43 ミッシング・ニューラルリンク 6

担任のケイスケとクラスメート達でぞろぞろと向かった先は市内にある病院だ。看板には「西本医院」と書かれてあるだけで、そこが個人の病院だという事だけは分かるが、そもそもどういう病気が専門だとかがどこにも表記が無い。
相変わらずそわそわと周囲を見ていたユウカだったが、西本医院前に来たとき今までにない反応を見せる。
そのまま逃げようとしたのだ。
クラスメート達に羽交い締めにさせられるがそれでももがく。っていうか、それでもラグビー部顔負けの凄まじい勢いで逃げようとする。どこにこんなパワーがあるんだろうっていう。クラスメート達も女子だけでなく男子も参加でユウカを逃がさないようにする。
「ユウカ!病院で観てもらうんだよ!」
言い聞かせるも逃げる。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」とか叫びながら逃げようとする。
しょうがないので俺がグラビティコントロールでユウカ全員をガチガチに固めて、あたかもユウカの意思で歩いているかのように身体を動かした。クラスメート達もそれを見てやっとユウカが言う事を聞いてくれたんだと安心する。実際は俺が操っているだけだが。さらに叫ぼうとするので口もガッチリと締める。右手を前に持って行く時に右足を前に出してしまったが、まぁしょうがない。俺もこういうのは初めてなもので。
ケイスケは病院に入るなり、看護婦や医者を呼んで何か財布から出して一言二言話した。本当に医師免許があるっぽい。
「キミカちゃん、お願いしますぉ」
「え?」
「暴れないようにそのままで」
「ああ、うん」
薄暗い廊下を進むと初めてこの病院が何の病院なのかが分かった。ここは精神病院だ。看板に何も書かれていないのが何故か分かった。ただ、俺が想像していた精神病院は廊下に鉄格子がある部屋がいくつもあったりとか、ヘッドギアを付けた患者がウロウロしているとかそういうのだけど、ここはぜんぜん違うな。患者がいない。いや、居るんだろうけど外来者から見えない場所にいるんだろうか。
そのまま手術室みたいなところへと入っていく俺達。
椅子があり、その上には頭にかぶせる何か?の装置がある。やっぱり、椅子の肘置きの部分は暴れないように守るためのバンドがくっついてる。
俺はユウカをそこに座らせた。
看護婦さん達が来て、手を縛り、身体を縛り、首に何か注射?のようなものをするとものの1分ぐらいでユウカはぐったりとした。
クラスメート達が見守る中、ユウカは眠った。
「この機械で頭の中を見るの?」
「ですにぃ」
ケイスケは機械に繋がっている端末を起動して、何やらカチャカチャとキーボードを打ち込んでいる。暫くすると機械にスイッチが入ってチカチカと光がユウカの頭に被せてあるヘッドギアの部分から漏れる。そんな様子を心配そうに見守るクラスメート達。
「何か分かった?」
ケイスケの見ているモニターを見てもなんもわからない俺が一言ケイスケに聞いてみるわけだが、「ん〜」と唸るだけで答えがでない。
「うううむむむむ!分かった!!」
「分かった?!マジで?」
「人格が二つあるにぃ」
「マジで!!」
「多重人格者…サイコ野郎ですァ!」
「いいから、どうすればいいのかだけ聞かせて…」
「多重人格者…というのは、実は普通の人間でもそうなのですぁ」
「え?そうなの?」
「人によって態度をころころ変えるクソ野郎とかも多重人格なのですにゃん」
「それは…違うような」
「多重人格、というのはこの人によって態度を変えるっていうのが、人によって人格を変えるところまで発達してしまったケースを言うのですにぃ」
「なんか真面目な話ですね…(白目」
「よく幼い頃に両親の虐待にあっていた子どもが多重人格になったりするにぃ。それは虐待を受ける役割の『人格』を作る事で現実から回避してるんだにぃ。受けた虐待の数が多いほどどんどん人格を産み出して回避しようとするけども、大人になってからそれらの人格が現れて今度は自分自身を攻撃しようとするんだにぃ」
「自分自身を攻撃するのはなんで?」
「虐待を受けてきた人格にとっては、何も起きず平和に大人に成長した本来の人格がムカつくんじゃないですかにぃ」
「なるほど…っていうかユウカは虐待をうけてきたってこと?」
話を聞いていたクラスメート達は不安そうな目でユウカを見る。
「今のは一例ですぉ。他にも色々な理由で多重人格になりますにぃ」
「その理由がわからないと、治すのが難しい?」
「まぁ、そうですにぃ…」
「ナツコも変だし、ナノカは休んでるし、ユウカもこれだし…昨日から一体どうしたんだろ?」
「あああ!!!」
「うわ!!びっくりした。なんだよもぅ…」
「それですにゃん!」
「はぁ?」
「昨日から変だから昨日何かが起きたにぃ」
いや、それ最初から俺が言ってるじゃん…。ナツコも変だって…。