48 ラーメン一郎伝説 2

俺達の順番が回ってきそうだ。
店の入口が見えてきたのだ。
スライド式の木のドアは新装開店なのに何故か昔からそこにあるようにも思わせる佇まい。古き良き時代のラーメン屋のソレだった。ただちょっと違和感があるのは入り口に自動販売機がおいてあって、そこで食券を買って中に入るらしい。
ん?それにしてもなんか臭いな。
…。
いや臭い。ほんとに臭い。
にんにく臭い。
ラーメン屋ってどこもそんな感じだよね。ただ一郎ラーメンの場合は何故か店から出てくる人もにんにく臭い。あと店に入る人も既ににんにく臭い時があるから怖い。
「Ouch!!Holy Shit!!」
コーネリアが鼻を指でつまんでからそう言う。
「臭イデーッス!!ウンコノ臭イガシマーッス!」
いやまぁ臭いけど臭い臭い言ってたら…。
案の定、並んでる奴らの視線がコーネリアに集中する。その時の視線といったらもう、なんだろ、「なんだよコイツ?」的な視線だ。普通の感覚なら臭いんだから臭いほうが「なんだよこのくせーのは」ってなるんだけど臭いって思う事自体が間違っている感だ。
「キミ、さっきから臭い臭いって、なんなの?」
「Wow!」
コーネリアの背後から声が聞こえた。
そこには180センチはあろうかという巨体…いや、デブが太陽の光を遮っていた。背中からはモヤモヤと熱気のようなものが見えてるから太陽の光を受けて体温が上昇し、汗を出して、その汗が蒸発している時にでる熱気である事が判る。
「Oh…臭ッサーイデーッス!!話シカケナイデクダサーイ!」
コーネリアはパタパタと手で顔の前を払って、何故かラーメンなどをまだ食べてないはずなのににんにく臭を漂わせる男の吐く息を吸わないようにしてる。
「キミ外国人?」
「ソウデーッス!」
その瞬間、デブはドヤ顔になって、
「困るんだよね〜。最近はこういうのが増えてさ。日本に旅行に来てアニメとか見た後に『マスコミが報道してたから』って一郎に来るって奴ゥ?いつから一郎は観光地にある引っ掛けの飯くい処になったんだよって感じだよ」それから俺達3人の女の子を指さしてから、「それに女の子がさぁ〜、来る店じゃないの、判る?わからないかな〜。この行列に並んでる客層みたらわかるっしょ?ここは女子会とかする場所じゃないっつーの。ロット乱さないでね。残したらギルティだぞ?」
うっぜぇ!
そのデブが話している間、ずっとコーネリアはパタパタと顔の前を仰いで臭い息を吸わないようにしていた。
ようやく俺達の順番となった。
店内は普通のラーメン屋と同じ。
カウンターが店員を囲むように設定されていて客がカウンターにみっちし並んで食べてる。
さっき男が言っていたように客層はどう見てもデブばっかり。体重はゆうに100キロを越えているであろう巨漢が普通の人が座ったらちょうどいい位のカウンターに並んで食べるものだから、ギチギチな状態で時々箸を持つ腕が隣の腕にゴツゴツと当たって音を立てる。
そこにいる誰もが汗をだらだらと垂らしていて、その汗が(ここからはラーメンの中身は見えないけど)ラーメンの中とかテーブルの上に落ちてる感じがする。
そして店内はどこもピカピカ。ピカピカっていうと清潔なイメージがあるけどもそういう意味で言ったんじゃない。油だ。油でテカっていてピカピカしてる。店内の壁、コンクリ、テーブル、人、全てが油まみれ。
マジかよ、キモイなぁ…。