44 メモリー・パッチ 3

俺は昨日に引き続いて警察を呼ぶハメになった。
廃病院の周囲にはまた警察の車両が並ぶことになり、そして地下室に警察が本格的に調査をするために足を踏み入れる事になった。光学スキャンだけではなく実際にライトアップされたその部屋を俺は見る事になった。おぞましい行為がそこで行われていた事を示す証拠がいくつも、そして、流し台に捨ててあった骨になった被害者の遺体が見つかった。
ほどなくして、ナノカとナツコが保護される。
この廃病院へと首吊り用と思われるロープを持って歩いてきたのをミサカさんに保護されたのだ。
「よくわかったわね、地下室の場所」
「幽霊っぽいのを見た気がする。そんでそれが案内したような…」
「なるほど」
ミサカさんが幽霊という存在を疑っているか、そうでないかはわからない。ただ、そんな俺の話も信じてしまうほどにこの場所はそもそも曰くつきだという事であって、何が起きても不思議ではないという事なのだろう。
「それにしても菅原さんと音無さんだっけ…どうしちゃったのあの二人は?ずーっと変な事をブツブツ言ってるし。こっちの話にも全然聞く耳を持たずで」
「あぁ、そうか…まだ回復出来てないって言うことか」
すっかり俺は何もかも解決したと勘違いしていた。
まだだ。
記憶の蓋はまだ空きっぱなしで塞がっていない。ナノカやナツコの心の中に現れた別の人格は物語が完結すると消えると言うが、今回完結したと思い込んでいるのは俺だけだからだ。
「ちょっと二人を連れてケイスケのとこに戻らなきゃ」
「え?何をするの?」
「そりゃ、あの変な二人を元の状態に戻すんですよ」
「元の状態…にねぇ…。うつ病みたいな感じになってるわよ」
「アレは取り憑かれてるんですよ」
俺は再びドロイドバスターに変身すると、二人をグラビティコントロールで固定して、そのまま空へと飛び上がった。
目的地はケイスケとクラスメートがいる病院だ。
数分後。
西本医院まで戻ってきた俺は変身を解いて、ナノカとナツコをみんなが居るところへと連れて行く。
「ああ!ナノカ!!大丈夫?」
クラスメートはナノカに駆け寄って話掛けるもナノカはガン無視。というより、目が座ったままブツブツと何かを言っている。こちらの言うことが聞こえていないのはユウカと同じ病状だ。
「それで、先生、これからどうするの?」
「多重人格者の人格に終了宣言をするにぃ。その為には、」
「自分が死んだ事を示す証拠が必要…ってこと?」
「ですにぃ」
俺はケイスケとクラスメートにさっき廃病院で経験した内容を事細かく、ちょっとだけ誇張して着色してから話をした。
その稲川淳二ばりの驚かせ方とサム・ライミばりのスプラッター風味の着色に女子生徒は泣き出すのを通り越して叫び、そして嘔吐して、失神した。特に脳みそが無くなった患者が手術台から立ち上がって看護婦の頭に噛み付いて、頭蓋骨を砕き、看護婦の脳みそを食べるシーンとなると、ホラー映画ではあまり驚かない方であるケイスケでさえ「うわああああああああああ!!!!」と叫び声を上げながら走りまわった。ちなみに俺の話の中の設定では脳みそを食われた看護婦もまたゾンビになり今、街はゾンビだらけで警察が応戦している事になっている。
「と、とにかく、キミカちゃんの中の記憶が鍵になりますにぃ」
と言った。
「ほほぅ。今の内容が?」
「今からキミカちゃんの記憶を取り出して、このイカレポンチ達の記憶とマッチングさせますにぃ。そうすると終了宣言と同じ事になりますぉ」
「へぇ〜。便利な世の中になったもんだねー…って、え?」
「え?じゃないですぉ」
ちょっと待てよ、俺が派手に着色した話が8割ぐらい嘘だって事がバレちゃうじゃんか。