43 ミッシング・ニューラルリンク 8

それにしても一つだけ疑問がある。
俺だ。
廃病院に行ったのに、どうして俺には何も起きてない?
「あたしも廃病院に行ったんだけど何も起きてないのは何故?」
と、疑問をぶつけてみる。
『それはキミカちゃんが人間ではなく、改造人間だからですぉ!』と俺の脳に直接通信が…。ぐは…そういう事か。そもそも脳の構造が全然違う俺には幽霊も侵入不可能だったって事か?
「いやいや、ちょっと待って!あたしの頭には脳みそが入っているんだよね…?あれ?脳みそは入ってるんじゃなかったっけ?」
通信をしていたのに突然会話になってしまった。周囲は「はぁ?」って顔になっている。まるで天然のお馬鹿を見るような顔で俺を見るクラスメート達。
ただ、俺のイメージでは、俺の脳だけを抽出してそれを弾丸も防ぐような強化骨格の中に入れて、そこにドロイドバスターとしての回路を接続したような、スペースオペラというかサイバーパンク的な何かを期待していたんだけども。
『実はキミカちゃんの脳みそはすっからカンですにゃん』
「すっからカンだとぉぉぉ!!」
俺はケイスケの肩を持ってブルンブルンと揺らす。グラビティコントロールも無意識に使っていたので体重が150キロはゆうに超えている巨漢を身長150センチもない女子高生が持ち上げる様はさぞ周囲をびっくりさせたであろう。
『ま、まぁ、そのへんはまた今度説明するにぃ…』
ぐぬぬ…』
「で、霊媒師でも呼ぶの?」
「まさか…」
「じゃそうやって治すんだよ」
「実は幽霊に取り憑かれた場合も多重人格障害と同じ治療法が可能ですにゃん。ただし、記憶が全て一つの脳の中にあるという通常の多重人格障害と違って、他人の記憶の断片が脳に入り込んでいる場合は治療の難しさが倍増するにゃん。別人格に現実を理解させて消滅させる方法をとるのが普通の治療法だけれども、その別人格が断片的な情報の集まりだと、自分が既にこの世には居ないという現実を理解させにくいにぃ。んで、そういう時に何をするかというと、記憶の断片を集めて完全にしてしまうという方法が一般的だにゃん」
なんだかよくわかんないけど、ケイスケに任せたら解決しそうだな…。
とりあえず、その記憶の断片を集めて補完するという事か。
と、その時、ケイスケの携帯からアニメソングが(とにかく絶対に普通の歌ではないアニメ声の歌が)流れて周囲をドン引きさせる。
「はい、こちら地球防衛軍
おいおい…。
「ほぇぇ?マジですかぉ?」
誰からの電話だろう?
「うーん…欠席でしたにゃん」
欠席?
ケイスケはしばらくしてから携帯を切る。
「どしたの?」
「菅原ペチャパイさんが家に居ないから、学校に行ってないのか?って両親から職員室に電話が掛かってきたにぃ」
嫌な予感がする。
俺は、
「メイのとこにも電話掛けてみなきゃ…って電話どこへかければいいんだっけ」
「メイ?」
「あぁ、寮だ。学校の寮の電話知ってる人いる?」
俺は他のクラスメートに寮の電話番号を聞いて掛けてみる。
メイの所在を知るためだ。
俺の予測だとナノカだけじゃない、メイも同じ様になってそうな気がしたのだ。
メイが前に話していた怖い寮長さんが俺の電話にでた。
どうやら話だと、メイはまた無断で寮からでようとしたらしく、寮長がメイを縄でぐるぐるに縛り付けたらしい。悪魔にでも取り憑かれたんじゃないかと思ったらしく、エクソシストを呼ぶべきなのかなどと考えていたらしい。しかしよかった、メイは無事か。で、後は…。
ん?
「あれ?ナツコは?」
俺はてっきりナツコはクラスメート達とここに来てるもんだと思っていたんだが、居ない。
「まぁ、あれは別にいいですぉ」
「いやいやいや、ヤバいって」
「どこがどうヤバいのかオジサンに手取り足取り教えて欲しいにゃん!あんなクソ妹なんて呪われて別人格になったほうが世界が平和になるにゃん!若くして死んだ可愛い幼女の霊に身体を乗っ取られたら『おにいちゃーん』とか行って毎朝ベッドまで起こしにきて操縦桿を握って天国まで運転していってくれるにぃ…フヒヒ」
そうか。手と足で天国へ送ればいいんだな、このデブを。
と俺がボキボキ手を鳴らすと、
「と、いうのは冗談ですにぃ、どうしてキミカちゃんはそんな怖い顔をするのですかにぃ、ふひひ…」
と冷や汗を垂らしながらデブは言った。