43 ミッシング・ニューラルリンク 5

「先生、菅原さんどうしちゃったの?」
不安そうにクラスメートの一人が聞く。
ケイスケは、「チミには高校の担任である僕チンが医者か何かにでも見えるのですかぉ?」とかドヤ顔で言ってる。それに対して「チッ…」と普段のような反応を見えるクラスメートの女子。しかし、さっきからのケイスケの反応を見てると何か分かったのではないかと思っても仕方ない。
「ねぇ、先生、マジで何か分かったの?」
と俺が聞いてみると、
「ん〜…菅原ビッチさんは意識が無いですにぃ」
と言った。
「え?意識が、え?」
さっきまでザワザワしていたクラスメート達が静まり返り、俺と同じ様にケイスケの話に耳を傾けている。
「普通は人間というものは脳と神経回路が繋がっていて目から入ってくる光や周囲から聞こえる音に反応するけども、何らかの理由でその回路だ切断した状態になってしまうとこんな感じに外部からの刺激が脳に入ってきてない状態になるんですにぃ。ちょうどヤクをやってる人がそうであるように。そういう時に脳は何をするかっていうと勝手にその刺激を自分でつくりだして自分で刺激を感じる…つまり、ヤクをやっている人間はヤクによって外部の刺激を切断させて、脳が作り出す幻覚を見たりするんですにぃ。普通はヤクには興奮剤も入ってるのでいい感じの妄想が頭に流れてくるけども、ヤクが切れてくると興奮剤がない状態で幻覚が見える…つまり、脳の奥にある不安や恐怖が前面に幻覚となって現れる状態になるんですねぃ」
「えっと…つまり…」
「こんのヤク中ビッチがぁぁぁぁ!!」
とケイスケは怒号のパイ揉みをユウカに食らわせる。
今度は俺以外の人間も協力してケイスケの頭に「なんでやねん」とげんこつを食らわせる。
ケイスケは身長180以上あるその巨体をぶわーっと上にのし上げて「うがぁぁぁぁ!グーで殴ったな…親父にもグーで殴られた事ないのに!!!」とか何かのアニメのキャラの真似をしながら「今ので脳細胞が1億6千万8765匹死んだぉ!!」と怒り始めた。っていうか死んだからどうなんだよと。
「キミカちゃん!」
今度は俺の両肩をがしっと掴んだケイスケは、
「死んだからどうなんだよとか思ったのかにぃ?!」
「うん。何故にわかった?」
「死んだら葬儀に出さなきゃいけないにゃん!」
「出せばいいじゃん…」
「にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
ケイスケは俺の頬を両手で挟むとそう叫んだ。
「ユウカはどうするんだよ?」
と俺はケイスケに挟まれたままの口で聞く。
「ユウカさんは黄色の救急車で鉄格子つきの病院へ搬送されます…」
「おい」
「黄色かどうかはおいといて、頭がイカレポンチになってますぉ」
この発言の後、教室ではクラスメート達がユウカの肩を掴んでブルンブルンと振って「ねぇ、大丈夫?ねぇ?ねぇ!!」「ユウカー!」「しっかりしてよ!」「どうしちゃったんだよぉぉぉ!」などと叫んだり泣いたりする大騒ぎに。
「先生!なんとかならないの?」
と泣きながらケイスケに問いかけるクラスメート達。
「実は先生、こう見えてもお医者さんの資格があります」
とメガネをキリリと上に押し上げるケイスケ。
それは初耳だ。
「え?マジで!凄い!!」
「ふっふっふ…日々お医者さんごっこをして鍛えております。フヒヒ」
などと言うケイスケに対して、
「キミカー」とクラスメートが言うので、俺は手をバキバキ鳴らしながらケイスケの頭を殴る準備態勢に入る。
「待て!待って欲しいにゃん!話せば判る!」
「問答無用」
「専用の機械があれば解析できるにぃ!」
「専用の機械ぃ?どこにあるの?」
「お医者さん」
「そりゃそうだろうけど…」
「よし、それでは課外授業を兼ねてお医者さんにいきましょう。そしてお医者さんごっこをしましょう。フヒヒ」とニヤニヤしながら言うケイスケ。
まぁ本当にお医者さんに行こうとしてるっぽいのでこれ以上はツッこまなかったが、課外授業と表してクラスメート達をぞろぞろとお医者さんまで連れて行くって許可貰ってなくていいのか?まぁ、クラスメートも落ち着かないから勉強には手がつかなさそうだが…。