43 ミッシング・ニューラルリンク 7

俺は昨日の経緯を話した。
ユウカ、ナノカ、メイ、そえから俺、ナツコの5人でパーティをして余興で心霊スポットに向ったこと。そこで死体を見つけてしまった事。などなど。俺も俺で普通に話せばいいものをどうせなら楽しんで貰おうと思って稲川淳二ばりに驚かそうとしたわけで、女子の中には泣き出す奴もいて、何故かケイスケも泣き出して本当に面白かった。もうちょっと着色しようと思ったけど時間もそれほどないから仕方がない。
「まぁ涙拭けよ」
と俺はケイスケにハンカチを渡そうとするとケイスケはそれをパシッと振り落として、
「こんんんんんのリア充がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
と泣きながら俺の肩を持っていつものように上下左右にブルンブルンと振り回した。なんだ、怖くて泣いてたんじゃなくて俺が女子と一緒にリア充っぽく飲み会して心霊スポットに行ったのが悔しくて泣いてたのかよ。
女子の中には本気でユウカが幽霊に身体を乗っ取られているんじゃないかって思ってる奴もいて、冗談抜きで面白い。先生(ケイスケ)に駆け寄ってきて「先生!絶対に幽霊に身体を乗っ取られてるんですよ!」とか真顔で言う。
「あはは、そんな事あるわけn」
と俺が茶化そうとすると、
「幽霊に身体を乗っ取られてますにぃ…」
と真顔でケイスケが言う。
「ちょっ…」
マジで?
「幽霊って、いや、まさか…」
「キミカちゃんは人間の脳の構造がどんな風になっているか知っていますかにぃ?」
「ん〜…っと。たしか脳細胞がシナプスで繋がっていて…それが動いて血液で体内をぐるぐると循環していて、最後はおしっこになって体外で放出されるんじゃないっけ」
「…」
え?違うの?
クラスメートの一人が俺に言う。
「それだけとおしっこしすぎると脳みそがからっぽになるじゃん…」
「え?あたし、おしっこしてる時にぼーっとして脳みそからっぽになった気がするよ」
「…」
気をとりなおしたようにケイスケは説明を続ける。
「人間の脳には生体電流が流れていますにぃ。それが記憶を作り出したり、思考したり、神経回路からの情報を受け取ったりしますにぃ。つまり、生体電流は人間の脳で重要な役割をしていますにゃん」
「ああ、うん、生体電流ね。あれはいいね。しつこくなくて」
「…」
「…」
「その生体電流は実は外部からの干渉も受ける事が分かっていて、そして外部へ干渉する事もわかっていますにぃ。いわゆるテレパシーなどの原理もそこにあるのだというのが最近の研究で判ってきていますにゃん。で、どこで幽霊とどう関係するのか…」
「(ごくり)」
クラスメートの意識がケイスケに集中する。
「コンピュータが扱う電子データはそれぞれが何かの組み合わせで、一見すると無意味な羅列のようにも思えますが実は意味を持っていますにゃん。人間の遺伝子もタンパク質の羅列だけども意味がありますにぃ。つまり、生体電流もそれぞれ意味があって、それが外部から干渉を受けたり、外部へと干渉を与えることが分かっているという事は、人間から人間、人間からモノ、モノから人間…という風に、一見すると無意味に思える電流のやり取りが実は記憶や感情などのデータを送受信している事になっていると」
「えーっと、つまりその…」
「キミカちゃん達が昨日行った廃病院では本当に人が死んでいて、その人達…もしくはその廃病院が病院として運用されていた時代からの様々な記憶や感情などが、生体電流としてそこに蓄積されていたとして、それを受信してしまった可能性もあるにぃ。人はそれを霊障という…」
「いやいや、ちょっと待って、身体を乗っ取られるって言ったってさ、脳みそが無いものが脳みそがあるものを乗っ取れるのかな?ただのデータでしょ?」
「コンピュータも記憶を司るメモリと処理を司るプロセッサに別れているにゃん。それはそれで人間とはちょっと違いますが、考え方はほぼ同じですにゃん。人格というのは感情や記憶などの複合から創りだされるものですにぃ。つまり、今、ビッチさんをビッチさんとしてこの世に存在させているのはビッチさんの記憶であって、もし記憶がごっそりと入れ替わってしまったらもうそこにいるのはビッチさんの姿をした別人なんですにぃ」
「つまり…多重人格というのは…」
「そう。今、ビッチさんの頭の中には、あの廃病院にあった残留思念の一部のデータが混在していて、それが中途半端に別人格としてオンライン状態になっている為に、ビッチさんの体内の神経回路を遮断しているわけですにぃ。彼女が見ているのはひょっとしたら、その別人格の記憶なのかも知れませんにゃん…南無阿弥陀仏
いやいや南無阿弥陀仏じゃないって。
これは大変な事になったぞ。