48 ラーメン一郎伝説 4

いよいよ俺達はカウンターへと座る。
俺達のロットには俺とコーネリア、メイリン以外にも豚が数匹。さっき俺達の背後にいたあの気に入らない野郎もいる。それらが店員を囲むように配置されたカウンターにぐるりと座る。
さっきのデブが言う。
「にんにく、野菜、油、からめマシマシ!」
「あいよ!」
店員とリズムよく意思疎通が伝達されている。
他のデブもそんな感じでトッピングの注文をしている。
メイリンも手を上げて、
「にんにく、野菜、油、からめマシマシマシ!!」
と言った。
デブ達がヒソヒソと話している。「おいおい、食えるのかよ?」とか「くせぇくせぇと思ったら女がいたか。化粧くせぇ〜。化粧した奴は一郎に来るんじゃねーよ」とか「女がここになんでいるの?超ウケる」とか「意味わかって言ってんの??」って感じで、全部罵倒である。
俺も何かトッピングしようと思ったけど食欲なくなってきたからいいや。
コーネリアも同じだ。
コーネリアは椅子に座る時に椅子までベトベトなのを見て、「Oh…My…God」と呟いて椅子に震えながら腰掛けて「Ahhhhhhh!!!気持チ悪イデーッス…」と言っていた。
もう彼女はこの店にいる事自体が苦痛っぽい。
店員は俺達の分のラーメンを用意して、カウンターにポンポン置いていく。どうやらロットっていうのはラーメンを一度に処理する単位でもあるみたいだ。店員がカウンターの中にあるテーブルの上に人数分のラーメンを並べてそこに色々と入れてるのが、カウンターの人数分ある。しかし…なんか入りきらない量の食材を突っ込んでるような気がするのだが…。
そしていよいよ、俺の目の前に一郎ラーメンがドンッと置かれた。
え?
「な、な、なんじゃこりゃああああああああ!!」
俺は松田優作も真っ青の『なんじゃこりゃ』を披露してしまった。
デブ達がクスクスと笑う。
「あ、あの、ラーメンの『普通』です。間違ってませんか?」と、俺は恐る恐る店員に聞くが、「え?これ普通だけど?」と店員は素に返す。
そこでデブ達、爆笑。
「こ、これが普通ゥ?」
俺は目を白黒させて目の前に置かれてあるラーメンを見る。
いや、ラーメンとこれを呼ぶべきなのだろうか。
少なくとも俺の目の前には「麺」がない。目の前にあるのは野菜やらネギやらチャーシューがまるでエベレストの頂上を思わせるように盛られたモノがある。これを掘り進んでいけば麺や汁に出会うことが出来るのか?
っていう事は…。
メイリン、大盛りを頼んでたな…。
「ドンッ」という音と同時に僅かな重力波を検知した。
それは俺の隣のメイリンの席に注文したラーメンが置かれた音だった。
彼女の目の前にあるのは子供の身長ほどの高さに詰まれてあるネギや野菜のマウンテン…いや、ビルディング…違う、タワーだ。
幸いにもタワーのてっぺんは見えてる。軌道エレベーターみたいにてっぺんが見えないタイプではないのは唯一の救いだ。
だがメイリンはプライドがあるのか表情一つ崩さない。スッと立ち上がるとタワーの頂上の野菜からもぐもぐと口に運んで食べていく。
執念なのかそれとも食い意地が貼っているだけなのか、貧乏性なのか、その全てなのかわからない。何が彼女をここまで突き動かすのだろうか。まるでバイキング形式の食べ放題レストランに来た貧乏ファミリーがここぞとばかりに沢山食って、食いきれず残してしまって罰金を支払ってしまうような、そういう恥ずかしい意味での変に屈折したプライドが伝わってくる。
次はコーネリアの所。
俺と同じで山盛りラーメンが「トンッ」と置かれた。しかしその時、ラーメンの上に盛られている野菜がテーブルの上にポロポロと落ちたり、コーネリアの膝の上に落ちたりした。それをまるで汚いものでも触れたように「Ouch!」と小さな叫び声をあげると手でパッパッパッパと払うコーネリア。あげくに「ウゥー」と唸って目の前のラーメンから目を背ける。
そして次から次へと豚達の、いやデブ達の元へとエサ…じゃなかった…ラーメンが届けられる。いよいよ俺たちは豚達の宴の目撃者となるのだった…。