48 魔法少女キミカ☆マジか? 1

今日俺達は市内の病院に足を運んでいる。
俺とナノカ、ユウカ、それからコーネリアとメイリンの5人。
なんでもユウカの妹がいて(まずそこが初耳なんだけど)、その妹が事故で足を怪我したらしい。ユウカ曰くその年の離れた妹はとてもわがままに育っている為かユウカの視点から見ると既に足は治ってるのにリハビリが出来ないで病院に引き篭っているらしい。ユウカは自分に厳しいタイプの人間だからなぁ。自分の妹を自分の分身の様に思っているのだとしたら厳しくしそうだ。
そして今日はそのお見舞いに行く。
もうお見舞いするようなアレじゃなくて、お叱りに行くような勢いではあった。ユウカは俺達のような健康優良児を見せることで少しでも妹さんに自分の力でリハビリするだけの行動力を養って欲しいらしい。
デパートの向かい側にある市立の中央病院。
病室からはデパートの屋上ではしゃいでいる子供達の姿が見える。あれはヒーローモノのショーかな?俺も小さい頃に連れていってもらった事があったっけ。両親曰く両親のそのまた両親の代からデパートや百貨店の屋上でヒーローモノのショーなんてのをやっていたりしたもので、これだけ科学の発展した時代でも変わらず愛されていくものがあるものなんだね、と言っていた記憶がある。
そんな元気なショーと子供達の声援と対照的に、妹さんのいる病室はずいぶんとインドア派な装備が整っている。例えば…パソコンにテレビにゲーム機に漫画本にアニメのデータディスクと、趣味が少し違えばケイスケの部屋とそう違わないな。
こういうインドア趣味をユウカは一番嫌う。
しかし、まず部屋に入って最初に目に飛び込んできたのは身体に布団というか毛布というかタオルケットらしきモノを巻いている人間と思わしき物体。その物体が布団の上に足だけ出してテレビゲームをしている。テレビゲームをしているのだから多分、タオルケットか布団かわからないその身体にまいてる物体にはどこかに穴らしきものがあり、そこから得られるゲーム画面の情報を楽しんでいる事になる。
部屋に入ると「あ、おねえちゃ」と言い掛けて俺達が入ってきて言葉を止める妹。それは突然の来訪者に驚いているようにも見える。けど、あんたのほうがびっくりだよ。その簀巻きというか春巻きというか、だし巻き玉子というか…。
「もう、カーテンぐらい開けなさいよ」と言うユウカ。
いやいやいや、まずはこの身体に何かを巻きつけて太ももから下しか見えない物体の説明をしろよ、とりあえず人間なのかどうかから。
ユウカは颯爽と窓まで行くと閉めきっていたカーテンを開き太陽の光を部屋に届ける。するとその簀巻きの物体は「眩しい」って口には出さないけど眩しそうに手で(あぁ、手が出てたんだ…)顔があると思われる位置を覆う。
カーテン閉じたい理由も分からないでもないな。簀巻き状態の自分を誰かに見られたくないんだろう。どう考えても異常だから。それと、多分、デパートよりも高いこの病室からは屋上のヒーローモノのショーが丸見えというのも理由に入るんだろう。子供ながらに道路を挟んで非対称なこの部屋の雰囲気に違和感を持っていると思う。だってデパートの屋上にいる子供達は誰ひとりとして簀巻き状態のは居ないんだから。
「こっちがお姉ちゃんの友達のキミカ、それからナノカは知ってるわよね?後はコーネリアさんにメイリンさん」
いやいやいや、俺達の説明はいいから、まずこの簀巻きの…。
「あの、まず妹さんの紹介をしてよ…」
と俺はたまらず声にだした。
「ああ、これが妹」
やっぱりこの簀巻きか。
「なんでこんな事になってるの?」
俺は簀巻きを指さして言う。
「生まれてから殆ど家の外に出たことがないのよ、ヒキコモリなの。何度も無理に外に連れ出そうとしたんだけどうまくいかなくて、無理に連れ出すようにしてたら『人に見られたくない』っていう恐怖からか身体に色々巻きつけて自分を見えなくしてからでるようになったのよ。これでも前よりは前進してるのよ?」
見られたくないってアンタ、思いっきり見られるわそれは。
しかしそれにしても俺がこの学校で出会った中で一番普通キャラだったユウカにまさかこんな変な妹がいるとは…。しかもユウカは隙あらば最後の最後まで妹がこんな簀巻き状態なのをスルーしようとしてたからな。俺の眼力をスルー出来ると思うなよこのやろう。
「はいはい、妹の簀巻きの話はこれでおしまい」
おっーっと、そうは行かないぞ!
今まで散々俺やメイやナノカをレズだの変態だの異常者だの人外の者だの言っておきながら、こんな人外の妹を連れているという事をスルーして都合よく終わると思うなよこのやろう。
「人を紹介するのに顔が見えないのは変だよ?そして失礼だよ。妹さんの外側を覆っている卑猥な皮を剥いてあげましょう」
「ちょっ、駄目だったば!」
「なんでだよ〜?」
「嫌がるんだから!」
「そうやって甘やかすから駄目なんじゃん」
さぁ、これでどうだ。
甘やかすお姉さんはユウカにとっては汚点であるはず。
「わかったわ…」
それからはユウカvsユウカ妹との格闘が続いた。
「いやぁぁ!!(手をブンブン)」「おとなしくしなさい!」「やめてー!(ゴロゴロ)」「こら!恥ずかしいでしょ!」「さわるなー!けだものー!(足をブンブン)」で、足のギブスがユウカの頭に命中して、さすがのユウカもキレて妹の背後に周り、首の位置を締めてチョークスリーパーをキメる。その後、騒いでいた妹はベッドを手でバンバン叩いておとなしくなった。
ぐったりとした簀巻きの取り外すと中から出てきたのはユウカの子供バージョンによく似てる女の子だ。髪は茶色のロング。目はユウカと同じ栗色で、ずっと布団にくるまっていたせいか頬は真っ赤になっている。
「Oh、ジャパニーズロリータ!」
よくわからない感動をしているコーネリア。
なるほど、ユウカが簀巻きを取り外したくない理由が一つわかった気がする。このロリータは子供と大人の中間に位置する年齢で胸も膨らみ始めていて、そして腰もくびれができはじめてる。にも係わらず、ネグリジェでノーブラ、そしてスケスケの生地の下にあるのはセクシーなパンティー…なので異様に大人びて見えるのだ。確かにユウカにとってはこの妹は恥ずかしい。
妹さんは顔を俺達に公開したところで、こちらを睨みながらもゆっくりともぞもぞと身体に布団を包み始めて、気が付けばまた登場したときの簀巻き状態になっていた。