43 ミッシング・ニューラルリンク 3

翌朝。
俺がケイスケの作った朝食をもぐもぐと食べていると、気配がする。
その時一瞬テレビにノイズが入りニュースが途切れる。
ぐぬぬ…このクソボロテレビですぉ!!うきー!」
ケイスケが短い足をテレビに向けて蹴ろうとするもギリギリで届かない。
「うりゃ」と、俺はグラビティコントロールでテレビを叩く。
と、同時に、ノイズが消えた。
さっきの気配はナツコだったようだ。その日もいつものように低血圧な眠い眼でゆっくりと階段を降りてきたナツコだったのだが、あまりの様子の変貌っぷりに昨日全然ナツコの事を気にも止めなかったケイスケでさえ食べていたパンをポロっとテーブルに落としてしまった。
ナツコはあの黒髪を前、後ろにたらしてて「いや、きみそれ前見て歩いてないでしょ…」って言おうと思ったぐらいにあからさまな視界不慮の状態で歩いてきたからだ。そして椅子に座ると静かにパンをとっては食べ、とっては食べ…と、この行動もまた驚かせたのだ。だって普段は朝ごはんは喉に通らないからって食べないんだもの。
「ナツコ、ちゃんと目に見えてるの?」
と、俺は聞いてみた。
ナツコはパンをとっては食べていたわけだけど、普通、前髪が顔を覆い尽くすぐらいに垂れてると前は見えてないって思うじゃん。俺は心眼道を習ってからは目をつむった状態で気配だけで周囲の物体がどこにあるのかとか分かるけどさ、ナツコがそれをやってのけてるとは思えない。
そして俺の質問は無視だし…。
「幽霊のマネとかやめて欲しいにぃ!」
ケイスケが怒る。
普通、ここでナツコは何かしらの冷たい言葉で反発するものだけど、今日はそのまますっと立ち上がると、ゆっくりと廊下へと歩いて行く。あまりにも身体が上下しないので歩いているというよりも浮いているという表現が正しい。そのまま静かに外へと出ていって学校へと向かっていってしまった。
「ねね、変でしょ?変だよね?」
昨日の質問を再びしてみる。
「あいつはもともと変だったんですぉ!!」
「それは認めるけどさ…」
「むしろ静かになってせいせいしたにゃん!」
「静かっていうか…その…不気味…」
ぐぬぬ…たしかに」
それがこの日の朝の事だった。
学校に到着してから、俺は更に事態が悪化している事に気づいたのだ。