43 ミッシング・ニューラルリンク 1

結局あの後は色々と大変な事になった。
日々、軍や警察の人と一緒に事件を解決したり、テロリストやら犯罪者と戦っている俺の中では大変ではなかったけど、今回は非番の中でそういう事が起きたからとにかく面倒臭いのなんのって。
あの診察室の中で誰かが首を吊って自殺していた。
俺達がそこへ来てドアをこじ開けようとした時、その腐りかけの遺体の首と身体の部分をドアによってぶち切ってしまったわけだ。あのくさい臭いも、ドアから滲みでていた不気味な黒いドロドロとした液体も、全て部屋にあった死体が腐ったものだった。しかも1体だけではない。警察がドア及び壁をぶち破って部屋の中に入るとそこら中に首吊り遺体がぶら下がっていた。
いやぁ…あの時部屋に入らなくてよかった。
もし他のメンツが部屋に入っていたら叫ぶ程度では済まなかったはずだ。
失神?失禁?いや、心臓麻痺とかなってたら大変だよ。
「で、ここで何をしてたの?」
俺の目の前には俺がよく知る警察関係者、ミサカさんがいた。
何故俺が事情聴取を受けているかというと、まともに話せるのがこのメンツの中で俺だけだからだ。ナノカはさっきから放心状態、ユウカは俺よりも図体が大きいくせにしくしく泣いてるし、メイはメイでブツブツ何か言ってるし、ナツコも自らの身体を抱き抱えるようにしてガタガタ震えてる。普段落ち着いてて幽霊関係のを扱っているビデオを見ても全然平気で、むしろもっと見たいなんて言ってたナツコがこの状態なのはさすがの俺も驚いた。
そして警察に説明するのは2度目なんで、かなーり疲れた風に俺はミサカさんの質問に答える。
「もう2度目なんですけど…」
「2度目?」
「さっき別のおまわりさんが聞いてきた」
「わかったわかった。とりあえず話しして」
「心霊スポットに遊びに行こうと思ってそれでここに来たんですよ。ナツコの案内で。そしたら死体がぶら下がってて」
「他に誰か見なかった?」
「いや、全然」
「ほんっとにもー。ただでさえ忙しいのに事件を増やして…もう」
「自殺でしょ?」
集団自殺ね。まだ身元を正確に割ったわけじゃないんだけど、身分証やら持ち物から推測するとあの診察室で死んでたのは市内の精神病院の患者だった人達らしいわ」
「うわ…これでまた都市伝説にハクがついちゃったね」
都市伝説では衰弱死ってなってたけど、今回は自殺か。
「都市伝説ゥ?」
どうやらミサカさんはそういう事には疎いようだ。などと俺が考えていると、「何?それ?どうせ話しても無駄だろうな的な顔は?」とミサカさんは俺の顔を覗き込むように睨む。
「えーっと…噂だとここが心霊スポットになった理由っていうのが…」
とナツコから聞いていた話をそのままミサカさんに話した。
ミサカさんはにが虫でも噛み潰したような顔をして、
「ん〜…そんな話は聞いたことないわね…まぁいっか」
聞いたこと無い?
ここの警察の管轄の話だと思ったんだけど違うのか。まぁ複数の市が跨っているところでもあるし、それにミサカさんが地元の警察に古くから居るわけでもないしな。
「とりあえず保護者読んでおいたから、連れて帰ってもらいなさい」
保護者という言葉を聞いてナツコがさらにガタガタと身体を震わせて「お父様?お父様を呼んだのですの?」とミサカさんの袖を掴んで離そうとしなかった。まぁ呼んだのはお兄様のほうだったけどそこまでビビらなくてもいいだろうに…。
しばらくしてからそれぞれの親が来た。
あぁ、メイの場合は親は遠くにいるわけで、つまり女子寮で生活しているメイを迎えに来たのは寮長と呼ばれてる人で、門限を破ったメイにキツイお仕置き(尻たたき)をしてから、ぐったりしたメイをまるで死体を突っ込むように車の後部座席に放り込んで連れて行った。