では外国人はフォークやナイフの使い方をわきまえていると勝手な幻想を抱いているらしい。それを言うのなら日本人でもまともに箸を持てない奴もいるし、左利きの人は左で箸を持ったりもするじゃないか。
「Oh…別ニソレハドウデモイイノデース!」
「そうなんだ?」
「ユナイテッド・キングダムノ連中ハ料理ハマズイ癖ニ礼儀作法ニハウルサイノデース。フランス式デハ料理ガ楽シメレバドンナ作法デモ構ワナイノデース!!」
本当なのかな?
俺はちらりとメイの顔を伺う。貴族というわけではないけどこういう料理を普段から食べてるから礼儀にも明るいんだろう。
「こほん、確かにそうですわ。当時の日本海軍の育成に当たっていたのがイギリスの軍人でしたので、イギリス式の作法が海軍から市民へと伝わって今の今まで伝承されたという事ですわね。実際は食べれればそれで結構ですのよ。まぁイギリスというのはお国柄としてそういう礼儀やしきたりや伝統にうるさいというのがありますので…」
「えぇ、で、でもぉ」
なんかユウカは納得がいってないみたいだ。ユウカの中にある洋風のイメージが崩れていく音が俺の頭に響く。
「コーネリアさんはアメリカのどこ出身ですの?」
「私ハハワイ出身デーッス!」
そこにもユウカが、
「ハワイ…ハワイ…アメリカ…一応アメリカ…」
すごい微妙な気持ちになっている。多分コーネリアにはニューヨークやワシントン出身ですとか行って欲しかったのだろう。ハワイというと日本人向けの店が立ち並んでいるのもマスコミが放送していたからユウカ的にはアメリカという枠内に入ってないのだ。
「あ、そうだ、ハワイと言えば、サーフィンとかしてるの?」
なるほど。
ユウカ的にはアメリカ人がハワイにいるとなるとサーフィンしているイメージがあるのか。それはあるかもね。
「Oh…私ハインドア派デスゥ…スイマセン」
ユウカはにが虫を噛み潰したような顔で残念がっている。一体何がしたいんだコイツは。外人が自分の思っているような、いや、マスコミが与えたイメージ通りになってないとコイツは罰ゲームでも受けるのか?
「インドアってどういう事をしてるの?」
ナノカが聞く。
やばい。それは聞いてはいけない質問かもしれない。俺とメイリンはコーネリアの印象がある程度固まりつつあるので、「家ノ中デオナニーシテマース!」とか最悪な場合「男ト一緒ニセックスシテマース!」とか言いそうな雰囲気を勝手に感じ取ったのだ。
「hehehe…何シテルカ知リタイデスカァ?」
やばい…。
もう卑猥な事しか思い浮かばない。
コイツ思いっきり言うつもりだぞ。
「知りたいですわ!」「知りたい知りたーい!」
メイとナノカの二人がにやけながら言う。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「ネットゲームシテマース…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
なんか聞いてごめんって雰囲気になってきた。
「どうして?どうしてゲームなの?サーフィンは?」
っていう感じでやっぱりユウカが突っ込んでくるんだよね。もうそれ以上聞くなよ。コーネリアがサーフィンしていなきゃいけないのかよ…。コイツはコイツで辛いんだよ。きっとネットゲームで相手は日本人だな。規律を重んじる日本人はネットゲームの世界でも和を乱すものを許さないので外人がパーティを組んだ時なんてのは日本人の顔色を伺いながらプレイしなきゃいけないし、途中で用事があって抜けようものなら非難轟々だ。
「私、小サイ頃カラ身体ガ弱クテオ外ニ出ラレナカッタノデース…デモ今ハ大丈夫!!改造人間ニナッテ外ヲ跳ビ回ッテマース!」
そういう過去があったのか…。